第105話 悪役令嬢の兄がうざキモのシスコン認定されましたわ。
最後の台詞を声に出してしまったものの、周りの拍手にかき消されて、なんとか誤魔化すことができた。アルフォンスに促されて、拍手をしてくれたお客さんたちに向けて挨拶をすると、二人は店内へと戻った。
女の子たちが目を輝かせながら拍手する様が目に入る。
「アルのおかげでお客さんを喜ばせることができてよかったわ。でも、次は突然じゃなくてちゃんと予告してよね。こっちだっていろいろと心の準備が必要なんだから!」
「ごめん。でも、君がいつもいつもかわいい反応をしてくれるから、つい驚かせたくなってしまうんだよね」
二人が親し気におしゃべりをしているのを見てある女子が突っ込んでくる。
「お姫様は、殿下のことが好きなんですか!?」
「ええー!?」
お姫様らしからぬ大声を出してしまった後で、ジュスティーヌは扇子を取り出すと誤魔化すかのように口元を覆う。
「おほほほっ。ま、まさか、わ、わたくしと殿下はただの……」
「ただの?」
「ただの……」
ただの、何だろうか? デュラハンと首だと一心同体だと言われるし、気が向いたらキスする関係? それはなんかアブナすぎる関係だし。友達? 友達とは普通キスはしない。
じゃあ、わたしにとってこの人は何? …………す、好きな人…………。ないないないない! それはダメ! それだけは絶対にダメよ、ジュスティーヌ!
ジュスティーヌは何も答えないまま、ただひたすらブンブン首を横に振っていた。
「俺の片想いなんだ。彼女は人気があるからね、なかなかYesと言ってくれない」
「えっ、ええー! 殿下が片想いですかー!」
「うっそー! こんなにカッコいい人が片想いなんてありえない!」
「お姫様、殿下の何がダメなんですか?」
「殿下よりもイイ男がいるんですか!?」
「そんなの絶対にありえない!」
「えっと、えっと……」
助け船を出すつもりでアルフォンスが言った一言が、逆に火に油を注いでしまう結果となる。小学生女子たちに詰め寄られて、アルフォンスは苦笑いを浮かべ、ジュスティーヌも目をパチクリさせている。
「その、なかなかYesと言ってくれないのは、彼女の兄の王太子で」
こういう時はその場にいない誰かに責任を擦り付けるに限る。
「まじかー! 何でその人は殿下だとダメだと思ってるんですか!?」
「実は殿下がカッコいいから嫉妬してるんですか!?」
「うーん、それはあるかもしれないな。なんせあいつは極度のシスコンだからな」
「うわっ、シスコンはキモイ、最悪だわー」
「その兄うざすぎー!」
女子たちは恋の敵役であるシスコンの兄なる人物の悪口をこれでもかと言いまくる。
「ふっ、ふふふっ、はははっ、あーはははっ! あっ、失礼。皆さんが兄の悪口を、代わりに言ってくださったので、とても愉快な気分になってしまいましたわ」
「お姫様! クソキモ兄の妨害に負けずに、殿下との愛を育ててください!」
「本当、本当! その兄、はっ、死ねよって感じ」
「あたしたち、殿下とお姫様のこと全力で応援しているんで!」
「二人の結婚式楽しみにしています!」
「ダメ兄貴が二人を妨害しにきたら、みんなで石を投げつけてやるんで! 任せてください!」
「それは心強いな。ね、ジュスティーヌ姫」
「え、ええ、そうですわね、アルフォンス殿下」
本人の全く知らないところで、徹底的に悪者にされて、罵詈雑言の限りを尽くされるジュスティーヌの兄ジュリアスだった。
結局、この日は、30分おきぐらいにアルフォンスとジュスティーヌはダンスを披露した。これは男子女子問わず、想像以上に好評だった。
あの鬼ごっこの悪ガキたちでさえも、目を輝かせながら二人のダンスに見入っていた。
カイトと海鮮バーベキューを焼いていたレナードはその都度、複雑な思いで二人を見ていたのだが、ジュスティーヌはそんなことにはまるで気が付いていなかった。
それよりも、閉店間際に、あのソフィーがめちゃくちゃプンプンしながら突っかかってきた。
「もお! 全部ジュリジュリのせいなんだからね!」
「何がですの?」
「あたしの劇、ジュリジュリのせいでめちゃくちゃだった!」
「劇? ああ、聖女と王子の物語みたいなお話でしたっけ?」
ソフィーの学年はセドリックたちお化け屋敷派と、ソフィー派に分かれて出し物をすることになったのだ。そして、ソフィー派はソフィーがお気に入りの話を演劇にしたのだ。
だが、残念ながら客の入りも悪く、その客が「王子様とお姫様の舞踏会の方が素敵だった」などと口にしながら帰って行くのを聞いてしまったのだ。
「みんなが、聖女よりも、王子様にはお姫様がお似合いだって!」
「……それは人の好みですから、わたくしは何とも言えませんわ」
「お姫様と王子様だと超ふつーじゃん! 聖女と王子様の方が絶対にいいじゃん!」
「はあそうですか……」
「営業妨害だからね、ジュリジュリのそれ!」
「そう言われましても……。まぁ、でも明日はわたくしお姫様にはならないので」
「何になるの?」
「メイドですわ」
「ぷっ、ぷー! お姫様が召使! ジュリジュリが平民役! うん、確かにジュリジュリはお姫様よりもメイドの方が似合ってるとおもう! レッツゴーエンジョイ召使だね!」
言いたいことを言いたいようにぶちまけたソフィーは勝手にすっきりして去っていった。
だが、ソフィーはまだ知らない。ツンデレメイドさんの持つ恐るべき破壊力を。




