第36話 女子のケンカに巻き込まれてしまいましたわ!
そういえば、アルフォンス皇子の熱狂的なファンの男性には絡まれたが、彼の女性ファンはいないのだろうかと疑問がわいてくる。彼の容姿や地位、実力を考えると、ファンクラブの一つや二つあってもおかしくない。”皇子の剣”同盟のように表立った活動はしていないのだろうか。
「死ね」「ばか」みたいな手紙を送ってくるのは彼の女性ファンのような気がする。しかし、皇子の剣を実力で撃退したジュスティーヌに正面から挑んでくる勇気はないということか。せっかく、これだけ恨まれているというのに、正面からやり返す機会がないとは非常に残念である。
そんな女子たちだって、愛するアルフォンス皇子を奪ったにっくき悪女・ジュスティーヌの姿をみたら、文句の一つでも垂れたくなるかもしれない。または、水やお茶をかけられたり、ノートをゴミ箱に捨てられたり、倉庫に閉じ込められたり、ほかにどんな意地悪があるだろうか……とにかく、何らかの嫌がらせをしてもらえるかもしれない。
悪役令嬢として事件に巻き込まれるべく、そしてあわよくばスクープをゲットするべく、ジュスティーヌはアカネとともに課外活動をしていない生徒が放課後に集まっている学園の中庭へと向かった。
放課後の中庭には、ベンチ席でお茶を飲み談笑している4人グループや、カフェテリアのテラス席で勉強をしている3人グループ、東屋や木陰の下で愛を語らっているっぽいカップルが何組か見受けられる。
ジュスティーヌたちがその場に降臨すると、そこにいた生徒たちは一斉にこちらに注目してきた。そう、それはまさにその場にいた生徒にとって”降臨”だった。
ベンチ席の女子生徒たちは、ジュスティーヌの姿をみると顔を赤くしてなにやらこそこそ密談をしだす。
するとその中の一人が立ち上がり、眉を吊り上げながら鼻息荒くジュスティーヌのもとにズカズカと歩いてやってきた。
こ、これはもしや、待ち望んでいた意地悪イベント発生では!? さあ、水でもお茶でも何でもかけて頂戴! わたしの運動神経で全部かわしてあげるから!
「あ、あの、ひめさまあ!!」
その女生徒は力強く話しかけてきた。
「私たちのテーブルで一緒にお茶をしませんか? お、おいしいクッキーもあります!!」
えっ、お茶の誘い? あ、そうか、それでお茶をかけるわけね、はいはい、わかっていますわよ~。
「ちょっと待った! 姫様、こちらにいらっしゃいませんか? こちらのほうが椅子の座り心地がよいです!」
今度は別のグループの女子が駆け寄ってきたかと思うと、怒った顔で自分たちのグループの席を勧めてくる。
「最初にお声かけをしたのは私たちなんだから!」
「何言っているの! 早い者勝ちだと誰が決めたの!! 居心地がいいほうがいいに決まっているじゃない!」
「座り心地なんてどこも同じでしょ! こっちにはお茶菓子があるんだから!」
「ふんっ、知らないの? 姫様の好物はクッキーではなくてタルトよ、タ・ル・ト!! 本当に姫様のファンなのか怪しいわね」
「はっ、それくらい当然知っているし! 常識中の常識だし! そういうそっちにはタルトがあるの? ほーら、ないでしょうが!」
「い、今はないかもしれないけど、これから買ってくるんだから!!」
「じゃあ、それまでは姫様はこっちのもんでいいじゃんか!」
まさかのまさかで、悪役令嬢の姫をさしおいて、二つの女子グループは、姫様がお座りになる席を巡って口論を開始した。
「あ、あの……」
思いがけなさすぎる展開に、悪役令嬢のジュスティーヌもタジタジになってしまう。
「ごほんっ。あの、みなさん、どうでしょう? 全員一緒にお茶をするというのは?」
女子グループの本格的なののしりあいにビビッて、なんだか悪役令嬢らしからぬごく一般的な対応をしてしまう。
「あ、あの、わたくし、クッキーもいただきたいし、座り心地のいい椅子にも座りたいなぁと」
すると先ほどまで激高していた女子たちはみな感激のあまり涙を流す。
「びめざまああ、なんておやざじいいい」
結局、テラス席をくっつけて、二グループ合同でお茶を飲んだ。お茶を飲んでいる間中、彼女たちはジュスティーヌを褒めそやす。
「姫様とこうして直接お話ができるなんて、もう死んでもいいですっ!」
「死んではだめよ」
「はい、私は一生死にません!」
「姫様は、女が女に惚れることをどう思いますか? 気持ち悪いですか?」
「いろいろな愛の形があってもいいのではないかしら……」
「はい! これからも姫様を愛し続けることを誓います! あ、といっても殿下との仲は邪魔しませんから! むしろもっと見せつけてください!! 目の保養になるので!」
話している中で、彼女たちが知識技術科に通う平民で、全員2年生だということがわかった。ビビアンやアカネといったクラスメイトの女友達はいたが、気取らない平民の女子とのおしゃべりは意外と心地よかった。
意地悪な目にあうことも、スクープも取れなかったが、ジュスティーヌは飾らない楽しいひと時を過ごすことができた。
翌朝、ジュスティーヌがセドリックたちと寮を出ると、あの皇子の剣同盟のメンバー8名の横に、昨日放課後一緒にお茶をした7人が固まって立っていた。
「ひめさまあ!! 私たち、昨日みんなで話し合って姫様の公式ファンクラブを立ち上げることにしました!」
なんか、すっかりなつかれてしまったらしい。




