第61話 恋愛の女神の啓示が下りましたわ。
鼻血を出して倒れたレナードは、カイトと同じハート寮の男子たちによって無事、部屋に運ばれていった。
ジュスティーヌとアカネはジャーナリズムクラブに顔を出していた。ここにくると必ずと言っていいほど、部長のハッサンと副部長のオリビアがいる。そして、今日も例にもれず二人はジャーナリズムクラブの活動部屋にいた。
ジュスティーヌたちはその場にいたメンバーたちに、先ほどの残りのマグロ料理を振舞った。ハッサンの実家は海運にも力を入れているようで、大喜びだった。
「ちょっとちょっとちょっと! 姫様、ついにあの暴走王子を手なずけちゃった感じ!? アルフォンス殿下とどっちが本命? って聞くまでもないかぁ」
オリビア先輩も十分暴走気味だ。
「はあ、それはそうと、今日はお二人に相談があって。かくかくしかじかなのですが」
ジュスティーヌは恋愛相談の手紙への返答の場所として、学内新聞を利用したいという相談をした。
「いいと思うわ! 姫様は学園が誇る二大強者を虜にした女だから、十分説得力もあるだろうし! うん、面白いと思う」
「ですが、オリビア先輩、一つだけ問題がありますの」
「なになに?」
「わたくし、恋愛の女神と言われているけれども、恋愛経験がないんですの」
「なにをおっしゃる! では、こうしましょう。私が質問をするので、姫様はそれにお答えください。そこから出てきた答えを、アカネっち、あなたが記事にまとめなさいな」
「わ、私がですか!?」
「こうすることで客観性が担保できるしね。姫様だけの問題ではなく、ジャーナリズムクラブとしての意見ってことにもできるし」
「なるほど」
こうして、オリビアの提案で、彼女がジュスティーヌの言葉を引き出し、アカネがそれを記事としてまとめ上げるということになった。まずは、恋の始まり、「出会い」をテーマにして記事をまとめることになった。
というのも、ジュスティーヌの元に寄せられた相談の多くは、3つの類型に分けることが可能だった。一つ目が「素敵な出会いがない!」というもので、二つ目が「相手の気持ちが分からない――相手の気持ちの確かめ方」で、三つ目が「相手の気の引き方。要するに口説き方」に関する相談だった。
「では、姫様、できるだけ正直に答えてくださいね。姫様はアルフォンス殿下と初めて会った時の第一印象は?」
「本当の最初は子ども時代で、その時のことはよく覚えていないので、本当の最初ではないですが、デビュタントのとき彼を見て、容姿端麗な大国の皇子だから、売名のために利用してやろうと思いましたわ」
ジュスティーヌはオリビアの要求通り、自分の思いをオブラートに包むことなく直球で答えた。
「姫様は正直で素晴らしいですね。なるほど。とりあえず、第一印象は最高ということですね。では、その後、実際の彼をどうみましたか?」
「変態だと思いましたわ。あと、腹黒」
「本当に姫様は正直でいらっしゃいますね。アルフォンス殿下を変態だと思っているのは姫様だけだと思いますよ。腹黒は、確かにそういう面はあるかもしれませんね。とても頭の回転が速くて、人当たりがよいので。計算してそうしているといえなくもないですからね」
ああ、それにファーストキスの予約をすることで姫様をじらすだなんて、それだけでもう素敵すぎる腹黒だわ!!
「では、次にレナード王子の第一印象は?」
「変態ですわね」
「それには皆が完全に同意するでしょうね」
オリビアだけでなく、聞いていたすべての人がうんうんと頷く。
「今でもレナード王子をただの変態だとお思いで?」
「うーん、今は、まあ変態なことは変態だけど、純粋で案外かわいらしい一面もあると思っていますわ」
「ほう! あの生ける凶器のレナード王子をかわいらしいとおお!! これは、アルフォンス殿下が変態だというのと同じぐらい貴重な意見ですね!」
オリビアはジュスティーヌの言葉に舞い上がった。
「オリビア先輩!! 私、気が付きました! 恋とは、自分にしか気が付けない相手の一面を知ることなのでは!?」
こちらも恋愛とは無縁に生きてきたアカネが、オリビアとジュスティーヌのやり取りから、目から鱗が落ちたかのように恋について語りだす。
「そんな特別を見つけてしまったら、もう好きになるしかないというか! それに裏を返せば、それだけ相手をよく観察しているということだと。姫様とオリビア先輩のおかげで、私に恋の女神のお告げが下った気分です! 私、書きます!!」
こうしてアカネが書き上げた恋愛の女神プリンセスJさまの啓示文がこれだ。
『出会いがないですって。それは本当かしら? あなたの周りをよーく観察してみて。えっ、隣にいる男子が意地悪ですって? 本当に彼は意地悪な男なのかしら。
よく考えてみるといいわ。どうして彼があなたに意地悪なのか。意地悪をすれば、彼はあなたの心に残る。あなたと話す機会が得られる。そう、それはあなたにしか見せない彼の一面。あなたしか知らない彼の別の顔。そう思わない?
よく言うでしょ? 好きの反対は嫌いではない、無関心よ。ほら、今まで何とも思っていなかったあの人があなたの心を占めているのではなくて。
出会いは、恋は、必死に探した結果、得られるものではなくってよ。気が付いたらそこにあるものかもしれないわよ』
恋愛の女神プリンセスJさまの啓示を目にした学園生たちは、思いがけない恋の花を芽生えさせた。そして、気が付いたら、まさかのカップルが次々と誕生するという奇跡が起きたのだった。




