第29話 学園のみなさんから熱い恋文を多数もらってしまいましたわ!
週明け、ジュスティーヌはいつものようにセドリックや同じ寮のクラスメイトたちと一緒に教室へ向かった。カイト王子がなにか言いたそうにこちらを見ている気がする。だが、残念ながらジュスティーヌは悪魔皇子アルフォンスと違い人の心がほぼ読めないので気のせいかもしれないと思うことにした。
外野がガヤガヤざわついていたが、これはこれでいつものことなので特に気にしなかった。むしろ、ジュスティーヌが悪役令嬢であることが周知されつつある好ましい状況だと言えよう。
教室の前には各生徒のメールボックスが設置されているのだが、誰かのボックスが溢れかえっていて、入りきらない手紙が床に散乱していた。
ビビアンとケヴィンがメールボックスの前で大騒ぎをしている。
「あっ、ジュスティーヌ姫、おはようございます! ねえ、姫、見てください! 姫にたーくさんラブレターが来てますよ! もうモテモテなんだから!」
「あら、このメールボックス、わたくしのですの?」
今までこの棚に手紙らしきものが入っているのをみたことがないが、急にどうしたというのだろうか。本当にラブレター? なんとなくそんな気がしない。セドリックも同じことを考えているのか、「姫、この手紙、俺が預かって中身を確認してもよろしいでしょうか?」という。
「ふっ、セドリック、何を言っているの。これは学園の皆さまからわたくしに来た熱い熱いラブコールのお手紙よ。もちろん、わたくしがしっかり全部自分で確認いたしますわ」
「わかりました。ですが、何かあったらすぐに俺の教室まで知らせに来てください。決して一人で対応なさりませんように」
セドリックはチラッとアカネやカイト王子を見ながらそう伝えた。ジュスティーヌは分かったとも何とも答えなかったが、アカネたちは軽く「うん」と頷いた。
『死ね死ね死ね死ね……(以下略)』
『バカバカバーカ』
『殺す』
最初に開いた何通かの手紙の内容がだいたいこんな感じだったので、ビビアンはびっくりし、アカネやカイト王子は険しい顔つきになった。フルード公子たちもジュスティーヌが傷ついたのではないかと彼女の顔色を伺う。
「こ、こんな手紙、気にしないでください!」
「そうですよ! 正々堂々と言えないからこうして陰でこそこそ悪口を言っているだけかと」
「俺たちが全力でお守りしますので!」
クラスメイト達が口々に励ましてくれる。
「いいえ、わたくし、この差出人のことがすごく気になりますわ。この学園の生徒として知性が低すぎると思いません? もう少し語彙力を磨かれた方がよろしいわね、この方は」
ジュスティーヌがまるでショックを受けていなそうなことがわかりクラスメイトは少しほっとした。
『この手紙は幸運の手紙です。受け取った人は3日以内に同じ内容を書いて13人に出してください。これを守らない場合には10日以内に不幸が訪れるでしょう』
「1、2、3……13、ピッタリだわ、助かったわ。14人クラスでよかったわ」
ジュスティーヌは、ほっと安堵のため息をもらす。
「えっ、もしかしてジュスティーヌ姫、あたしたちにその”幸運の手紙”送るつもりですか……?」
ビビアンがドン引きしている。
「ええ、そうでないと10日以内に不幸が訪れるとありますので……。わたくし、不幸にはなりたくありませんから!」
さっきの手紙は全然気にしないのに、この手のいたずらはこんなにも気にするのか……とクラスメイト達は思う。
「えっと、多分その手紙送らなくても大丈夫だと思います。俺が子どもの頃にその手紙流行ったんですけど、俺、字を書くのが面倒で手紙出さなかったけど何ともなかったので」
「俺もです。何度かその手の手紙届きましたが、一度も返したことないです。でも特に何もなかったです」
「俺の周りでも流行りましたが、たぶん誰も返事出していなかったっすね」
トムやマイクやダンが自らの経験談を語ってくれた。自らに訪れるかもしれない不幸にもめげずに、手紙を放置した彼らの胆力に、ジュスティーヌは少し感心していた。
「本当ですの? 本当に不幸な目にあっていませんの? 例えば、今日はチョコバナナタルトの気分で買いに行ったらすでに売り切れだったとか、そういう不幸な目に本当にあっていません!?」
「……はい、たぶん大丈夫かと」
と、答えつつ、その程度の不幸だったら、もしかしたら自分の身にも起こっていたのかもしれないとは思う。だが、それが手紙のせいで訪れた不幸かどうかはわからない。
というか、この姫様にとっての不幸ってそういうこと? 死ねとか殺すと言われても何とも思わないのに、チョコバナナタルトが食べられないことは不幸なんだ……。王族ってなんかすげえ……。
「もし、心配だったらその手紙に呪術がかけられていないか調べてみようか? 僕の知り合いで呪術に詳しい人がいるから」
「ぜひお願いしますわ! 絶対に不幸な目にはあいたくありませんので」
カイト王子が提案してくれたので、念のためその人を紹介してもらうことにした。




