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第44話 憧れのあの場所に足を踏み入れてしまいましたわ!

 ジュスティーヌの気持ちが落ち着くころには、寮の前の人だかりもすっかり片付いていた。それでも念のためといって、アルフォンスは裏口からジュスティーヌと出かけた。


 裏口が好きな皇子さまね……。まぁ、わたしに気を使ってくれているのだろうけど。


 それにしても、どさくさに紛れて瞼や頬にキスをされて、抱きしめられて、さらにはファーストキスの予約までされてしまった。思い出すだけでも頭が噴火しそうだった。


 や、やさしいけど、やっぱり腹黒だわーーー!


 なんだかんだ言って、アルフォンスのペースに巻き込まれているジュスティーヌだ。


 ところで、わたしを連れていきたい場所ってどこ? もしかして、ダンジョン!? いろいろな意味でまだ心の準備があああ!!


 脳みそが沸騰していたジュスティーヌは、街の風景も目に入らないし、自分がどこを歩いているのかも把握できていなかった。アルフォンスに手を引かれて導かれるままに、熱に浮かされた患者のごとくフラフラと歩くのがやっとだった。


「ここだよ。ジュティを連れてきたかった場所」


 目の前にはレンガ造りの大きな建物があった。石畳の階段を3段ほど登った先には、重厚で大型の木の門扉が開け放たれていて、その上には、「冒険者ギルド」の看板が掲げられていた。


 ジュスティーヌはわあーっと無意識に歓声を上げると、目をキラキラと輝かせた。


「行こうか」


 アルフォンスに手を引かれて、幼いころから憧れた場所に足を踏み入れる。そこには夢にまで見た光景が広がっていた。


 広い室内には数えきれないぐらいテーブルが置かれ、冒険者たちが食事をしたり、冒険の計画を立てたりしている。ランクごとに依頼書がたくさん貼られた掲示板もある。奥のカウンターでは冒険者たちがクエストの申し込みや報告を行っていた。


 人の出入りの多い場所なので、普段は誰が来ようと大して気にかけない冒険者が多いのだが、なんせ登場したのが、冒険者の憧れの的・アルフォンスである。さらには、普段、女っ気のない彼が、場違いなまでにかわいい女子をつれているのだ。目にとまらないわけがない。二人に気が付いた冒険者たちはおしゃべりや作業の手を止めて、食い入るように凝視してきた。


「そこが空いているな」


 窓際の人が座っていない席を見つけると、アルフォンスは固まる冒険者たちの横を、ジュスティーヌをエスコートしながら堂々と通り抜け、ジュスティーヌを座らせると、自分もその対面に腰を下ろした。


 競うようにして給仕係の女の子が注文を聞きにやってくる。アルフォンスが、冒険者ギルドの広間にある食堂を利用することなど滅多にないので、こんなチャンスを逃してはならないと思ったのだろう。


 ジュスティーヌは胸を弾ませ、あちこちキョロキョロ見渡しながら、冒険者ギルドの空気を満喫していた。


「ご、ご注文は何になさいますかあ!」


 注文を取りに来た女子は、声を上ずらせながら尋ねてきた。


「ジュティ、何を飲む? また、アップルジュース3杯かな?」


 はっ、なんでそれを! もしや、この皇子に正体がバレているってこと!?


「いや、むしろ、どうしてバレてないと思ったのかな? 俺が君に気が付かないわけないだろう?」


 ああー、しかも、また、この皇子、わたしの心の声と会話をしているー!!


「やっぱり、かわいいな、ジュティは。全部書いてあるんだよ、ここに」


 そう言うとアルフォンスは自分の頬をツンツンと指さした。ジュスティーヌはゴシゴシと自分のほっぺをこすった。


「そんなことしても無駄だよ」


 アルフォンスはジュスティーヌが頬に当てていた手に自らの手を重ね、ゆっくりと彼女の手をテーブルの上に下した。


「さ、注文しないと。この子が困ってる」


 なんなんだこの一連の流れはああ!!! 二人はそういう仲なの!? そういうことですかああ!!?? という目で冒険者たちは二人のやり取りに釘付けになっていた。


「今日は、グレープフルーツジュースの気分なの……2杯にしておくわ」


 殿下が連れているあの女子、めちゃくちゃかわいいのに、ジュースをいきなり2杯頼んだ!? 男性冒険者たちは、驚きとまどった。


「承知しました、姫。食べたいものはある?」

「デザートにおいしいタルトは食べたいけど、ほかは初めてでよくわからないからお任せするわ」


 そう言われるとアルフォンスは手慣れた様子で料理の注文をした。


 出されたのは、珍しい獣の肉を使った料理の数々だった。


「このお肉、クセがなくておいしい。何の肉なの?」

「ああ、それは、ギガンテウスオオツノジカの肉だよ。実はジュティに食べさせたいと思って俺が狩ってきたんだ」

「!!」

「狩りには興味ある?」


 興味がないわけがない! わたしも行きたいに決まっている!! むしろ今から行きたいぐらいなんですけど!!


「じゃあ、決まりだね。長期休暇の際にでも一緒に行こう」


 やっぱり、心の声と会話しているんですけどー!


 ジュスティーヌはもう一度自分の頬をこすってみた。アルフォンスは目を細めると「ははっ」と声を出して笑った。


「あっ、このスープ、もしかしてジャイアントマッシュルーム?」

「うん、そうだよ」

「この辺りでも採れる森があるの?」

「静寂の湖の近くにある森に自生しているよ。そこならば週末を利用して行って帰って来られるから、今度一緒に行くかい? クエストでも受けるついでに」

「うんうん、行きたい! クエストってわたしも冒険者登録ができるの!?」

「もちろんだよ。今日はそれも兼ねてここまで来てもらったんだ」


 アルフォンスがさりげなく仕掛けた、何度も彼とデートせざるを得なくなる罠にバッチリはまっているジュスティーヌだった。

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