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灯火の騎士  作者: 7th.star
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14年後

クラヴィス=リガメントは静かに伝う、己の涙の感触で眠りから目を覚ました。


もう何度目かわからない程見た夢。

悲しくもどこか温かい…まるで大切な事を何か思い出そうとしている気持ちにさせる。



気持ちを切り替え、朝の用意をするべく、ベッドから起きる。


19歳であるクラヴィスの朝は早く、夜のうちに始まる。


それはクラヴィスだけに限らず、彼が所属する魔法戦士団の隊員ならば全員がそうだ。


日も昇りきらぬうちに、自然と目を覚まし、過酷な一日に備えるべく身支度を始める。



寝間着を脱ぎ黒色の戦闘服に着替え、儀式魔法で祝福を受け軽量化された魔力鋼で鍛造されたプレートを肩と胸に装備し、脚部には機動性を重視し金属部分と魔物の革でできた防具を身に纏う。


洗面台へと向かい、身支度を整えながら鏡を見る。

黒髪、黒瞳、細身だが一目で鍛え抜かれたと分かる身体。

少し伸びた髪を水で塗らし、後ろに無造作に流し用意を終える。


洗面台を出て、二人部屋で同室の友でもある昔馴染みに声を掛ける。


「おい、カイン。そろそろ起きろ」


金髪で寝癖のあるツンツンとした髪を掻きながら気怠そうに声を出すのは良き友人、19歳の同期でもある、カイン=マストだ。


「ちっ、クラヴィス…まだ鐘が鳴ってもいねぇのに起こすなよ。俺は毎晩女に忙しくて寝不足なんだよ」


「俺には関係ない事だ。それにもう鐘は鳴る」


言い切ると同時に少し遠くから起床の鐘の音が響き渡る。


ため息をつきながらカインは起き上がる。


「ったく、俺は国の第一方針でもある人口増加に献身しようとしてんだぜ?逆に褒めて欲しいくれぇだよ」


「お前は遊びたいだけでまだまだ身を固める気などないだろう。団律で恋愛には比較的寛容だが風紀を乱しすぎるなよ?任務に影響されても困る」


「わーってるよ!ほんとにお前は7年前から変わらず、お硬い奴だな!」


「俺のことは放っておいてくれ。ちなみに今日は団長が三週間ぶりに帰ってくる。万が一遅刻でもしたら、人間ヌンチャクにされて振り回されるぞ」


そう言いながら壁に掛けてある儀式魔法で切れ味の増加と自動修復機能の祝福を受けた細身のロングソードを腰に帯剣しながら扉に手をかける。


「お前、それを早く言え!」

慌ててベッドから飛び起き、いそいそと用意をするカイン。


こいつとは12歳からの基礎訓練時代始まって以来、7年もの付き合いであり、最も心根の置ける悪友であり親友だ。


少し粗野な性格でいつも気怠そうではあるが過酷な訓練を乗り越え、人類の守り手である唯一の戦闘集団、魔法戦士団に正式配属された戦士には信念無き者など、ただ1人としていない。

こいつの魂の火は、実は俺よりずっと熱い。


「先に演習場に行ってるぞ」

俺はフッ、と少し笑いながらカインが大急ぎで準備している姿を背に演習場へと向かう。




ここ、灰の方舟グレイアークと呼ばれる国の一番外側区画に位置する魔法戦士団第一駐屯地は非常に広い。


1000人程で構成されている魔法戦士団はそれぞれ第一から第四まである駐屯地に配備され、街の外郭の四隅を囲うように建設されている。


第一駐屯地の構成人数である200人程が一堂に外にある演習場にて点呼を終え、整列する。


前方にある1メートル程の指揮台。

その上に登ってきたのは、灰色混じりの赤髪を短く刈り込んだ、非常にガッシリとした体格を持つ、身長2メートルはあろうかという大男だった。


顔には3本の爪で切り裂かれた跡がコメカミ付近から顎まで延びており、赤々とした顎髭を蓄えている。


丸太のような腕を、はち切れんばかりの胸板の前に交差し、正に歴戦の勇士といった姿だ。


魔法戦士団、不死身の赤獅子こと、

レオン=グラスタ団長だ。

いつも第一から第四駐屯地を一週間ごとに周り、戦士たちをしごいている。


レオン団長が低くも通る声で戦士たちに声を掛ける。


「うむ。哨戒任務中の者を除き全員揃っているな。日頃の訓練、ご苦労。人類の希望として我ら戦士たちは常に心の炎を燃やさねばならない。

毎日の訓練といえど心は常に戦場にあると心掛けよ。それでは駆け足、始め!」


その言葉を合図に俺たちは演習場を走り出す。

レオン団長は、『無論、俺も走る!』と叫びながら壇上から飛び降り、物凄いスピードで先頭に合流する。


レオン団長の齢は40歳と決して年老いてはいないが若いとも言えない。

しかし俺たち魔法戦士団の寿命は短く、20代半ばでその命の炎を枯らす者たちも少なくない。


寧ろそれが大半だ。


外に跋扈する強力な魔物との戦いは文字通り寿命を削る死闘。


魔法戦士団全隊員が魔法を身に着け、俺やカインの所属する剣撃隊は剣や身体に纏わせ、術撃隊は元素を具現化し魔法を放つ。


魔法とは万能の奇跡ではない。


魔力の行使には魂を燃やさねばならず、魂を消費しきると身体は灰と帰す。


訓練で使う弱い魔法や、実戦における魔法の行使による多少の蓄積損耗は国の中枢機関である終火機関しゅうかきかんが執り行う儀式によって回復できる。


しかし魂の損耗は基本的に不可逆であり、強力な魔物との戦いで使わなければならない高い灯階とうかいの魔法は確実に魂の火を消していく。


ある程度進んだ灰化現象は魔法を使わずとも確実にその命の炎を徐々に灰の中に消していく。


それなのになぜレオン団長はその歳まで生き延び、長年の魔法行使を続けてもその命の種火を絶やさず団長という地位にたどり着けたのか。


単純な事だ。


誰よりも強く、どんな魔物にも負けなかった。

魔法を使わずとも俺たちの腰の太さほどあろう団長専用の祝福大剣が魔物を一刀両断する。


強力な魔物が相手となっても身体強化魔法が掛かった団長の強さは正に獅子と言わざるを得ない。


14年前にあった街に魔物が大挙し襲撃された日、当時一隊員だった団長はとてつもない戦果を挙げたらしい。

身体強化魔法を己に掛け続け、民を守り、友を守るため戦い続けた。


俺の両親は…その時、亡くなった様だ。当時幼かった俺や妹のルミナを魔物から守り、灰へと帰ったらしい。


当時の記憶は定かではなく、ルミナの朧気な記憶によると、妹を守るべく五歳という若さで魔法を行使したらしく、その時の後遺症で記憶の混濁が起きている。


ルミナの記憶もそこで途絶えており、なぜ俺が魔法を使えたのか、何の魔法を使ったのか。そしていつ両親は亡くなってしまったのか…


その全てが謎に包まれている。



ともかく、レオン団長はその時の戦いの代償のせいで両足は灰となり義足になっていたが、それをものともせず未だ前線で戦い続けている。


義理堅く、熱く、強く。

団長とは名実共に魔法戦士団最強の男だ。



しかし、不死身とさえ言われる団長も、俺やカインも。

いつかは戦いの中で、あるいは魂の損耗から来る自らの死期を悟り儀式によって灰になり、死ぬだろう。


魔法を行使する者は死すと例外無く灰となる。

その灰は弱い魔物を退ける結界的性質を持ち、壁外に安置されたり街中の空中に散布される。


つまり死して尚、人類の守り手として永劫の時を見守る。


死は決して恐ろしいものではなく、次の世代へと継承されていく炎だ。


それが俺たち魔法戦士団の理念であり、誇りだ。


魔法戦士団に所属する戦士たちは殆どが18歳で正式入隊する。


6歳から国民全員が受ける義務である魔力検査を受け、魔力持ちと認められた瞬間、親から離される。


そして戦士養成所へと送られ、訓練に訓練を重ね、長い期間を戦いに関する教育を徹底された戦闘のエリートだ。


実際に基礎訓練が始まるのは12歳からだがそれまでの間は思想教育や国家理念が叩き込まれる。


18歳で訓練を終えて正式入団してからも訓練は続く。


戦士たちの1日は朝の走り込みを終えてから朝食を手早く済ませ、魔法理論の座学、実践訓練などに加え日々の哨戒任務や外壁に現れた魔物の討伐任務など予定がぎっちり詰まっている。




戦士たちの威勢の良い掛け声が朝日に照らされてきた演習場に響く。


箱型に建設された街から見る空は、魔物の侵入を防ぐために作られた開閉式の金属羽根に覆われている。


魔物の侵入を防ぐべく、開放時間は厳密に管理されていた。


わずかな光を通す代償に、都市は最大級の警戒態勢を敷く。それも兼ねての魔法戦士団恒例の明朝訓練だ。


陽光に照らされ、重苦しく鈍く光る分厚い羽根。


人類は…空を見上げることすら、容易ではない時代を生きているという現実を物語っていた。


僅かに羽根の間から見える美しい空はこの残酷な世界と酷く不均衡に思えたが___


それでも今日一日を精一杯生きる為に俺たちは訓練に勤しむ。

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