第五章 雨と糸と、手のひらのぬくもり
これはAIが書いたものです
文化祭まであと二週間。
教室は手芸道具と布であふれ、昼休みや放課後には小さな“作業会”が自然と開かれるようになっていた。
遼はその中心にいた。
あかりや、手芸に興味を持ち始めた女子たち、さらには男子数人も加わって、手縫いのコースターや布バッジ、リボン小物などが少しずつ形になっていった。
だが、賑やかさの中で、遼の心にはぽつりと“雨粒”のような違和感が落ちていた。
*
金曜日。
あかりが珍しく、放課後になっても作業に来なかった。
「佐倉、今日いないの?」
「うん、なんか風邪っぽいって。最近ずっと作業がんばってたしね」
そう言ったのはまどかだった。
あかりがいない空間は、どこか少しだけ寂しかった。
(あの笑い声がないと、空気が静かすぎる)
遼はひとり残って、静かな家庭科室でリボンの飾りを仕上げていた。
指先にふっと力を入れたその瞬間、針が指を刺した。
「っ……」
滲んだ血を見て、遼は小さく息をのんだ。
(こんなとき、あかりだったら「だいじょうぶ?」って、笑って……)
たった一針の痛みが、胸の奥まで響いた。
*
次の日の午後。
冷たい雨が降る中、遼は駅前の薬局で喉飴を買い、ビニール袋に入れて傘を差したまま歩いていた。
向かった先は――佐倉あかりの家。
「……ほんとに来ちゃったんだ」
玄関の扉を開けたあかりは、少し驚いたような顔で笑った。
パーカー姿に寝ぐせのままの髪。いつもの明るさとは少し違う、素の顔だった。
「……これ、喉にいいやつ。あとは……ちょっとしたお見舞い」
遼は、おそるおそるビニール袋を差し出した。
中には、彼が昨夜こっそり作った、小さなティッシュケースが入っていた。ピンクの花模様に、角にはちいさく“さくら”の刺しゅう。
「わ、かわいい……これ、私のために?」
「……うん。いつも助けてもらってるから、その、お礼っていうか……」
しばらく黙っていたあかりは、そっとティッシュケースを握りしめた。
「……あのね、私さ。昔から、がんばり屋って思われてたの。明るくて、人懐っこくて、なんでもできるって。でも本当は、時々疲れるんだ。無理してるときもあるし、泣きたくなる夜もある」
遼は言葉を失った。
ただ、あかりが静かに話すその声を、逃さないように聞き続けた。
「でもね、雨宮くんといると、安心する。……私が“がんばらなくてもいい”って思える」
それは、彼が初めて知った“彼女の弱さ”だった。
強くて明るいあかりが、誰にも見せなかった心の一部。
遼は、そっと言った。
「……じゃあ、これからも、そう思えるように。僕、そばにいるよ。たぶん、不器用だけど……でも、君のこと、支えたいって思ってる」
あかりは少しだけ黙って、それから、ふっと微笑んだ。
「……うん、私も。遼くんがいてくれると、嬉しい」
その瞬間、窓の外の雨音が、少しだけ優しくなった気がした。