第104話 姫と王子のカフェへようこそ、ですわ。
ジュスティーヌたち、戦闘技術科の1年生は合同で午後はコスプレカフェを営業する。鬼ごっこはチケット不要で参加できるが、コスプレカフェはクッキーとお茶セットがチケット1枚、タルトとお茶セットがチケット3枚で利用可能だった。
そして、回転数をあげるため、10分以内に席をあけてくれたお客には、ランダムでコスプレイヤー店員と写真撮影の特典を付けた。
人気店・カフェ・テミスのタルトが食べられるとあって、13時の営業開始からすでに店の外には行列ができていた。特に最初は女の子の客が多かった。
ジュスティーヌは土日はツンデレメイドさんになる予定なのだが、この日はザ・お姫様なドレスを着て童話に登場するようなプリンセスになっていた。このほうが小学生ぐらいの子どもが喜ぶだろうと考えてのことである。
「ごきげんよう、お嬢様方。タルトのお味はいかがかしら?」
お姫様らしく女の子の客相手には完璧なカーテシーを披露してみせる。
「本物のお姫様みたい!」
「超かわいいー!」
案の定、女の子たちのウケがいい。そして、彼女たちはどうもマジカールと、目の前のやたらとかわいいお姫様が同一人物であると気が付いていない。それだけ彼女のお姫様っぷりは完璧ということだ。
ジュスティーヌに合わせたというわけではないが、カイトやほかのクラスの王子や貴族の令息たちの多くも正装していた。
「姫君、こちらへどうぞ」
コスプレのようでいて実は本物の王子様にエスコートされて、女の子たちはお姫様気分を満喫していた。
「本物の王子様みたい!」
「あのお姫様と王子様は、実はコスプレじゃなくて本物なのよ」
女の子たちの言葉を受けて、ビビアンがこそっと事実を教えてあげる。
「ええー、マジ!? どおりでお似合いだと思った!」
「やっぱり、お姫様は王子様と結婚するんですか?」
「ええっと、ぼぼぼ、僕とジュスティーヌ姫はそういう関係では……」
「お二人は婚約とかしちゃってるんですかー!?」
「うふふっ。どうかしらね? それは秘密ですわ」
カイトとの仲をあーだこーだ詮索されても全く動じることなく、笑顔で切り返すジュスティーヌ。一方、カイトはお似合いと言われて顔を赤くしたかと思うと、結婚とか婚約と言われてあたふたしていた。
二人の様子を見て、ビビアンは悟ってしまう。これ、絶対にカイトはジュスティーヌ姫様のこと好きじゃん! と。そして、近くにいるアカネに小声で尋ねる。
「ねえ、アカネっち、もしかして、カイトって姫様のこと好き?」
「ようやく気が付いたの、ビビアン」
「まじ! 超三角関係じゃん、そこ!」
「でも、姫様の様子からすると……」
「だよね。あれは脈なしっぽいよね……」
クラスメイトとしてカイトを応援したい気もするが、ジュスティーヌの様子からして、彼女が異性として明らかに意識しているのはアルフォンスぐらいだろう。
そんなこんなで14時半近くになり、カフェテミスの店員たちが追加のタルトを運んでくる時間である。外にできているカフェの行列が、「キャーキャー」「わーわー」とにわかに騒がしくなる。
「お待たせしました、姫。お約束の物をお持ちしました」
そう言って登場したアルフォンスは、先ほどの冒険者風の服装とはうって変わって、なぜか正装をしている。
タルトを届けるためだけにわざわざ正装! なぜにわざわざ正装!! ああ、しかも、めちゃくちゃカッコイイわ、悔しいけど……。
不覚にも顔を赤らめてしまったジュスティーヌは慌てて扇子を広げて顔を覆った。
「感謝いたしますわ。アルフォンス殿下」
「いえいえ、姫の頼みとあらば、このアルフォンス、例え火の中であっても駆けつけますよ。ですので、ジュスティーヌ姫、その愛らしいお顔をどうか隠さないでください」
アルフォンスはジュスティーヌのすぐ目の前までくると上からのぞき込むようにして小声で話しかける。
「まだ、何もしていないのに、どうして君はそんなに照れているんだい?」
あなたがカッコよすぎるから! と本音を言うわけにはいかないので、「何のことかしら?」と顔を隠したまま言葉を返す。
「ジュスティーヌ姫、よろしかったら、ダンスを一曲、お相手願えないでしょうか?」
「えっ?」
急にダンスに誘われて戸惑う。この人は、どこで何を踊るつもりかしらと。
「せっかくだから、小さなお客さんたちに本当のプリンセスのダンスを見せてあげないか?」
アルフォンスの言葉を合図にしたかのように、外のテラスから弦楽器のチューニングの音が聞こえてくる。と、同時に、テラスと室内を仕切っていたガラス戸が開け放たれる。
外の新鮮な空気とヴァイオリンの音によって冷静さを取り戻したジュスティーヌは、ようやく扇子を下ろすと、片手を差し出した。
「ええ、よろこんで、お相手させていただきますわ」
「光栄です。姫君」
アルフォンスは差し出された手の甲に軽くキスをすると、テラスへとジュスティーヌをエスコートする。
店内のお客さんも、外で行列を作っていたお客さんも、何だったら、近くの広場の屋台にいた人々――当然、イカを焼いていたレナードも、皆二人のダンスに釘づけになった。
騒々しいはずのその場に音楽だけが響き渡る。
二人のダンスは、まるでおとぎ話のワンシーンを見ているかのようにただただ美しかった。
ああ、どうしよう、わたし。この人の吸い込まれそうな蒼い瞳に見つめられると、恋に落ちてしまいそうだわ……。いや、ダメよ! 悪女が王子様と結ばれるわけないじゃない! そう、わたしは悪女……。そしてこの人は、腹黒……。悪女と腹黒って結構お似合いじゃない……? って何を考えているのー!
「ジュティ、今は俺だけを見て」
そんなの無理ー!!
いつの間にか音楽が終わる。ダンスも終わる。
「ジュティ、君はあれだけ雑念に囚われながらも、よく綺麗に踊れるね。逆に感心するよ」
この皇子、またしても人の心を読んでいたわね。わたし、踊りながら何考えていたかしら……。はっ! 大変だわ……。恋に落ちそうとかお似合いとか考えちゃってたー!
「もー、本当に無理だからー!」
勝手にプチパニックに陥るお姫様だった。




