約束
読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると幸いです。
それからしばらく咲と話していたとき、スマホの着信音が響く。
俺のじゃない。
隣から聞こえてきたし、多分咲のだ。
気になって隣を見てみると、咲は「……あ」と小さく声が漏らす。
「何、どうした?」
「お母さんから。『もう暗いけど、何してるの? 早く帰っておいで』って」
スマホの画面を見せてきて、肩をすくめるように笑った。
「なるほど。じゃあ、送ってくよ」
「え、いいってば。近いし」
「いや、近くても危ないものは危ないから」
遠慮して断る咲に真剣な声で返す。
流石に女性を暗い夜道で一人で返す訳にはいかない。
送っていくのは男として当然だからな。
咲は一瞬きょとんとした後、ぷっと吹き出した。
「……ふふっ。じゃあ、お言葉に甘えます」
二人で歩き出すと、街灯の光がぽつり、ぽつりと足元を照らす。
冬の夜道はしんと冷えているのに、並んで歩くその静けさはどこか心地よかった。
しばらく沈黙のまま歩いたあと、胸の奥に引っかかっていたことを口にする。
「そういやさ……髪。なんで金にしたんだ?」
咲は驚いたように目を丸くし、すぐにおどけるように笑った。
「あ、やっぱ気になる?」
「まあ、そりゃ」
指先で髪をくるくるいじりながら、彼女は少し照れたように言う。
「一回くらいはやってみたいなって思ったんだ。黒髪のままだと高校生っぽいって言われるのも、ちょっと嫌だったし」
「……なるほど」
好きな人がいるから意識してもらうためだとか、元カレに勧められてとか、男関係の理由じゃなくてよかった。
少しホッとした。
「……黒い方が似合ってた?」
「どっちも似合ってる」
考える間もなくスッと口から出た言葉に、咲はわずかに目を見開き、それから小さく「ありがと」と笑った。
光の下で見えた横顔は、ほんのり赤く染まっているように思えた。
「成人式まで黒に戻した方がいいと思う?」
咲が少し不安そうに問いかける。
金色の髪が夜風に揺れて、街灯の光を受けてやわらかく輝いていた。
「咲の好きにしたらいいんじゃないか? 咲はどうしたいんだ?」
「んー……振袖着るから黒の方が似合うかなとは思うんだけど、金もありかなって」
「あー……」
頭の中に浮かぶのは二つの姿。
黒髪で振袖を着た咲は、ザ・大和撫子みたいで間違いなく似合うだろう。
けれど、金髪と振袖の組み合わせは――少し違和感があるはずなのに、その姿は黒よりも魅力的だった。
「金がいいな」
気づけば言葉が口からこぼれていた。
「え?」
「あ、口に出てた?」
「うん。金がいいって」
まっすぐ俺を見る咲。
その視線に射抜かれたみたいで、息が詰まりそうになった。
「……」
「なんで金がいいと思ったの?」
軽い調子に聞こえる声の奥に、わずかな期待がにじんでいる気がする。
「……似合ってると思ったから」
言った瞬間、胸が高鳴る。
自分の声が思った以上に真剣に響いて、顔が熱くなる。
咲はほんの一瞬だけ目を見開き、それから口元をやわらかく緩めた。
「……そっか」
小さな返事が夜気に溶け、沈黙が降りる。
けれどその静けさは気まずさではなく、不思議と温かかった。
ふと咲が駆け出して、駆け出した先の家の玄関の門を押し開けた。
振り返った彼女の横顔は、街灯に照らされてどこか名残惜しげに見えた。
「今日はありがとう。久しぶりに会えて嬉しかった」
「俺も、嬉しかった」
短いやり取りなのに、胸の奥がじんと温かくなる。
咲の声は昔と同じで、でも少し大人びていて、その違いが不思議と心地よかった。
「そっか」
照れたように笑う彼女に、思わず言葉を重ねる。
「あのさ」
言葉を切り出すとき、胸の奥が妙にざわついた。
断られたらどうしよう。
そんな不安が頭をよぎるのに、どうしても言わずにはいられなかった。
「うん?」
咲が首をかしげ、真っ直ぐこちらを見る。その視線に背中を押されるように、俺は思いきって口にした。
「成人式までにさ、また遊ぼう。昔みたいに」
言った瞬間、心臓が跳ねる。
咲の表情をうかがうのが怖くて、一瞬だけ目を逸らしてしまった。
「……うん!」
間を置いたあと、咲はぱっと花が咲くように笑った。
瞳がきらりと輝いて、声まで弾んでいるのがわかる。
その反応に、胸の奥の不安が一気に溶けていった。
「じゃ、あとで暇な日教えるね」
「ああ。じゃ、またな」
今度は俺の方も、自然と笑みがこぼれていた。
心臓の高鳴りはまだ収まらないけれど、不思議と心地よい。
「うん。またね」
咲は嬉しさを隠しきれない笑顔のまま、門の向こうへ駆けていった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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