第37話 悪女を愛するファンクラブ結成ですわ!
「あ、あの、公式ファンクラブとは、一体何をするのかしら?」
「はい! 主な活動は、”推し”の追っかけです! ですので、今朝もこうして伺いました! 私が会長を務めさせていただきますアンと申します」
アンは眼鏡をかけて髪を三つ編みにしている活発で賢そうな女子だった。
「ふっ、甘いな女子たちよ。俺たちは、殿下の追っかけのみに終始しておらんぞ! 殿下をお支え出来る剣士になるべく、常に鍛錬を積み、今はこうして殿下の愛する姫君をお守りしているのだ!」
「そうだ! 公式ファンクラブとはそれくらいの気概を持って結成するものだぞ!」
誇り高き男、うーたんたちが公式ファンクラブの在り方を諭して聞かせる。
「くっ、私たちだって、敬愛する姫様を全力でお支えしたいと思ってるし!」
「では、お前たちが姫様のために何ができるのか、よく考えてみるのだな!」
「姫様は我々の殿下が愛する大切なお方。足だけはひっぱってくれるなよ!」
「もちろんよ! 私たちの姫様への愛だって、あなたたちの殿下への愛に負けてないんだから!」
学園に来ている平民の女子たちは、非常にパワフルだ。相手が貴族の男性だろうが、一歩も引くことはない。口論になりかけたところで、ジュスティーヌが割って入った。
「まあまあ、そう言い争わず、とにかくみなさん、授業に向かいましょう」
なんだかすっかりいい人ポジションになってしまっている自称・悪役令嬢のジュスティーヌだった。
「姫様、あの、公式ファンクラブの名称なのですが、『姫様のリボン』はどうでしょうか?」
えっ、なんかそれだとどこかで読んだお話のパクリっぽいわ……。
「ふっ、その名称の構成だと、我々”皇子の剣”同盟のパクリだな」
ジュスティーヌよりも前に皇子の剣のメンバーが突っ込みを入れてくれる。
「なんですって! では、『姫様ファイターズ』は?」
「それか、姫様と私たちはタルトによって結ばれているので、『タルティスト』とか、『タルト部』とか」
「『姫’S エンジェルズ』なんてのはどうでしょう? 『プリンセスガールズ』もありではないですか?」
「『プリプリ団』とか、あとは『PJL7』」
ファンクラブのメンバーは次々に考えたファンクラブ名をあげていった。
「最後のはどういう意味ですの?」
「プリンセス・ジュスティーヌ・ラブな7人、略してPJL7です!」
なんとなく、秘密結社っぽくてかっこいいわね。
「それにしましょう。『PJL7』で」
「はい! 姫様、ありがとうございます!!」
「くっ、なかなかのネーミングセンスじゃないか」
『PJL7』は皇子の剣の公認となった!
「あの、姫様、というか先輩方、そのファンクラブ、私も入りたいです。『PJL8』ではダメですか?」
唐突にアカネがファンクラブ入会を申し込んだ!
同じ寮でジュスティーヌの取り巻き、かつ平和防衛隊のボブとマイクが羨ましそうにこちらを見ている。
「アカネっち、大歓迎よ! 共に姫様を、力の限りお支えしましょう!」
こうして、ジュスティーヌの公式ファンクラブ『PJL8』が結成されたのだった。
「では、当面、私たちは姫様のことを勝手に追っかけますので、姫様はお気になさらずに勉学に励んでください! もちろん、私たちの力が必要なときはいつでも声をかけてくださいね! 放課後はたいてい中庭にいますので」
そういうとPJL8のメンバーたちは去っていった。
「なんか、すごかったですね……」
全く存在感を発揮できずにいたセドリックがつぶやいた。
「ねえ、セディ。この学園の公式ファンクラブって、いくつぐらい、誰のがあるの?」
「俺もあんまり詳しくはないですが、生徒会会長や副会長、あとは書記のソフィーは公式ファンクラブ持ちですね。ほかにも数名、目立つ王族や貴族にいるかもしれないですね」
ちなみに、会長のファンクラブは『ロイヤルクラウンズ』で、副会長は『凍える吹雪』、ソフィーは『レッツゴーエンジョイ団』だそうだ。まあ、ソフィーのファンクラブの名称は聞かなくてもわかる感じだが。
「ねえ、うーたん、アルフォンス殿下の公式ファンクラブは”皇子の剣”同盟だけ?」
「はっ、姫様、夫君である殿下のこと、やはり気になりますか!」
いや、全然夫じゃないし。あなた方が想像している意味で気になるんじゃないし。
「殿下の公式ファンクラブは今は我々の”皇子の剣”同盟だけですな」
なるほど。女子たちは公式ファンクラブという形でグループ化していないから、個別で活動――手紙に悪口を書いて送りつけてくるだけ――しているわけね。人間は誰しもグループ化や匿名化すると急に強気になるのだが、一人で堂々と悪事を働くのはそれなりに勇気がいるものだから。
そうなってくると、残念ながら彼の女性ファンが学園内で表立って絡んでくることはなさそうだ。
そして、他に分かっている女性向けの公式ファンクラブがアルフォンスの弟である生徒会長やヴィクトリア公女の婚約者である副会長のものとなると、その構成員とドンパチする機会もなさそう。なんせ、生徒会のメンバーとはほとんど接点がないのだから。
次の悪役令嬢活動、略して、”悪活”は、一体何をどうすればいいのだろうかと頭を抱えるジュスティーヌだった。




