第129話 ダンジョン演習前のガイダンスがありましたの。
次に使えるようにしたい光魔法は、何と言っても回復魔法だろう。回復力を秘めた属性は、水や風にもあるが、なんといっても光魔法が圧倒的に強力だ。ジュスティーヌも自然回復力を高める風魔法は使えるものの、ケガそのものを直接癒す回復魔法はまだ未収得だった。
魔法の習得は一朝一夕にはいかない。この先も聖女を凌駕する悪女を目指すべく、光魔法の腕を磨こうとジュスティーヌは己に誓っていた。
そして、ついに、来週から念願のダンジョン演習が始まる。全部で20のパーティに分けられた生徒たちは、1日4パーティずつダンジョンに挑む。1日の実習を何周かしたところで、今度は1泊でダンジョンの探索を行うのが通例となっていた。
生徒一同は、パーティごとに第一武術訓練場に集められた。
全体に向けての注意事項が伝えられた後に、まずは、来週からの実習の際、引率する予定の冒険者が紹介された。アルフォンスやユリシーズのほか、ルクレツィアがが連れてきたイケメンたちも含まれていた。あとは冒険者ギルドから派遣されたゴールドランク以上の冒険者たちだった。それからもう一人、今はここにいないが、週明けに強力な助っ人が来てくれると紹介があった。
次に、自分たちがいつダンジョンに挑戦するのかの発表を待った。
「1日目の探索を行うパーティを発表する。呼ばれたものは前に来るように。まず最初のパーティは『レッツゴーエンジョイロイヤルズ』」
これ、絶対にフレデリク殿下とソフィー先輩のパーティじゃん……。
「次に、ぷっ。『魔法の使えないレナードと両方いけちゃうウルトラ戦隊』」
いや、今、ブラウン先生、笑ったわね、笑ったわよね?
パーティ名を読み上げた教師だけでなく、そこかしこから軽い笑い声が沸き起こる。よく見ると、前に立っているアルフォンスも横を向いて肩を震わせていた。
「3パーティ目は、『皇子の剣戦闘第一歩兵小隊』。最後は、『深淵なる闇より顕現せし刃の蒼き使徒』」
最後のパーティは完全に中二病の集団ね。
お前がそれを言うかと突っ込まれそうな感想を抱くジュスティーヌだった。
その後も、他のパーティには演習の実施日だけが告げられた。そして、他のパーティが帰ったところで、引率の冒険者が発表される。
「『レッツゴーエンジョイロイヤルズ』はアルフォンス殿下にお願いします」
発表されると同時に、アルフォンスはレッツゴーなパーティたちの前に進み出て、「よろしく頼む」と一言挨拶をした。
えっ、アル、わたしのパーティじゃないんだ……。って、別に楽しみにしていたわけじゃないし! 別にアルがいなくても全然平気だし!
次に皇子の剣うんちゃらと深淵なんちゃらの引率者が発表される。前者はユリシーズで、後者はルクレツィアの取り巻きイケメンだった。
えっ? わたしたちのところは?
「あー、魔法の使えないレナードのパーティには、本日所用があって来られないルック・ランドランナー氏が担当する」
誰、それ? っていうか、ルック・ランドランナーって光の剣を使う、最強のじえーたいの騎士と同じ名前? そんなのってある?
「彼からは伝言を預かっている。『本日は都合がつかず、事前に顔合わせをすることができずに申し訳ない。私もこの学校の卒業生だ。どうか、私のことは気軽に”おにーちゃん”と呼んでほしい』。以上だ」
えっ、それだけ? 姿もみせずに、大先輩だからっておにーちゃんと呼べと言われてもねぇ……。
無意識のうちに、ジュスティーヌはアルフォンスをじーっと見つめていた。視線を感じたのか、アルフォンスがこっちを見て、口元を緩めた。彼の笑顔が目に入り、初めて、自分がアルフォンスをじーっと見ていたことに気が付く。
慌てて横を向くと、こちらを怨念の籠った暑苦しい目で、だが冷ややかなオーラをまとい睨んでいる者の存在に気が付く。
アルフォンスの弟のフレデリクだ。
あろうことか、彼と目が合ってしまった。
フレデリクは、目が合うと、露骨にニヤッとした顔でジュスティーヌを嘲笑した。ジュスティーヌはハッとなった。
えっ、今、フレデリク殿下にあざ笑われた気がするのだけど。もしかして、ひょっとして、彼もアルフォンスの虜だったりする!? 完全に盲点だったわ……。
今まで、何となく彼に嫌われているのは、子どもの頃の魔王ごっこが原因だと思っていた。だが、これは違う! そんなあまっちょろい恨みの感情ではない。執着、嫉妬、焦燥、因縁、愛憎、いろいろなものがごちゃ混ぜになって固まったようなドロドロの情念である。フレデリクはソフィーと親しくすると見せかけて、実は心のうちに兄を想っていたのではないか!?
おそるべし、アルフォンス……。数多の女性たち、ごっつい男たち、はたまたおじいさんからクマにとどまらず、実の弟までその毒牙にかけ、聖女のような魔法の力ではなく人力で魅了していたとは……。
ジュスティーヌが愕然とした表情を浮かべていると、レナードが心配してくれる。
「愛する妻よ。引率のルックなにがしがどんな奴でも問題ない。この通りすがりのスーパーヒーロースターレナードさまが全力で妻のことを守る。大船に乗った気分でいてくれ!」
「そうだよ。ルック氏といえば、話の中では最強クラスの騎士じゃないか。それと同じ名を名乗る卒業生ってことは、きっとアルフォンス殿下のように心強い存在だよ」
カイトまで慰めてくれる。
「ルック・ランドランナー? おにーちゃん?? 学園の卒業生??? まさか……!」
セドリックだけは、その存在を訝しがっているようだった。小声でぶつぶつ言ったかと思うと、青い顔をしていた。
一抹の不安を残しつつも、ダンジョン演習は週明けに迫っているのだった。




