第58話 大事件発生のようですわ! いろいろな意味で。
ジュスティーヌとカイトは、精神攻撃系の魔術に詳しい教師・カタリナのもとを訪れていた。絵に描いたようなセクシー美女のカタリナは、男子生徒から絶大な人気があったが、カイトはこの手の女性が苦手だった。ジュスティーヌがいてくれて本当に良かったと思う。
今日もカタリナは教師とは思えないような、目のやり場に困る服を着ていた。きわどいラインまでスリットの入った黒のスカートから覗く美脚を、むしろ見せつけるかのように脚を組むと、迫るような目つきで話しかけてきた。
「で、悩める少年・少女はこのカタリナ様に何のご用かしら?」
「先日お願いしていた件で伺いました」
カイトはカタリナと目を合わせないように顔をそらしたまま用件を伝えた。
「ああ、あの洗脳男たちの件ね。未婚の彼女を妊娠させてしまい、親に反対されているので駆け落ちしたいのですが、みたいな相談でなくて残念だわ」
「そ、そ、そんな相談なわけないじゃないですか!」
珍しくカイトが焦っている。
カタリナによると、彼らを操っていた力は少なくとも魅了などの魔法ではないそうだ。というのも、生徒たちを調べても魔法がかけられていた痕跡が全くないらしいのだ。それとはまったく別の術だろうとのことだった。
そして、術をかけられた生徒たちにも聞き取りをしたのだが、事件の前に明らかに怪しい人物に会ったり、やたらなものを飲み食いしたりはしていないとのこと。最後の記憶もそれぞれバラバラで、寮に戻ろうとしていた者もいれば、図書館に行こうとしていた者、クラブ活動に向かっていた者など、これと言った共通点がない。
ついでに言うと、彼ら10人は特別親しいわけでもなく、クラスも学年も、所属している寮もバラバラだ。そもそも10人がどのようにして集まったのかさえも、本人たちは分からないというのだ。
そして特別ジュスティーヌに恨みがあるわけでもないらしい。かといって、べた惚れしているわけでもなく、遠くから見てかわいいなと思う程度の存在とのことだった。
「ということで、結論は何もわからないから、引き続き調査が必要といったところね」
なんとも不可思議な事件である。そして、このようなことが安全なはずの学園で起きたことが大問題だった。しばらくは教師たちによる学園内の見回りの強化と、学園内への関係者以外の出入りを厳しくチェックすることで対処するしかないというのが現状のようだ。
「これは、完全な事件ね! しかも完全犯罪じゃない、今のところ! これは事件の追いかけ甲斐があるわ!」
カタリナの研究室を後にしたジュスティーヌは、PDFとしてもジャーナリズムクラブの一員としてもこの事件に向き合うべく意を決したようだった。
「生徒会としても引き続き調査を行うことになるだろうから、その、一緒にこの事件を追わないかい?」
事件を利用するのは気が引けるが、これでジュスティーヌと一緒にいる口実ができる。カイトはそう思い誘ってみたのだ。
「もちろんよ! 早速関係者に取材をして回りましょう!」
ジュスティーヌがそう答えたところで、なぜかあたりに生臭い匂いが立ち込める。
「ん? ちょっと待って、何かしらこの匂いは?」
カイトは少しこの匂いに心当たりがあった。
「俺の麗しのエンジェル、愛しの妻よーーーーー!」
夕日に向かって走り去ったはずのあの男が数日ぶりに戻ってきたのだ。しかも、体長2mはあろうかという巨大なマグロのような魚を背負って。
妻って聞こえた気がするけど、いつの間に結婚したんだろう、わたしたち……。
「ふう、間に合ってよかった」
レナードは心底ほっとしたように、胸をなでおろした。
「えっと、何が間に合ったのでしょうか? レナード殿下」
無視してもよかったが、一応聞いてみる。
「愛妻ランチだ、愛妻ランチ!!」
「あ、愛妻ランチ!? もしかして、その魚を食べるのですか……?」
生臭い匂いはするものの、ギリギリ腐ってはなさそうではある。そもそも内陸国育ちのジュスティーヌは、こんな大きな魚を見るのは初めてだ。どうやって食べるのだろう? 少し興味がある。
「兄上! ジュスティーヌ姫が驚いてしまっていますよ。その魚、何とかしてください!」
「おう! 待っていろ! すぐに解体する!! イッツショータイム!」
「解体するのですか? その魚を? この学園の広場のど真ん中で? どうやって?」
「兄上! せめて道具を揃えて、しかるべき場所で解体してください!! こんな場所で解体した魚、ジュスティーヌ姫に食べさせるわけにはいかないでしょう」
弟にそう諭されて、さすがにその通りと思ったのか、レナードは魚を背負い直した。
「では、あそこに行くぞっ!」
レナードが指さした先には、ソフィーが8人の男たちとお勉強会をしていたカフェテリアが見えた。
「ついてくるがいい、愚弟よ! 海の男だろ、お前も手伝え!」
レナードやカイトの出身国、フィデリス王国は大陸の西側、海に面した海洋国家で、大陸の領土だけでなく、大小多数の島々からなっていた。数百年前、バイキングが興した国として知られてもいる。それをいまだに地で行っているのが、レナードなわけだ。
「本当に、いつもいつも兄がご迷惑をおかけしてすみません」
カイトはそう謝罪の言葉を口にしながらジュスティーヌの様子を伺った。何でも表情に出る姫のことだ。きっと呆れているに違いないと思っていたが、意外にもジュスティーヌは不快そうではない。むしろ興味津々といった具合に目を輝かせているではないか。
こうして唐突に、レナードたちのマグロ解体ショーが始まろうとしていた。




