第60話 イカはいいから、次はタイが食べタイですわ。
エッチを連発しながらジュスティーヌとレナードを責めていたソフィーだったが、レナードたちが戻って来そうな気配がしたので、逃げるようにその場から離れた。
ほどなくして、レナードたちは包丁などの道具と大勢の人を引き連れて戻ってきた。大魚の解体を手伝うと自ら手を上げてくれた厨房スタッフや、漁村出身の生徒たちだった。その中にはアカネやPJL33のメンバーもいた。
レナードは、血抜きや、エラや内臓を取り除くといった下処理をすでに済ませていたようで、一応大魚は冷凍されていた。といっても、レナードが背負って持ってきたので、表面は少し溶けかかっていて、それが生臭さの原因となっていたのだが。
厨房スタッフたちは手際よく外のテーブルにシートをかけて、大きなまな板を設置する。見たこともないような大きな包丁を使ってレナードたちは魚を解体していった。
レナードが素手で解体しなくてよかったと思いながら、ジュスティーヌは魚が分解されていく様を見守っていた。いや、まぁ、若干、素手で解体するところも見てみたい気もするが……。どう考えてもミンチになってしまう気がする。
いつの間にか隣に来たアカネが、舌なめずりしながら話しかけてくる。
「めちゃくちゃおいしそうですね」
「わたくし、こんな大きな魚をみるのははじめてよ。これは何という魚なの?」
「これはおそらく、南海ジャイアントマグロですね! マグロの中の王様ですよ」
「へえ、どうやって食べるものなの?」
「いろいろですね。私の国では新鮮なものは刺身といって生で食べますよ」
ジュスティーヌは切り身になった白身魚のソテーやポワレ、ムニエルは食べたことがあるが、生の魚なんて食べられるのだろうかと思う。
そういえば、グリズリーのポーちゃんがよく森を流れている川で魚を獲って食べていた。やさしいポーちゃんがそれを分けてくれたことがあるが、生臭くてとても食べられなかった記憶がある。
食べ方の話をしている横で、厨房スタッフたちは解体されたマグロの一部を厨房に次々と運び込んで早速調理に入っているようだった。
カルパッチョやたたき、ソテーや唐揚げのほか、ツナサラダやツナパスタなど様々な料理に生まれ変わって登場した。そして、その場にいたみんなで楽しく仲良くそれを食べた。
「プリティエンジェルな妻よ! 俺が獲ってきた海の幸は気に入ってもらえたかな? いや、いいんだ、礼には及ばん。ははははっ」
まぁ、まだお礼は言っていませんが……。あと妻がデフォルトになっています、レナード殿下。
「愛しの妻よ! 次は何が食べたい? サケか? タイか? それとも甲殻類か? 貝類もいいぞ。俺は漁が得意なんだ。愛する妻のためならば、なんでも獲って来てやるぞ!」
「ご馳走様でした、殿下。そうですね、もしまた何か獲ってきていただけるならば、今日みたいにみんなで食べられるものだとありがたいですわ」
正直なところ、獲ってきてもらうのもいいが、自分も一緒に行きたいと思った。ジュスティーヌはまだ本当の海を見たことがない。だが、さすがにこの暴走王子に「一緒に海に行きたい」とは言えない。言った途端、そのまま海の見える教会に連れ去られそうだから……。
「よし! そうかそうか! 次はバーベキュー大会でも開くとするか! ははははっ」
レナードは上機嫌だった。食事をご馳走になったものたちも、次はバーベキューの言葉にみな大喜びで拍手喝采だった。
「あと、魚料理を食った戦闘技術科の男は俺と決闘な!」
その言葉を聞いて何人もの男たちが激しく咽た。タダより怖いものはないというやつである。
「兄上、それって僕も入りますか?」
「当然だ! 遠慮はしなくていいぞ! 思う存分切りつけてくれ!」
「まあ僕の腕だとどうせ当たりませんけどね」
決して弱くはないカイトの攻撃がほとんど当たらないとなると、やはりレナードは相当腕が立つのだろう。
「あの、女子生徒は殿下と決闘しなくていいのですのよね?」
魚をご馳走になっているアカネたちのためにも一応確認しておく。
「つつつ、妻よおお!! おおお俺があなたを殴れるわけないだろう!! ててて手も握ったことがないのに! それだけは許してくれええ! スーパースターレナード史上最大のピンチだああ!!」
レナードは苦悩の表情を浮かべると頭を抱えて信じられないスピードで頭を振り回した。するとその力で周辺につむじ風が巻き起こり、周囲の者は飛ばされそうになる。
「殿下、落ち着いてください! これではみんな飛ばされてしまいます!」
スカートを押さえながら自分をなだめるジュスティーヌの姿が目に入り、レナードは一瞬で固まった。風にはためくスカートのすき間からジュスティーヌの肌がチラチラと見える。
「ぶほっ」
そして噴水のように鼻血を吹き出すと倒れてしまった。暴風は収まったものの、これはこれで結構困る。
「兄上! はあ、みなさんご迷惑をおかけしてすみません」
「謝る必要なんてないわ、カイト。楽しいからいいじゃない、別に。それにお兄様はお兄様、あなたはあなたでしょ?」
そんなジュスティーヌの言葉を聞いた者たちは、「こんなめちゃくちゃな殿下に対して楽しいと思えるなんて、さすがは殿下が”妻”と認めた姫だ」と心底感心した。それと同時に、「あれ? ジュスティーヌ姫様はアルフォンス殿下の恋人では!?」という疑問がわいてくる。
激しい恋のトライアングルの予感である。




