第55話 そんな悩めるあなたに提案ですわ!
カイト王子からクズ過ぎる兄の話を聞かされたジュスティーヌたち。
恋愛の女神としては、彼のことを捨て置くわけにはいかない。
「そうね……。カイトも、雄叫びを上げながら、夕日に向かって走ってみたらどうかしら?」
「えっ」
姫様、まさかそれがアドバイスですか!! さすがに投げやり過ぎません? もしかして、貴重な常識人、カイト殿下を姫様流の”悪の道”に引きずり込もうとしていませんか!?
普段大人しい、アカネの心の声がする。
「もちろん、夕日に向かって走るというのは、一つの例えよ。カイトは誰かの期待に応えようとしすぎているんじゃないかしら? だから、たまには自分のやりたいことをやりたいようにやってみたらどうかと思ったのよ。あのお兄様のように」
ほっ、よかった……。意外とまともな意見だった。
「カイトは、素の自分を愛してくれる相手を求めているのでしょ? だけど、あなた自身が常に完全武装していて、素顔を見せないのだから、誰も本当のあなたを愛しようがないじゃない」
姫様とは思えないほど、なんかすごくまともな意見だ。明日、天変地異が起きるかもしれない……。
アカネが失礼なことを思っている横で、セドリックも、「悪役令嬢を目指していた姫様が、慈愛に満ちた聖女になってしまったのかもしれない……」と考えていた。
「そうね、まずは手始めに。セドリック、あなたの海坊主の衣装、一日だけカイトに譲ってあげてくれないかしら?」
やっぱり、「すごくまともな意見だ」と思ったの取り消します、姫様。カイト殿下にアレを着せるつもりですか!? 自分の殻を破るためにしても、その提案はちょっとぶっとびすぎでは!?
「もちろんです! 一日と言わず、何日だってお貸ししますよ!」
セドリックが興奮気味に返答をする。
あ、セドリック先輩、アレ着たくない感じなんですね……。まぁ、気持ち、わかります。だとしてもカイト殿下に押し付けるなんて!!
「えっと、海坊主の衣装って……?」
「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれましたわ!」
なぜか自信たっぷりに、衣装そのもののとどういう場面で利用しているのかを説明するジュスティーヌ。カイトは話を聞いて、かなり恥ずかしそうにしていたが、意を決したかのように告げた。
「わかったよ。ジュスティーヌ姫。僕もその活動に参加させてほしい、う、海坊主役として」
ついに、セドリックが海坊主を卒業するときがやってきたのだ。セドリックは万歳三唱したい気分だった。
そして、金曜日の放課後、平和防衛隊のメンバーはいつもの活動部屋に集まっていた。カイトほか、新たな戦闘要員も加わり、新生・平和防衛隊の始動である。
カイトは新たな自分と向き合うべく、用意されていた海坊主の衣装に身を包んだ。恥ずかしいなどと甘えたことを言っている場合ではないのだ。
一方で、新たに加わったメンバーには急遽、「PDF(peace defense forceの略であり、決してとある電子文書ファイルの形式ではない)」の3文字が襟元に刺繍されているマントが配られた。
セドリックも万感の思いでマントを羽織ろうとした。するとジュスティーヌが黒い怪しげな衣装を差し出してきた。
「海坊主は衣装デザインが簡単だから、すぐに作ることができたの。セドリック、あなたは先輩海坊主として、カイトにお手本を示してあげて」
「せ、先輩と言っても、俺もまだ数回しか着ていないわけで、いいお手本になるかどうか……」
しどろもどろになりながらセドリックが衣装を着ることを遠慮していると、カイト王子がクソ真面目に懇願してくる。
「セドリック先輩、ご指導のほど、よろしくお願いします」
こうなるとさすがに拒否はできない。セドリックは仕方がなく、海坊主の衣装に手を通した。
ジュスティーヌは二人の海坊主と”飛ばされ隊”のジーニアスと侯爵令息のミハエル――365日の監視男とともに活動することとなった。
海坊主の活躍の場といったら、まずは広場である。ここでいつまでも遊んでいる子どもたちを家に帰るように促すのだ。
その日の広場では、一段と多くの子どもたちが遊んでいた。
「おっ、来たぞ」
「ほらな、俺らが言った通りだろ」
「うわ、マジでやっべー」
「魔女がバケモノ4匹つれてるぜ」
子どもは正直だ。バケモノは一応二人だと思うが、インドア派のジーニアスとミハエルもバケモノ扱いである。
「こいつらに最後まで捕まらなかったやつが勝ちな」
子どもの一人がそう言うと、十数人いた子どもたちはちりじりになって逃げた。
「海坊主たち! それから”飛ばされ隊”の二人! あなたたち、あの子どもたちを捕まえるのよ」
「はいっ!」
4人は返事をすると、子どもを追いかけて回った。
子どもたちは意外にすばしっこかった。そして、広場は彼らにとって普段の遊び場であり、地の利があるうえ、小回りが利く。若干視界の悪い海坊主の衣装だと子どもたちといい勝負だった。
「待てー、クソガキども~! よし、一人捕獲したぞ、ひっひっひっ」
「くっそー、バケモノやろうにつかまっちまったぜ」
あれだけ嫌がっていた割には、結構ノリノリで鬼ごっこに興じるセドリックだった。そんなセドリックをみて、カイトも真似をするように子どもを追いかけて捕まえる。
「ま、待ってー、やんちゃな子どもたちめ~。ほら、捕まえた! はははっ」
「離せ、離せよー! おい、バケモノ、お前、足早すぎだろう!」
一方、ジーニアスは悲惨だった。完全に子どもに弄ばれていた。
「やーい、こっちだぞ、バケモノ眼鏡! お尻ペンペン」
「ま、まてぇーーー、ぜぇ、ぜぇ……」
それに対して、ミハエルはストーキングのプロである。物陰に隠れて子どもたちに近づいては後ろから、すっと捕獲する。
「つーかーまーえーたー」
「こ、こええ……」
やっていることがある意味一番恐ろしいバケモノだった。
こうして子どもたちは次々と、4人――というか実質3人に捕まえられていった。




