成人式
読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると幸いです。
朝から少し緊張していた。
就職活動以来、久しぶりに袖を通したスーツ。鏡の前でネクタイを整える指先は落ち着かず、胸の奥もざわざわしている。
――今日が、俺にとって人生で一番大事な日だ。
「行ってきます」
玄関を出ると、冬の冷たい空気が頬を刺した。
歩く道すがら、同じ方向へ向かうスーツ姿の男の背中がちらほらと見える。
おそらく同級生だ。
顔が見えないから分からないけど、きっとそうだと思う。
会場の建物が見えてくる頃には、周囲の人影も増えていて、胸の鼓動はますます速くなる。
会場の前では、既に同級生たちの笑い声が飛び交っていた。
「おー、元気だったか!」
「久しぶり!全然変わってない」
あちこちで小さな輪ができ、歓声や呼び声が絶え間なく弾けている。
「お、悠馬じゃん!」
「おひさー」
「え、……拓也!和斗!久しぶり!」
振り向くと、小、中学の友達――拓也と和斗が立っていた。
二人とも相変わらずの調子で、ほんの数年なんてなかったかのように懐かしさがこみ上げる。
「久しぶりだな。元気だった?」
「おう、元気だよ。お前らは?」
「元気元気!」
その軽い返事に、場の空気がふっと和らぐ。
取り留めもない会話がぽんぽんと弾み出し、自然と互いの近況を言い合う流れになった。
「マジ!?お前、今年から働くのか?」
「マジマジ。お前らは就活してんの?二年か三年から動かないとだろ?」
「俺たちはまだいいんだ」
「まだって……」
「だって~、俺、留年!」
和斗が自分を指さして、悪びれもせず笑う。
「俺、浪人!」
拓也も自分を指さして笑う。
そして、二人肩組んで――
「「二人とも一年でーす!」」
「マジかよ!?」
漫才みたいなやり取りに、思わず吹き出してしまった。
その後も就活のことや高校時代の話、定番の小、中学校の昔話で盛り上がる。
こいつらと話すのはやっぱり楽しくて、時間なんていくらでも潰せそうなのに……心はどこか上の空だった。
「悠馬、なんだよその顔。誰か探してんの?」
拓也に笑いながら突っ込まれ、思わず言葉を詰まらせた。
「……いや、なんでもない」
「ふーん、ならいいけど。誰か探してるんなら言えよ。俺も探してやるから」
「ああ、ありがとう。その時は頼むわ」
「おう!」
その何気ない気遣いに、心が少し軽くなった気がした。
とんとん、と背中を叩かれる。
「やほ!悠馬!」
昨日も聞いた声だ。
振り向くと、咲がにこりと笑って立っていた。
白を基調とした晴れ着は、冬の澄んだ空気に溶け込むように凛としていて、肩にかかる金色の髪が光を受けてきらめいている。
その姿は、昔と変わらぬ親しみやすさと、見違えるほどの美しさを同時にまとっていて――思わず息が止まった。
「和斗君に、拓也君。久しぶり!」
咲の声は明るく、自然に輪の中へ溶け込む。
「う、うん……久しぶり!」
「浅野さんも……元気だった?」
「元気!元気!」
さっきまでいつも通りだった二人は急にぎこちなくなる。
声は裏返り、視線は泳ぎ、動きまで固い。
咲はそんな変化に全く気づかず、手を振ったり笑ったりと、自然体の仕草で場を和ませる。
それだけで周囲の空気は一瞬やわらぎ、同時に際立って見えた。
「間もなく成人式が始まりますので、皆様会場の中へお入りください!」
拡声器を通した係員の声が、ざわめく人混みの上から響き渡る。
「だって。じゃ、またね!」
手を振り、咲は会場へと歩いていった。
「ヤバいな。浅野さん、めっちゃ可愛くなってた」
「確かに。中学の時もクラスで上位争う人気だったけど……さらにレベルアップしてたな」
同級生たちのざわめきの中、和斗と拓也は少し小さめの声でそんな話をしていた。
「悠馬は、確か高校も一緒だったよな?」
「ああ」
「やっぱり、モテてた?」
「……さぁ?」
「教えろよー」
茶化すように絡んでくる拓也と和也に、苦笑いでごまかすしかない。
答えをはぐらかしたまま、俺はネクタイやスーツの袖などの身だしなみを直しながら入口の扉に視線を向ける。
「まぁまぁ、それより入るぞ。式が始まる」
促すように声をかけ、俺たちは人の波に押されるように会場の中へ足を踏み入れた。
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