第11話 悪役令嬢ですから、ナンパ男を撃退してやりましたわ!
男はジュスティーヌの言っている意味――今すぐこの場を立ち去れと伝えた仏心がよく理解できなかったようだ。
「ちょっと待ってくれよ、お嬢さん」
男はジュスティーヌを追いかけてさらに話しかけてくる。
「お嬢さん、あんまり大人の男をなめるなよ。俺をけちょんけちょんにするって? 笑えない冗談だな。こう見えても俺はシルバーランクの冒険者だぜ。どうやってけちょんけちょんにするのか見せてくれよ、なあ」
男の言葉は、すでにナンパというよりは、喧嘩を売ってくる粗暴なごろつきのようだった。ジュスティーヌは立ち止まるともう一度男に告げた。
「……これがシルバーランクの冒険者の姿とは嘆かわしい。いいですか、これが最後の警告です。今すぐわたしの前から立ち去りなさい。そうでないならばこちらも遠慮はしない」
「ほう、言うじゃねえか、女、俺をなめんな!」
男はジュスティーヌにつかみかかる。
周りで見ていた男たちは、このか弱そうな華奢なお嬢さんがこの男にひん剥かれてあられもない姿になり涙を流して抵抗する、そんな下衆な場面を期待した。
が、男はジュスティーヌをつかめない。男の右手は思いっきり空を切ったことで、バランスを崩す。ジュスティーヌは男の腕が伸びてきたのとは反対方向にかわしつつ背中に回る。そして、間髪入れず軽快な蹴りを背中に入れた。
「ぐはっ! がはっ!」
男はそのまま飛んで行って、酒場の前におかれた大きな酒樽にぶつかり倒れこんだ。
自称シルバーランクの冒険者なだけあって、男はさすがにこの一撃でダウンしたりはしない。身を起こし、立ち上がると叫ぶ。
「おんなああ!!!」
ブチ切れた男はついに腰に挿していた剣を抜き去ると、ジュスティーヌに向け切りかかった。
素手対剣となると、これは流石にやばいだろうと見物人たちはざわめいた。
だが、心底心配するのではなく、どうせだったら服を切り刻むだけで肌は傷つけないでほしいと身勝手な願望を抱いていたのだった……。
しかし、男は何度剣を振るいおろしてもジュスティーヌの肌を傷つけるどころか、服をかすめることさえできずにいた。男の剣はすべて彼女の身軽なステップによって軽くかわされてしまっている。
なめるなって、それはこっちの台詞よ! あの変態皇子の足を踏み損ねた屈辱の夜から百数十夜、磨きに磨いたわたしのウルトラ・カタルシス・ステップをなめるなあああ!!
男が「この女、ただ者じゃない」と悟ったときにはもう遅かった。
「アイスナックル」
攻撃をかわしながらジュスティーヌは己の右拳に氷の力を宿すとそのまま剣をグーパンでぶっ叩いた。
鋼鉄の剣はジュスティーヌの拳から伝わった氷でガチガチに凍ったかと思うと一瞬にして脆くなり、グーパンの衝撃でバラバラっと音を立てて砕け散った。
まさかのまさかで剣に拳が勝ってしまった。
一瞬にして愛剣を失った男は茫然自失となって口を開けたまま立ち尽くす。
そこにとどめの一撃。ジュスティーヌは油断している男の後ろから、首元に手刀を食らわせる。すでに気の抜けていた男はあっけなく意識を失い、崩れるように倒れこんだ。
「わたしの名はジュスティーヌ。グランソード王国の第一王女である。今、わたしは、わたしの名誉を汚そうとした上で、街中で理由もなく剣を振り回す危険極まりない男に制裁を加えた。聞くがよい、この街の住人どもよ。今後この街で嫌がる女性をその意に反して無理やり従わせようとする不埒な男がいたら、このわたしが許しはしない。今、この場にいないものにもよく言って聞かせよ!」
最後の一文がポイントだ。これでわたしの悪評と高評価の両方がケヴィンとこの街に広がるだろう。
一部始終を見ていた無頼漢たちは「ははーっ」と言って一斉に平伏した。
「そこの4名。ここで寝ている迷惑極まりないこの男を冒険者ギルドの自警団に引き渡しておいて頂戴」
気を失って道のど真ん中でひっくり返っている男をそのままにしておくわけにもいかず、とりあえずその辺の男たちになんとかさせることにする。
「は、はい! お任せください、姫君」
「わたしは姫君ではないわ」
「えっ、はっ、ですが先ほど……」
「いい、今からわたしはこの街の平和を守る正義のヒロイン……そう、魔法少女マジカールよ!」
そういうと、ジュスティーヌはベルトに挿していたステッキを取り出し、それを高らかに空に掲げた後、くるりと回転して、胸の前で腕をクロスさせた。本人としては魔法少女っぽい決めポーズをとったつもりだった。
一度名乗った後でなんだが、やっぱり正義のヒロインは正体不明のほうがカッコいいと思ったのだ。魔法少女になったのはとっさのことだったので、決め台詞まではまだ思いついていない。
えっ、もしかして、マジック+ガールでマジカール? あまりにもセンスなさすぎな命名といきなり妙なポーズをとったジュスティーヌを見て、セドリックは思わず吹き出しそうになった。
◇ ◇ ◇
喜ばしいことに、ジュスティーヌの目論見通り、彼女が繁華街で暴漢を撃退したという話はあっという間に学園内に伝わった。
そして、ケヴィンほか数名の男子たち(確か、名前はマイク、ボブ、ダン)が、
「ジュスティーヌ姫様、街で暴れる大男をけちょんけちょんにしたというのは本当ですか!? 俺にもぜひ、この街の平和を守る協力をさせてください!」
と、何が何でも悪役令嬢の取り巻きにしてほしいという申し出をしてきた。
と、ジュスティーヌは解釈した。
「まあ、けちょんけちょんにするのはかわいそうだったので、けちょんぐらいで許しておいてあげたわ。よろしくってよ! わたくしたちで、街と学園の平和を守りましょうっ!!」
こうして、中立都市パックスウルブスと魔法技術学園の平和は、悪役令嬢とその取り巻きたちによって守られることになるのだった。




