第26話 立派なものをお持ちの皇子さまと早く二人きりになりたいですわ!
ジャーナリズムクラブでやるべきことを終わらせたジュスティーヌは寮に戻った。侍女のメリーは「悪役令嬢に相応しいお忍びデート服を用意しておきましたよ!」と随分と気合が入っている。
彼女が用意してくれたブラウンとピンクのストライプ柄のゴシックドレスに袖を通す。前スカートの丈がひざ下と短いところが男を手玉に取る小悪魔令嬢っぽいと言えばそれっぽい。だが、これだけ目立つ服だともはやお忍びではないのでは? と突っ込みたくはなった。
ジュスティーヌがロビーにいくとすでにアルフォンス皇子がいた。というかたぶん、いるんだろうという状態だった。本人の姿は見えなかったが、ここはカーニバルの街ですかというぐらいエントランスの内側も外側も大混雑していたからだ。
ジュスティーヌがそこに登場するや否や、手慣れた先輩数名がが交通整理をするかのごとくギャラリーを左右に誘導してアルフォンス皇子までの道を作ってくれた。
アルフォンス皇子は今日も反則級のイケメンっぷりを発揮していた。いつものピシっとした服装とはまた異なり、シャツの襟もとを緩め、ロングジャケットを肩から羽織っていて随分とくだけた印象だった。そして何より目に飛び込んできたのは、腰には名剣っぽい意匠の長剣を帯びていることだ。
ジュスティーヌも剣士のはしくれである。当然のごとく彼の腰元の剣に目がいく。
あれはなんという剣かしら? 魔力も感じるということは相当な名剣に違いないわ。素材は何? おそらく伝説級の貴重な金属を使っているのでしょうね……。それに、鍔と柄頭の細工の美しさ。誰が打ったものかしら? きっと名だたる名匠の作品に違いないわ! あんな剣を持っているなんて羨ましすぎる!!
「やあ、ジュスティーヌ姫、本日は私のために貴重なお時間を割いていただき感謝します」
アルフォンス皇子に声をかけられているのにも全く気が付かず、ジュスティーヌは腕を組み、片手を口元にあて”考え中”のポーズをとったまま、なんだったらちょっと身をかがめて、彼の下半身を真剣なまなざしで凝視していた。
「随分とご立派なものをお持ちですこと。一度、わたくしの目の前で抜いてみてほしいですわ。裸の状態が見たいのです! もし、適うならば、できればこの手で触ってみたいです!!」
ギャラリーの多くは、ジュスティーヌの言動に、一言で言うとすごく誤解した。特に女子生徒たちは妙に顔を赤らめている。
「ジュスティーヌ姫、さすが、お目が高い。ただ、ここは人が多すぎる。二人きりになったときにでも存分にご覧に入れましょう」
「では、早く二人きりになれる場所に行きましょう! ああ、もう待ちきれませんわっ!」
そういうと、ジュスティーヌはアルフォンス皇子の手を取って走り出した。
早く名剣をじっくりと観察し、できることならばぶんぶん振り回したかったジュスティーヌはものすごい勢いで走った。あわよくば二人のデートを観察したいと思っていたギャラリーたちは到底追いつくことはできなかった。
学園の門をでたところで、ジュスティーヌは気が付いた。
「あっ、で、どこにいけば見せていただけるのでしょうか? どこだったら誰にも邪魔されず、二人きりになれますか!?」
「王女、焦らないでください。私も剣も逃げたりはしませんから。そうですね、まずは街にあるタルト屋に行きましょう」
「……まずは花(剣)より団子ってことですわね」
確かに、おいしいタルトも早く食べたい! 花も団子もよ! わたしは悪役令嬢だからどっちもほしいの! 欲張りなのよ!
「腹が減っては戦はできぬともいいますしね。さあ、参りましょう。こちらです」
今度はアルフォンス皇子に手を引かれて街を歩いた。道行く人が男女問わずにチラチラとこちらを見てくる。これだけの美男美女が手をつないで歩いていれば当然目がいってしまう。
だが、ジュスティーヌは完全に誤解をしていた。彼らのお目当ては皇子の名剣に違いないと。
もしや、この人たちも皇子の剣目当て!? そりゃ、確かにあの剣には目を引かれますとも! だけど、あなた方には渡さない! 残念ながら名剣は使い手を選ぶのよ、あなたたちでは到底扱いきれないわ!
ジュスティーヌは、疑いの目、納得の表情、強気の形相ところころと表情を変えた後、なぜか勝ち誇った顔で落ち着き、アルフォンスと二人で街を歩いていた。
「その服、ジュスティーヌ姫によくお似合いですね」
急にアルフォンス皇子が話しかけてきた。
彼の褒め方が「かわいい」とか「素敵」ではなく、「似合っている」と言ってきたということは、悪役令嬢っぽいと思っているということねと自己完結で納得する。
「ええ、侍女のメリーがわたくしにピッタリの服を用意してくれたの」
メリー、グッジョブ! やっぱりこの服は悪役令嬢っぽかったのね! お土産においしいタルトを買って帰るわね。
「そうですか。それは実に優秀な侍女ですね」
「ええ、そうなのよ。メリーのアドバイスはいつも的を射ているのよ」
二人は雑談をしながら街を歩いた。しばらくすると一軒のこじゃれたカフェの前に到着した。




