第49話 おかわいいご令嬢たちの相談事もなんなくこなす悪役令嬢ですわ。
「あの、姫様は、その……とても殿方と親しいと見込んでの相談なのですが、わたくし最近親しくしている殿方がいますの。前回デートをした際にプレゼントをいただいたのでお礼をしたいのですが、何を贈れば殿方は喜ぶでしょうか?」
まさかの平和な内容だった。すっごく平和な内容だった。浮気とか略奪とか、全然そういうのじゃなかった。
さすがは清楚系のご令嬢だわ……。恋愛においても、悪事とは無縁なのね……。
「ふっ、そんなの簡単よ。むしろ、完全にわたくしの専門分野だわ! いいですこと、モンスター柄の刺繍入りハンカチをプレゼントなさいな! そうね、特にドラゴンは喜ばれるわ。まぁ、剣士限定かもしれませんが」
「剣士……もしかして姫様もアルフォンス殿下にもそのプレゼントを?」
「なぜ、それをご存じなの!? まだ作っただけで渡していないのに!?」
ちょっと、もしかしてこのご令嬢、清楚系と見せかけて、あの悪魔皇子同様に人の心が読める系!? いやいや、人の心が読めるのであれば、その愛しの君の心を読めばいいじゃない。一体どういうこと!? お、落ち着け、落ち着くのよ、ジュスティーヌ! 悪役令嬢なのだから、動揺してはダメ!
「キャー」と声を上げながらさらに数名のご令嬢たちがとり囲んでくる。
「あの……姫様、どのようにしてアルフォンス殿下とは親しくなられたのですか?」
「あのような素敵な方と親しくなる秘訣をお教えていただけないでしょうか? あ、もちろん、殿下を盗ろうなどと考えてはおりませんわ」
盗ってもらっても全然かまいませんけどね、わたしは。というか、そもそもわたしの恋人でも婚約者でもないし。あの人は、ただの、ただの……キ、キスをする予約をしてしまったけれども……そう、ただの都合のいい男よ!
「そうですわね。ダンスの際に堂々と足を踏もうとすることではないでしょうか?」
「あ、足を踏むのですか!?」
ご令嬢たちは、ジュスティーヌの予想外な答えに戸惑う。
「そうですわ。ついうっかりではなく、堂々とです! 剣士とは常に戦いを渇望しているもの。ですので、ダンスのときにも生か死かの死闘をお望みなのよ。足を踏むかかわすかのギリギリの戦いを繰り広げることで、数々の死線を潜り抜けてきた勇者パーティのような絆が芽生えるのよ」
ジュスティーヌは、なんだかすごくそれっぽいことを言ってみる。
「それは、わたくしたちには難しそうですわ……」
ご令嬢たちはかなりがっかりしていた。
「諦めてはダメよ! 諦めたらそこで恋も戦いも終了してしまうのよ! わたくしはアルフォンス殿下と次に踊る時のために階段ダッシュ100回をノルマにトレーニングしたのよ!」
「まあなんということかしら! 愛する殿方のためにそこまでされるのですね、姫様は!」
「さすがですわ、姫様。わたくし、感動いたしましたわ!」
「お二人の固い愛の絆には誰も敵いませんわね」
あれ? なんか話がズレてない??
「まあ、普通の殿方はアルフォンス殿下ほどの達人ではないから、ほどほどのトレーニングでもそこそこいけるのではないかしら? そうね、まずは反復横跳び200回ぐらいから始めてみては?」
「2、200回ですか……」
ちなみに、寮生活となって階段ダッシュができない今、ジュスティーヌは反復横跳びならぬ、反復全方位跳び1000回を毎日のルーティンワークとしている。
それはともかく、とりあえず、ご令嬢たちの悩み相談を聞いている限り平和過ぎて事件なんて起こりそうにもなかった。
誰か腹黒皇子のファンでわたしを恨んでいる令嬢とかいないのかしら? ジーニアス王子を空に放り投げたことを恨んでいる令嬢とか? ああ、残念ながら後者は、感謝されることはあっても恨まれることはなそうね。
と、その時、ティールームにとあるご令嬢ご一行が入ってきた。なんと最初にジュスティーヌに絡んできたカイト王子の婚約者候補たちではないか。
カイト王子親衛隊のご令嬢たちは、ジュスティーヌがほかの令嬢たちに取り囲まれ、アルフォンス皇子の話に興じていることにすぐに気が付いた。
最初、彼女たちは、こちらを意識しつつも離れた席に着座した。そして、こそこそと何やら話し合ったのちに、意を決したように立ち上がるとこちらに向かってくる。
「あの、ジュスティーヌ姫様」
「あら、何かしら? もしかして、あなた方もわたくしに相談したいことでもおありかしら?」
「……相談?」
「そうですのよ! 今、恋の女神であらせられるジュスティーヌ姫様にわたくしたちの恋の悩みを聞いていただいていたところよ」
ジュスティーヌの近くにいた令嬢の一人が、目を輝かせながらご丁寧に説明をしてくれる。恋愛相談ってほどの相談はしていなかったと思うのだが……。
えっ、このご令嬢、なんて言った? 恋の女神って……。わたし恋とはまるで無関係の人生を送っていきたし、送っているし、送っていきたいのですが?
しかも、一般論として恋愛相談の回答として、彼女の答えは正直どうなのだろうかと思うような内容だ。
カイト王子の婚約者候補たちはその話を聞いて、じっとジュスティーヌを見つめていた。
これは一人の男を巡る、愛憎渦巻く女同士の泥沼な戦いの再来か!?




