表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

成人式

読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると幸いです。



 朝から少し緊張していた。

 就職活動以来、久しぶりに袖を通したスーツ。鏡の前でネクタイを整える指先は落ち着かず、胸の奥もざわざわしている。


 ――今日が、俺にとって人生で一番大事な日だ。


「行ってきます」


 玄関を出ると、冬の冷たい空気が頬を刺した。

 歩く道すがら、同じ方向へ向かうスーツ姿の男の背中がちらほらと見える。

 おそらく同級生だ。

 顔が見えないから分からないけど、きっとそうだと思う。


 会場の建物が見えてくる頃には、周囲の人影も増えていて、胸の鼓動はますます速くなる。

 会場の前では、既に同級生たちの笑い声が飛び交っていた。


「おー、元気だったか!」

「久しぶり!全然変わってない」


 あちこちで小さな輪ができ、歓声や呼び声が絶え間なく弾けている。


「お、悠馬じゃん!」

「おひさー」

「え、……拓也(たくや)和斗(かずと)!久しぶり!」


 振り向くと、小、中学の友達――拓也と和斗が立っていた。

 二人とも相変わらずの調子で、ほんの数年なんてなかったかのように懐かしさがこみ上げる。


「久しぶりだな。元気だった?」

「おう、元気だよ。お前らは?」

「元気元気!」


 その軽い返事に、場の空気がふっと和らぐ。

 取り留めもない会話がぽんぽんと弾み出し、自然と互いの近況を言い合う流れになった。


「マジ!?お前、今年から働くのか?」

「マジマジ。お前らは就活してんの?二年か三年から動かないとだろ?」

「俺たちはまだいいんだ」

「まだって……」

「だって~、俺、留年!」


 和斗が自分を指さして、悪びれもせず笑う。


「俺、浪人!」


 拓也も自分を指さして笑う。

 そして、二人肩組んで――


「「二人とも一年でーす!」」

「マジかよ!?」


 漫才みたいなやり取りに、思わず吹き出してしまった。

 その後も就活のことや高校時代の話、定番の小、中学校の昔話で盛り上がる。

 こいつらと話すのはやっぱり楽しくて、時間なんていくらでも潰せそうなのに……心はどこか上の空だった。


「悠馬、なんだよその顔。誰か探してんの?」


 拓也に笑いながら突っ込まれ、思わず言葉を詰まらせた。


「……いや、なんでもない」

「ふーん、ならいいけど。誰か探してるんなら言えよ。俺も探してやるから」

「ああ、ありがとう。その時は頼むわ」

「おう!」


 その何気ない気遣いに、心が少し軽くなった気がした。


 とんとん、と背中を叩かれる。


「やほ!悠馬!」

 

 昨日も聞いた声だ。

 振り向くと、咲がにこりと笑って立っていた。

 白を基調とした晴れ着は、冬の澄んだ空気に溶け込むように凛としていて、肩にかかる金色の髪が光を受けてきらめいている。

 その姿は、昔と変わらぬ親しみやすさと、見違えるほどの美しさを同時にまとっていて――思わず息が止まった。


「和斗君に、拓也君。久しぶり!」


 咲の声は明るく、自然に輪の中へ溶け込む。


「う、うん……久しぶり!」

浅野(あさの)さんも……元気だった?」

「元気!元気!」


 さっきまでいつも通りだった二人は急にぎこちなくなる。

 声は裏返り、視線は泳ぎ、動きまで固い。

 咲はそんな変化に全く気づかず、手を振ったり笑ったりと、自然体の仕草で場を和ませる。

 それだけで周囲の空気は一瞬やわらぎ、同時に際立って見えた。


「間もなく成人式が始まりますので、皆様会場の中へお入りください!」


 拡声器を通した係員の声が、ざわめく人混みの上から響き渡る。


「だって。じゃ、またね!」


 手を振り、咲は会場へと歩いていった。


「ヤバいな。浅野さん、めっちゃ可愛くなってた」

「確かに。中学の時もクラスで上位争う人気だったけど……さらにレベルアップしてたな」


 同級生たちのざわめきの中、和斗と拓也は少し小さめの声でそんな話をしていた。


「悠馬は、確か高校も一緒だったよな?」

「ああ」

「やっぱり、モテてた?」

「……さぁ?」

「教えろよー」


 茶化すように絡んでくる拓也と和也に、苦笑いでごまかすしかない。

 答えをはぐらかしたまま、俺はネクタイやスーツの袖などの身だしなみを直しながら入口の扉に視線を向ける。


「まぁまぁ、それより入るぞ。式が始まる」


 促すように声をかけ、俺たちは人の波に押されるように会場の中へ足を踏み入れた。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

次回も読んでいただけると幸いです。

コメント・誤字脱字報告・改善点の指摘など、頂けると励みになります。

続きのお話はできるだけ、一週間以内に上げたいと思います。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ