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糸でつながる、君と僕  作者: やしゅまる
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第五章 雨と糸と、手のひらのぬくもり

これはAIが書いたものです

文化祭まであと二週間。

教室は手芸道具と布であふれ、昼休みや放課後には小さな“作業会”が自然と開かれるようになっていた。


遼はその中心にいた。

あかりや、手芸に興味を持ち始めた女子たち、さらには男子数人も加わって、手縫いのコースターや布バッジ、リボン小物などが少しずつ形になっていった。


だが、賑やかさの中で、遼の心にはぽつりと“雨粒”のような違和感が落ちていた。



金曜日。

あかりが珍しく、放課後になっても作業に来なかった。


「佐倉、今日いないの?」


「うん、なんか風邪っぽいって。最近ずっと作業がんばってたしね」


そう言ったのはまどかだった。

あかりがいない空間は、どこか少しだけ寂しかった。


(あの笑い声がないと、空気が静かすぎる)


遼はひとり残って、静かな家庭科室でリボンの飾りを仕上げていた。

指先にふっと力を入れたその瞬間、針が指を刺した。


「っ……」


滲んだ血を見て、遼は小さく息をのんだ。


(こんなとき、あかりだったら「だいじょうぶ?」って、笑って……)


たった一針の痛みが、胸の奥まで響いた。



次の日の午後。

冷たい雨が降る中、遼は駅前の薬局で喉飴を買い、ビニール袋に入れて傘を差したまま歩いていた。


向かった先は――佐倉あかりの家。


「……ほんとに来ちゃったんだ」


玄関の扉を開けたあかりは、少し驚いたような顔で笑った。

パーカー姿に寝ぐせのままの髪。いつもの明るさとは少し違う、素の顔だった。


「……これ、喉にいいやつ。あとは……ちょっとしたお見舞い」


遼は、おそるおそるビニール袋を差し出した。

中には、彼が昨夜こっそり作った、小さなティッシュケースが入っていた。ピンクの花模様に、角にはちいさく“さくら”の刺しゅう。


「わ、かわいい……これ、私のために?」


「……うん。いつも助けてもらってるから、その、お礼っていうか……」


しばらく黙っていたあかりは、そっとティッシュケースを握りしめた。


「……あのね、私さ。昔から、がんばり屋って思われてたの。明るくて、人懐っこくて、なんでもできるって。でも本当は、時々疲れるんだ。無理してるときもあるし、泣きたくなる夜もある」


遼は言葉を失った。

ただ、あかりが静かに話すその声を、逃さないように聞き続けた。


「でもね、雨宮くんといると、安心する。……私が“がんばらなくてもいい”って思える」


それは、彼が初めて知った“彼女の弱さ”だった。

強くて明るいあかりが、誰にも見せなかった心の一部。


遼は、そっと言った。


「……じゃあ、これからも、そう思えるように。僕、そばにいるよ。たぶん、不器用だけど……でも、君のこと、支えたいって思ってる」


あかりは少しだけ黙って、それから、ふっと微笑んだ。


「……うん、私も。遼くんがいてくれると、嬉しい」


その瞬間、窓の外の雨音が、少しだけ優しくなった気がした。


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