第39話 悪役令嬢、華麗に復活ですわ!
「えっと、インテリ殿下でしたっけ?」
「ジーニアスです」
「失礼、ジーニアス殿下。拝見したところ、あまり武術の鍛錬は行ってらっしゃらないようなのですが、魔法がお得意なので?」
申し訳ないが、魔法少女は単にかわいいだけでは務まらない。実力があってこそ、真の魔法少女として活躍できるのだ。だが、目の前の王子はその手の鍛錬を積んでいるようには見えなかった。
「否。魔法も剣術も少々嗜む程度です。私は普段、局所的な戦闘よりも、より広範な戦術・戦略の研究に勤しんでおりますので」
ズレてなさそうな眼鏡を指でクッと上にあげながらインテリ殿下は自慢げに話し始めた。
「あら? ということは、指令室で働きたいということですわね」
「はい?」
ジーニアスはジーニアスで、何を言われているのか理解不能だった。なぜならば、彼はここに逢引に来たのだから。
「安心しましたわ~。武人にしては随分貧相なお身体だと心配でしたの。殿下程度の腕前では、その辺のごろつきに返り討ちにあってボコボコにされてしまいそうですものね。もちろん、弱そうに見せかけて相手を油断させるという戦術もありますが、実力があってこそで、実際に激弱だとお話になりませんもの。その点、後方支援であれば安全ですわ」
グサッグサッ!
今、ジュスティーヌは決して悪役令嬢であろうとはしていない。単に、彼女にとっての客観的な事実を述べただけである。が、ジュスティーヌが放った言葉のナイフが、容赦なくインテリ眼鏡に突き刺さる。
「まあ、殿下は男性にしては背が低くて、身体もお小さいので、魔法少女の衣装も似合いそうではありますがね」
グサグサグサッッ!
自称・頭脳派インテリ殿下と言えども、男である。
小さいとか弱いとか、男が聞きたくないワードを連発された挙句、女装が似合いそうだなどと言われ、見えないナイフにズタズタに心を引き裂かれ、ガクッと膝を落とす。
セドリックは、偉そうにしていた男が姫の口撃でショックを受けていることが愉快でならなかった。
同じく、インテリ王子のことを前々から鼻持ちならない男だと思っていたオリビアも「さすが姫様、最高だわ! ますます惚れちゃう!」と胸をときめかせる。
PJL24のメンバーも、姫の天然記念物級の毒舌を直接浴びることができて、心底痺れていた。
唯一、ジュスティーヌのクラスメイトの男子たちだけはこのインテリ王子にちょっぴり同情していた。まぁ、でも姫様はそういうお方だからなと納得はしていた。
「さあ、みなさん、支度をして、街に向かいますわよ!」
落ち込むインテリ王子をよそに、ジュスティーヌたちはせっせと防衛隊の出動準備を行った。
ビビアンやアカネといった戦闘要員も増えたし、オリビアたち情報収集要員もいるので、今日は4部隊に分かれて街の巡回を行うことになった。
ジュスティーヌはいつものようにセドリックと組み、オリビアが付いてくることになった。
心が死にかけていたジーニアス王子だったが、ジュスティーヌの魔法少女姿を見て、一気に生気を取り戻す。
「うおおおおおっ、これぞ魔法少女の完成形です! なんとも美しい! 私の眼鏡に狂いはなかった!」
そして、勝手にジュスティーヌたちのグループについてくる。
ジーニアスやオリビアはさすがに頭脳明晰なだけある。巡回しながらも、街の平和をよりよく保つには何が必要かなどを考えているようだった。
例えば、注意すべき場所をあらかじめ地図上でチェックしておくことはもちろん、過去に起こった犯罪をマッピングしてその地区を重点的に巡回すること、その地図を商品化して何らかの形で公表することなどを提案してきた。
そういったものを作成することで、街が抱える問題点も見えてくるし、改善方法も模索できる。
ジュスティーヌの「取り巻き獲得のため、男を女に男惚れさせる」という超意味不明な目的で始まった防衛隊の活動だが、気が付いたら非常に有意義なものとなりつつあった。
さて、本日の防衛隊部隊Aの成果はというと……
前回同様、子どもたちを夕暮れ前に家に帰すことに成功した!
さらに、広場で落とし物をして困っている女性の手助けをしてあげた!
そして、落とし物を無事に見つけることができた!
街が少しだけ平和に近づいた!
では、そろそろ帰ろうかと思っていると、飲み屋街のほうがなにやら騒がしい。
これは、事件の気配である!
ジュスティーヌたちは騒音のするほうへ爆速で飛んでいった。
そこでは、あらくれ男二人が殴り合いのケンカをしていた。ついに、防衛隊の真価が発揮されるときがきた!!
「ちょっと、そこの二人!」
マントを脱いで仁王立ちしたジュスティーヌが男たちに声をかける。
男たちはチラッとジュスティーヌを振り返った。
そして、そのまま、ヒラヒラとはためくチュチュスカートから覗く、ジュスティーヌの引き締まった白い太ももに釘付けになった。
こんなにかわいいお姉さんが太ももを見せてくれるとは、どんなご褒美だろうか。
「ええーい、控えおろう! 街の平和を乱す悪党どもよ! このマジックハットが目に入らぬか! ここにいるのは天下の魔法少女マジカール様なるぞ!」
なんか、どう考えても魔法少女じゃない口上きたー! しかも、それ本人が言うやつじゃないんじゃ……!
セドリックはおかしくてたまらない。プルプル震えながら必死に笑いをこらえていた。
「海坊主よ! 懲らしめてやりなさい!」
「は、はい」
セドリック……ではなく海坊主が一歩前にでると、男たちは海坊主に殴りかかる。当然、セドリックもそこそこ強いので隙だらけの男たちの攻撃は簡単にはあたらない。
とはいえ、1対2だと少々分が悪い。
「助太刀いたす! とりゃっっ!」
ジュスティーヌも近くにいたほうの男に素早く蹴りを食らわせた。
フワフワのチュチュスカートが揺れ、振り上げられた白い太ももが残像となって、群衆たち(特に男性)の脳裏に焼き付く。
やじ馬たちはもはや吹っ飛ばされた男など一切見ていなかった。
ただ、吹き飛ばされた男が戻ってきてこの少女にもう一度挑んでくれないかと神に祈った。
あの太ももキックの奇跡をもう一度!
しかし、残念ながら、もう一人の男もセドリック……ではなく海坊主に制圧されていた。
「これにて一件落着!」
最後までセリフが全然魔法少女ではないジュスティーヌであった。




