第106話 学園祭を楽しんじゃいますわ。
学園祭2、3日目は、パックスウルブスの市民への一般公開日である。ジュスティーヌは2日目の午後と3日目の午前中がカフェの担当で、1日目のお昼がジャーナリズムクラブの店番担当だった。それ以外の時間は取材をしながら自由に過ごせる。
ということで、午前中は、同じく非番のカイトやアカネたちとほかの企画を見て回った。
まずは、セドリックたちのお化け屋敷に行ってみる。魔物が出てきたらこれで退治するようにとスポンジボールを各自5個渡される。その際、魔力を込めたり、他の方法で攻撃をしないようにと注意される。
薄暗い森のような場所を進んでいくと、たまに魔物役の生徒が「うおーー!」と叫びながら突然現れる。彼らの身体には点数が付いていて、スポンジボールが当たるとその点数が入るという仕組みだった。
ジュスティーヌは当然、セドリックと思しき海坊主に向けてすべてのボールを投げつけた。頭が10点、胸が5点、腕が1点だったので、全部のボールを頭目がけて投げる。
しかし、ジュスティーヌの行動パターンをすでに把握済みのセドリックは、全てのボールを腕で受け止めた。
「はあ? 腕動かすのってズルくない!」
「ザンネンデシタ。アナタノ テンスウハ タッタノ5点デス」
「しかも、なんでこの魔物だけしゃべるのよ! 他は『うおー』とかしか言わないのに!」
「タッタノ5点デス」
「うるさい! もう分かったから!」
「ザンネン。アナタノ マケデス!」
「こらー、セディー!」
嫌味な海坊主は、怒られてようやく大人しく姿を消した。
次に、レナードの屋台で串焼きやアカネと同郷の先輩が作っていた焼きそばを買う。
「スターレナード、エビとキノコの串焼きを1本ずつくださいな」
「愛しの妻よ! 遠慮は無用だ! 100本ぐらい持って行ってくれ!」
「いえ、そんなに食べられませんので……」
「兄上、ジュスティーヌ姫にもほかの方にも逆に迷惑ですから、その手の無駄に重すぎる愛はやめてください。嫌われますよ」
「くっ……カイト、我が愚弟よ。お前、随分と口答えするようになったではないか……」
そういうと、レナードは1本だけイカの串焼きをおまけしてくれた。
広場に設けられた仮設のステージでは、屋台で買ったものを食べながら出し物が見られる。そろそろクラスメイトが登場する武術鍛錬クラブの演武が始まるので、串焼き片手にステージ前の椅子に腰かける。
焼きそばなる異国の庶民の食べ物は初めて食べるが、これが意外にも素朴な味わいで、美味であった。
ステージではちょうど、魔術クラブの『マジめなマジック』という演目が行われていた。魔法を様々な形で生活に応用する技術の紹介で、お役立ちなうえに見ていても楽しいものだった。特に、本棚の本を、タイトル順やジャンル順に並び替える魔法は便利そうで、部屋に戻ったら早速試してみようと思った。
次のステージは、ジュスティーヌのカフェに風評被害を訴えに来た、ソフィーの演劇だった。これが、なんというか、幼稚園児のお遊戯でももう少しましではないかと思ってしまうレベルで、突っ込みどころ満載な出来栄えだった。
ヒロインの聖女役がソフィーなのは、まあお約束といったところだが、彼女をいじめる悪役令嬢の役が、女装した男なのだ。この時点ですでにこの話は安っぽいコメディと化していた。
さらに、ヒロインと恋仲になる王子様役が、小学生が描いたような絵のお面と金髪のかつらを被っているのだ。王子役の男子生徒がイケメンでないにしても、あの落書きのようなお面よりはましなのでは……と、そのお芝居を見た誰しもが感じていた。
「ねえ、アカネ、これっていわゆるコントというやつかしら?」
「……おそらく、違うと思いますが……」
「では、これはラブコメ?」
「……たぶん、違う。少なくとも、役者たちは……そういう意図を持っては……いない」
カイトがお腹を押さえ、肩をプルプル震わせながら必死に答えてくれる。
「じゃ、じゃあ、真面目な顔してみないといけないのよね……」
ジュスティーヌは笑い転げないように腹筋により一層力を籠める。
「あはははっ あっ、すまない」
「カイト! 笑わないでよ! こっちは必死に耐えているのだから!」
「いや、でも、今のシーンはさすがに! ぷっ、くくくっ……」
ジュスティーヌたちのそんな会話の横で、他の観客たちは容赦なく大爆笑していた。
15分ほどの短い劇だったが、15分間腹筋を鍛え続けたときのような疲労感を、腹部に感じた観客たちであった。
「想像以上に地獄だったわね……明日、お腹が筋肉痛になりそうだわ……」
「僕もだよ……」
「同じく。聖女候補と仲間たち、おそるべしですね……」
その後は、フルードやケヴィンたちのステージだった。ジュスティーヌたちの目から見ると、1年生の演武はまだまだだと感じるが、お客さんたちは満足そうだった。
「なんというか、2年後が楽しみな感じね」
「はははっ、ジュスティーヌ姫は手厳しいね」
「あら、まだまだ伸びる余地があるという誉め言葉ですわ」
カイトは幸せだった。学園祭をジュスティーヌと見て回ることができて。その場にはもう一人、アカネがいたものの、一緒に笑って、一緒に食べて、感想を言い合って。ちょっとデートをしているような気分を味わえたから。
自分たちの出番が終わった武術鍛錬クラブの同級生たちが合流してきた。しばらくすると、ジュスティーヌとアカネはジャーナリズムクラブの店番があるといってその場を離れていった。
12時の鐘が鳴り、シンデレラの魔法が解けるように、カイトが味わった束の間の恋人気分もここで終わってしまった。




