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第27話 悪の王女と悪の皇子は逢引だって悪すぎですわ!

「こちらです。お話したタルトの店は」


 しばらくするとアルフォンス皇子が一軒のカフェの前で足を止める。と、店の前にはものすごい行列ができているではないか。評判がいいと彼が話していたのはこのことか。これは期待できる!


 だけど、この行列では簡単に入れないじゃないのとも思う。まぁでもおいしいタルトのためだと列に並ぼうとすると、皇子がささやいてきた。


「裏口があるんです」

「えっ?」

「裏口から入りませんか?」


 ちょ、ちょっと! なにこの皇子、わっるー! こんな爽やかそうな顔して実は腹黒? いや、”実は”じゃなくて実際に腹黒だったわ。


「そ、それはあまりにも並んでいる方々に申し訳ないというか、いくら悪役令嬢だからってやりすぎって言うか……」

「私の特権を行使するだけですよ。姫が気に病む必要はありません」


 はあ!? なんという極悪っぷり! 皇族特権で裏口入店とは、それはあまりにも悪すぎでしょ!


 ジュスティーヌの心配をよそにアルフォンス皇子は姫の手を握ると裏口から入店した。アルフォンス皇子の姿をみた従業員がお辞儀をするとすぐに支配人らしき人物を呼びに行く。


「殿下、姫様、ようこそおいで下さいました。お部屋はすでに準備してございます」


 二階に案内されそうになったので、ジュスティーヌは「実物をみて選びたいのだけど」といってタルトのショーケースらしき場所を指さした。


「ああ、それでしたら全種類お席にお持ちする予定でございます」

「ええっ! そんなに食べられないので、やっぱり見て選びたいのだけど。タルトを粗末には扱いたくないのよ」


 そこまで言ったらさすがに支配人も折れてショーケースの前に案内してくれた。ショーケースの中には目にも美しいタルトが並んでいた。ジュスティーヌは定番の季節のフルーツがたくさん載ったタルトとチョコレートとナッツのタルトを選んだ。


「あー、アルフォンス殿下、今日はわたくし、あなたにタルト二つで買収されてあげますわ」


 ジュスティーヌはわざと周りに聞こえるような声で言った。今日は”悪さ度”で皇子に圧倒的に負けているのが悔しい。


 通された部屋は個室ながら二人で使うには惜しいぐらい広かった。テーブルだけでなく、ソファーやピアノまで置いてあるサロンのような部屋で、ご令嬢たちが何人かで集まってお茶会をするのにちょうどよさそうだった。


 しばらくすると給仕がタルトとお茶と軽食をテーブルに並べ、「ごゆっくりお過ごしくださいませ」と言って去っていった。


 タルトだけでなく、口直しにちょうどいいハムやチーズ、キッシュなども一緒に出てくるとは気の利くお店だ。

 

 ジュスティーヌは大好物のタルトを存分に味わった。


「あ、そうですわ。アルフォンス殿下に伺いたいと思っていたことがありますの?」

「何でしょう? というか、今ここにいるのは俺たち二人だけだから、堅苦しい話し方はやめないかい?」


 普段、人前では一人称私のアルフォンスが俺というのはなんだか新鮮だ。って、そこに感心している場合ではない。


「アルフォンス殿下は、わたしのことどこで知ったの?」

「アルでいいよ。ジュティ」

「わたしは愛称で呼ぶことを許可してないけど……まあ、いいわ」

「覚えてないかな? 昔一緒に遊んだことがあるんだけど」


 やっぱり、子どもの頃城に遊びに来たことのある子どもたちの中に彼もいたのだ。


「あの頃は、君に全く歯が立たなかったなぁ。俺、弱くてさ」


 そんなことがあっただろうか?


 ……あった気がする。


 そういえば、8歳ぐらいの頃、兄たちと勇者ごっこをやったときに魔王役を押し付けられて、ムカついたから勇者一行を全力で叩きのめしたような……。


 あの時、負けた勇者のお仲間役の王子が泣きながら親にチクったので、王妃にひどく叱られたのだ。女の子なのだから、魔王ではなく、聖女として勇者を助ける仲間ぐらいにしておきなさいと。だけど、ジュスティーヌは悪くない。彼女に魔王役をあてがったのは兄のジュリアスなのだから。


「もしかして、あのとき魔王のわたしにけちょんけちょんにやられて親にチクったのあなた!?」

「いや、親に言いつけたのは俺じゃない。だけど、弟のフレデリクがしたことだから、その点では俺も同罪だと思ってるよ」


 なんだと、あの生徒会長が犯人だと!? 道理で、彼にあまり好かれていない、というか露骨に嫌な目で見られるのは子ども時代の勇者ごっこが原因だったのか……。あの男、優男と見せかけて、結構陰険なのね。


「わたしがタルトに目がないのは何で知ったの? 兄から聞いたの?」

「いや、お茶をするときは必ずタルトを食べていたから、しかも、ジュリアスの分まで。それで好きなんだろうなと思っただけだよ」

「よく覚えているのね、そんなことを」

「まあ、君よりもだいぶ年上だからね、覚えているさ」


 ここまで話をして、ジュスティーヌは納得していた。この皇子が妙に親切なのは、あの時、彼の弟のせいでジュスティーヌ一人が叱責されたことを申し訳ないと思っているからだと。償いをしたいのであればしてもらおうではないか。


「ねえ、剣を見せて!」

「お安い御用です。姫君」


 アルフォンスはベルトから(さや)ごとはずすと(つか)をジュスティーヌに向けるようにして差し出した。


 ジュスティーヌは柄に手を添えると剣を鞘から抜き去った。


 想像以上に軽い。きっと相当凄い金属を精錬して作られているのだろう。切れ味も鋭そうだ。実際に使っているところも見てみたい。


「ねえ、これだけの剣をもっているのに、あなたは冒険にでないの?」

「行ってるよ、たまにね。今度俺と一緒にダンジョン探索にでも行く?」

「えっ、いいの! 行きたい!」

「じゃあ、今度会った時にその計画を練ろう」


 アルフォンスはうまく誘導してちゃっかり最低でも二回分のデートの約束を取り付けていた。が、ダンジョンの一言にワクワクが止まらないジュスティーヌはそんなことにまるで気が付いていなかった。

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