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最強の悪女の仕立て方。~不幸な結婚をしたくないので、悪役令嬢を目指しているのに、なぜかイケメン皇子その他大勢に愛され、困惑しつつも学園生活を満喫していますわ!  作者: いか墨ドルチェ
第三章 学園の華は、何といっても悪女と学園祭ですわ

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第107話 イケメン・美女名鑑は完売ですわ!

 ジュスティーヌとアカネは12時から1時間、店番の予定であった。例年、この名鑑は人気で、ほぼ1日目で売り切れとなる。特に、一昨年は、すでに市民にも人気者だったアルフォンスが表紙だったこともあって、増刷していたのにもかかわらず、昼過ぎには売り切れてしまったらしい。


 ジュスティーヌが販売コーナーに姿を現すと、名鑑購入のために列を作っていたお客さんたちは大喜びだった。


「ねえ、あれ表紙の人じゃない?」

「本当だ! 写真よりもかわいい!」

「あの、サインしてください!」

「えっ、サ、サインですの?」


 お願いしてきた女の子が手にしていた表紙に自分の名前とその子の名前を書いてあげる。すると、その隣にいた子も、それを見ていた近くにいた人も、老若男女問わず次々とサインをねだってきた。


 いつの間にかジュスティーヌの仕事は、名鑑の販売員ではなく、サイン担当になっていた。


 そして、表紙の美女がサインまでしてくれるとあって、今年のイケメン・美女名鑑はあっという間に売り切れてしまった。


 ジャーナリズムクラブと共同出版した街マップの『パックスウルブスの楽しみ方』も好評のようで、こちらも300部印刷したものが完売だった。


「名鑑、来年はさらに増刷しましょう!」

「大賛成です!!」

「ついでに街マップにも姫様と殿下を登場させてじゃんじゃん売りましょう!」

「超大賛成です!!」


 来年部長を務めることになるであろうオリビアがそう宣言すると、部員たちも賛同する。


 売るものがなくなってしまったため、撤収の準備をしていると上品なご夫人がやってきた。


「名鑑、売り切れてしまったのね。あら、残念だわ」

「はい、おかげさまで。楽しみにしてくださっていたのにすみません」


 ジュスティーヌは、その様子をチラッと見る。なんだかあのご夫人をどこかで見たような気がする。


「あら、もしかして、マチルド夫人では?」

「まあ、ジュスティーヌ姫様!」

「姫様のお知り合いですか?」

「ええ、アルフォンス殿下の乳母をされているご夫人ですわ」

「おお! いつも殿下にはお世話になっております。今年もご協力いただきありがとうございました」

「こちらこそ、いつまでも呼んでいただけるとは有難い限りです」

「マチルド夫人、わたくしの名鑑を1冊お譲りしますわ」

「それはありがたいのですが、姫様の貴重な1冊をいただくわけには……」

「お気になさらず。わたくし、こちらのクラブ員だから、少し余計に持っておりますので」


 通常、生徒は一人1冊しか購入できないのだが、クラブ員は自分たちの仕事の成果でもあるので、3冊配布される。それに加えて、ジュスティーヌは名鑑に登場しているので、さらに1冊もらえたため、全部で4冊持っているのだ。


 4冊も持っていても、親兄弟、親戚と親しくないジュスティーヌには使い道がない。


「部室にあるので、取ってきますわ。少しお待ちくださいませ」

「それならば、私もご一緒させていただいてもいいかしら?」


 そういうとマチルド夫人はジュスティーヌについてきた。


 恋人の母親に見張られているみたいで、なんだか気まずい。


 いや、恋人じゃないでしょ!


 と自分に突っ込んでみる。すると、マチルド夫人の方が唐突に話を切り出してきた。


「私も、側妃様も、ジュスティーヌ姫様には感謝しておりますのよ」

「いいえ、わたくしのほうこそ殿下にはお世話になりっぱなしで、感謝されるようなことは何もできておりませんわ」


 マチルド夫人の言葉は社交辞令かもしれないので、こちらもとりあえず社交辞令で返す。


「姫様と出会ってからの殿下は、別人のように生き生きとされて。あのような殿下の姿をもう一度見られるとは思っていなかったので、本当に嬉しいのですよ」


 あのキラキラ皇子、わたしと会う前はどんよりと死んだような感じだったのかしら? まるで想像できないわ。


 マチルド夫人の話は、よくある話と言えばよくある話だった。


 正妃の子どもよりも側妃の子どもが優れている。そのことで、側妃の子を担ぎ上げようとする輩がいる。


 その結果、政争の道具にされた子どもが、様々な形で犠牲になる――最も悲惨なケースだと、命を落とすことになるのは、この世界では決して珍しい話ではない。


 アルフォンスは聡い子どもだった。だから、誰かが自分を利用しようとしていることに気が付き、自分や母親を守るため、ある時を境に自らの能力を周りに見せることをパタリとやめた。


 周りの大人は無責任だ。


 それまで「神童だ」と褒めそやしていた者たちは一斉にそっぽを向いた。それだけにとどまらず、「神童も二十過ぎればただの人という言葉があるが、こいつは十でただの子どもに成り下がっちまったな」などと、露骨に嫌味を言うものまで現れるぐらいだった。


 そうしているうちに、だんだんやる気そのものも失った。報われない努力ほど虚しいものはないのだから。ほしいものも、やりたいことも何もない。


 それでも、見てくれのいいアルフォンスはご令嬢たちには人気だった。彼女たちはやたらと「殿下はとても素敵ですわ」という。だが、「何がそんなに素敵だと思うんだ?」と聞いても彼女たちは口ごもり、答えられない。怠け者の自分が素敵なわけあるか、そう自嘲する。


 彼にとって人生は退屈でしかなかった。


 ある時、外遊の中で訪れた他国での出来事だった。


 目の前に、とてもかわいい女の子がいた。ただのかわいい子のようでその子の瞳は、愛らしい容姿に似つかわしくない、何かを秘めているような瞳だった。


 思わず、「君のようなかわいい子と結婚したいな」と口にしていた。半分は本心であり、半分は試すようなつもりで。


「あなたは全然好みじゃないから嫌よ」


 好みじゃないなどと言われるのは、生まれて初めてだ。勇者と一緒に魔王を倒すと宣言した彼女は、自分には城の片隅で待っていろと言う。


 彼女が秘めていたのは、3年前に自分が捨てたはずの野心であり、自信であり、希望だった。


 そして、言葉の通り、女の子は実際に強かった。年下の女の子にぶっ飛ばされてアルフォンスは完全に目が覚めたのだ。


 本気で彼女と一緒に旅がしたいと思った。


「ふんっ、あなたなかなかやるじゃないの。いいわ、仲間にしてあげるわ」


 そんな風にこの女の子に褒められたいと願った。


 強くならなければならない。誰よりも強ければ、誰も自分を利用することなどできないだろう。誰も自分や自分の大切な人に手出しはできなくなるだろう。


 アルフォンスは小さなジュスティーヌと出会って、初めて本気でほしいと思うものが、守りたいと思うものができたのだった。

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