第20話 悪役令嬢、パーティに降臨ですわ!
学園の新入生歓迎パーティは、主催は生徒会で、各種ギルドからも補助が出ているため、本格的なものだった。
参加者も錚々たる面々だった。王族や貴族の上級生だけでなく、卒業生や街の有力者、特別講師なども参加するらしい。
ジュスティーヌはクラスメイトと一緒にぞろぞろと会場に入場した。参加者が多いので、この程度ではなかなか人目に留まらない。
と、本人は思っていたのだが、実際には結構注目されていた。「あれが、あの?」「まじか、よく見るのは初めてだよ」といったひそひそ声が聞こえてくるのだが、そもそも会場がガヤガヤしているので当人の耳には届いていない。
しばらくするとご令嬢たちがキャーキャー騒ぎ出した。生徒会メンバーが来たらしい。会長のフレデリクと副会長のエルドリックに挟まれた安定の位置に聖女候補のソフィーがいる。大きなリボンがいくつもついたピンクのフリフリドレスを着ているソフィーは会場の男性たちに手を振り微笑みかけ、愛を振りまいていた。そこかしこから「かわいい」「ソフィー!」と叫ぶ男性の声が聞こえてきた。
ほかの上級生や来賓も次々と入場してくる。そんな中でひときわ大きな歓声があがった。相当なBIPが来たらしい。一体どのような人なのかと思いチラッと歓声があがっている方に目をやると、生徒会長の兄にしてブリオントクロヌ帝国の第二皇子アルフォンスではないか。ジュスティーヌの初ダンスで足を踏ませてくれなかったあの変態男である。皇子はあっという間に、男女問わず大勢の人に取り囲まれていた。
これだけ騒がれるってことは、あの人ってば意外と人気者なのね。ソフィーは皇位継承順位が低いなんて言っていたけれども、変態のくせに弟の生徒会長よりも人望がありそうだわ。
相手は学園でも相当な有名人なのか、ジュスティーヌを目にとめることもなくほかの王族や貴族の挨拶を受けては談笑していた。
あの男、この間は軽く婚約しようとかなんとか抜かしておきながら、もうわたしのことなんて全く忘れているじゃない! 変態なうえにあんなチャラ男だったなんて! あんな男のことは記憶から抹消するに限るわ!
こうなったらやけ食いでもするしかない。
ジュスティーヌはビビアンとアカネと同級生男子のトムとマイクの5人でビュッフェの料理を食べて回った。こういう場でガツガツ食事をするのは貴族のご令嬢のすることではない。だからこそ、精一杯ガツガツ食べた。悪役令嬢らしい生き様には程遠いが、意地汚い女だと思われれば、それだけ婚約も結婚も遠ざかるだろう。
常にもぐもぐしていたからか、その間ジュスティーヌに声をかけてくるものはいなかった。これはこれでありだ。こうして大食い女のレッテルを貼られることにしよう。
会場内で食事に手を付けている淑女は、おそらくジュスティーヌだけだった。これぞまさに花より団子である。アカネとビビアンはよくわからないまま「おいしいです!」と料理に感激して一緒にもぐもぐしてくれていた。
二人とも、もしお上品な淑女を気取る予定だったら本当にゴメン! でも、賄賂にドレス贈っているからいいよね?
パーティ会場を軽く見渡すと、ソフィー嬢が男たちに囲まれながら、その辺の平民っぽい男子たちに「レッツゴーエンジョイおいしーイートだよぉ」と言いながら「あーん」をしてあげている。
男たちはソフィーにおいしい料理を食べさせてもらってうっとりとしているが、何気にフォークを共有しているので、男同士で間接キスである。少し冷静になれ、男たちよと思う。
というか、フレデリク皇子やエルドリック王子は本当にあの女でいいわけ?
さすがに二人はソフィーと”おいしーイート”はしていないが、常にソフィーの横に寄り添っている。
さすがに隣でみていたアカネやビビアンもソフィーと男たちの様子をみてビビっていた。庶民の世界では異性の"友人"にあーんをしてあげるのが普通というわけではないらしい。
食べるだけ食べ、知り合いの先輩方に一通り挨拶をする。せっかくの交流会だし、アカネやビビアンもいたので、隣のクラスの同級生にも一応挨拶をしておいた。この時間に多くの男女はダンスの相手を探すのだ。もっとも、婚約者や恋人がいる場合にはファーストダンスの相手は決まってはいるのだが。
ジュスティーヌは今日は自分は踊らず、取材という名目の人間観察に終始しようと思っていたので受付でダンスカードはもらっていない。アカネやマイクたちと一緒に行動していたことが幸いしたのか、今まで話した人の誰もダンスの申し込みをしてこなかった。
「ダンスの時間になったら、わたくしたちは壁際に移動して、”壁の花”になるわよ」
アカネとビビアンに予め断っておく。
意味が分かっていないのか、「花だなんて素敵!」とビビアンが言う。
一方、アカネは、「私は花よりももっと目立たない存在になりたいので、壁のつる草になります」だそうだ。壁のつる草……。だから、草っぽい色のドレスを選んだのかしら、彼女は……。
平和防衛隊4号のマイクは「じゃあ、俺は壁を這うトカゲになってみせます」という。彼はどうやらコウモリやクモ、トカゲの様な生き物が好きらしい。
地味なトムに至っては「俺は壁に貼られた指名手配犯のポスターでいいです」とのこと。そこまで自分を卑下しなくてもよくないか?
「じゃあ、そろそろ壁際に移動しますわよ」
ソフィー風に言うと、「レッツゴーエンジョイダンス見学ね!」などと思いながら会場の群衆に背を向けて移動しようとしたら、突然、誰かに腕を掴まれる。
振り返るとそこにはあのアルフォンス皇子が立って最強の王子様スマイルでこちらを見つめていた。
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