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第63話 あなたの本気をみせて、ですわ!

 ジュスティーヌはカイトにアドバイスを送った後、一人立ち尽くすレナードの元へ行った。彼に同情したわけでもなんでもなく、せっかくだからこの男の本気を見たいと思ったのだ。


「レナードでんか!」


 愛する妻ではないのだが、彼がそう思い込んでいるジュスティーヌに声をかけられて、ようやくレナードは我に返った。


「つ、妻よおおお。おれは卑怯な男だったああ。離婚しないでくれええ」


 レナードは急に号泣しだした。よほどカイトに言われた一言がショックだったのだろうか。


「殿下、明日の決闘の相手ですが、ランキング上位者に決闘を申し込んでくださいな。ジョンピーごとき小物では殿下も思う存分実力を発揮できないでしょ? わたくし、殿下の本気がみたいですわ」


 ふふふっ。男性の好意を利用して、より過酷な戦いをけしかけるとは、わたしも悪よのぉ~。


 このジュスティーヌの一言で、先日マグロを口にしてしまった戦闘技術科の生徒たちはホッと胸をなでおろした。これで自分がターゲットにされることはなくなった。


 一方、その場にいたランキング上位者たちは身が引き締まる思いだった。レナードはいつかは倒さねばならない相手だ。胸を借りるつもりで、ここで一度手合わせをするのは決して悪いことではない。


 愛する妻に本気で戦えと言われ、先ほどまでの号泣はなんだったのだろうかというぐらい調子づくレナード。


「うおおおお! 格闘キングのレナード様と決闘したい奴は名乗り出てこい!!」


 それを聞いた皇子の剣同盟所属でランキング上位者は「ここは私が」「いや、俺こそが」と相談をする。結局、間を採って、ランキング8位のオクタビオが明日の対戦相手として立候補した。


 そう言えば、今回のレナードの決闘を生徒会長、副会長、ソフィーの3名は見に来ていない。ソフィーも、自分のファンクラブの幹部なんだから、ジョンピーの決闘ぐらいは見に行ってあげればいいのに。よっぽどレナードが苦手なのだろう。じゃあ、生徒会長と副会長は? 当然この二人もランキング上位者である。レナードの決闘が気にならないのだろうか。


 そして、翌日の放課後。今年度始まってから初のSランク同士の対戦とあって、第二武術訓練所には多くの生徒が詰めかけていた。


 最前列いい場所に陣取っているジュスティーヌの隣にはカイトたちクラスメイトのほか、反対側にはオリビアや、ジャーナリズムクラブのメンバーが座っていた。


「戦の女神たる麗しの妻よ! この決闘の勝利をあなたに捧げよう!」


 レナードはジュスティーヌの姿を見つけると、駆け寄り、胸に手を当てて誓いを捧げる。


「レナード殿下。そんなことよりも早く脱いでください」


 カイト他ジュスティーヌの近くにいたメンバーは自分の耳を疑った。


「な、何を?」


 脱げと言われたレナードではなく、カイトが質問を返す。


「制服をですわ。ぱっつんぱっつんで今にも破けそうじゃないですか。そのシャツを着たまま決闘して、上半身の動きが妨げられたらもったいないでしょ?」

「ああ、そういうことか……」


 レナードに制服をほぼ無理やり着せていたのはカイトである。なんとなく兄のあの鍛え上げられた肉体を、ジュスティーヌにあまり見てもらいたくないと思ったからだ。


「さすがは、俺の妻だ! よくわかっているじゃないか!」


 そういうとレナードは乱暴にシャツを脱ぎ捨てた。いつものノースリーブになると肩をぐるぐると回す。これで準備万端だ。


 今日はさすがに生徒会長たち3名の姿もあった。ソフィーは随分とつまらなそうな顔をしていた。レナードも応援したくないし、皇子の剣同盟も応援したくないのだろう。


「これより武術鍛錬クラブ部長エドマンド・ジョイフィールド立会いの元、レナード・フィデリスとオクタビオ・サンチェスの決闘を行う」


 Sランク同士の決闘なだけあって、立会いも武術鍛錬クラブの部長である。この部長自身も当然ハイランカーである。立会人は、決闘を最も近くで見ることができるいわば特権保持者であった。


「両者武器、と拳を構えよ」


 お決まりの口上の後、二人は宣誓する。


「Go Fight!」


 開始の合図とともに、オクタビオはレナードに剣で連続の突きを浴びせる。レナードはその多くを避けるが、たまに魔力で強化した自らの拳で剣をはじき返した。


 ジュスティーヌもインパクトの瞬間、自分の拳に魔力を込めることはある。こうすることで攻撃のパワーを増強し、一方で自身の拳を防御することができるのだが、どうしてもちょっとした隙というか間が生じる。しかし、レナードはそれをほぼ無意識に行っているようだった。彼の修行の為せる業なのだろう。


 オクタビオは前回ジュスティーヌが対戦したうーたんとは異なるタイプの剣士だった。


 力押ししてくるうーたんに対して、オクタビオは割と技巧派だった。うーたんよりもオクタビオのほうがランキングは下だが、明らかにこっちの剣士の方がやりにくいとジュスティーヌは感じた。


 レナードは相手の攻撃3~5回を防ぐのに対して一度攻撃を繰り出し、それをほぼ確実にヒットさせていた。相手も技巧派なだけあって、攻撃が飛んできたときの防御への切り替えが早く、ダメージは浴びるものの致命傷は受けずにいる。


 見ごたえのある決闘だった。


 だが、それもおそらく次の一撃で終わりだ。明らかにオクタビオの攻撃が鈍ってきて、レナードの攻撃に対応しきれなくなってきていた。


 レナードは一歩距離をとると、右手の拳に力を込めて最後の一撃を繰り出した。


「愛妻アッパーラブトルネードパーンチッッッ!!」


 レナードの妙な技名の叫び声と共にその拳がオクタビオの顎に直撃し、彼は天まで舞い上がった。


 レナードの勝利である。

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