第三章 ほころびと広がり
これはAIが書いたものです
翌週の木曜日。
遼が家庭科室で居残り補習を受けていたのは、別に成績が悪かったからじゃない。ただ、担当の和泉先生に「君、細かい作業得意そうだし、ミシンの掃除手伝ってくれない?」と頼まれただけだった。
(ミシンの掃除なんて、誰でもできるじゃん……)
とは思いながらも、道具の扱いは慣れている。ちょっとしたご褒美代わりに、余った端布と糸をもらっていいことになった。
*
掃除を終えた遼が廊下に出ると、ちょうどあかりと目が合った。
「おっ、雨宮くん。いたいた!」
「えっ、なんで……」
「先生に聞いた。補習って言われたから、なんかちょっとドキドキしたけど、ただのミシン掃除だったんだね。よかった」
「そんな心配しなくていいよ……」
「心配するよ。“秘密のパートナー”なんだから」
その言葉が、まるで風船みたいに廊下に浮いた――と、思った瞬間。
「えっ、パートナーって何?」
鋭い声が後ろから飛んできた。
振り返ると、あかりの友人グループの一人、山瀬まどかが首をかしげて近づいてくる。
「え、ええと……」
遼が言葉につまる前に、あかりがにっこり笑った。
「うん、実はね。雨宮くん、ぬいぐるみの修理がめっちゃうまいんだよ。家庭科レベルじゃなくて、プロ級。私のボロボロのクマちゃん、耳きれいに直してもらったんだ」
「え、それマジ? 雨宮くんが!? 意外すぎる!」
まどかが口をぽかんと開けたまま、まるで珍しい生き物でも見るような目で遼を見た。
遼は耳まで真っ赤になって、うつむいた。
(……しまった。もう、秘密じゃなくなった)
*
その翌日から、“うわさ”は小さな火種のように広まった。
「家庭科の達人男子」「縫い物男子」「マジで手芸部入るべき」など、からかい半分の声も聞こえてきた。
最初は恥ずかしかった。
でも、ほんの少しだけ――少しだけ、悪い気はしなかった。
*
金曜の放課後。
遼が校門を出ようとすると、あかりが待っていた。
「ねえ、雨宮くん。……落ち込んでない?」
「……ちょっと、恥ずかしいけど。もう、仕方ないかな」
「うん。でも、あれでよかったと思うよ。だって――」
あかりは、遼の制服の袖をつまんで、目をそらさずに言った。
「自分が得意なこと、ちゃんと見せられる人って、かっこいいと思う」
風がふわっと吹いて、桜の花びらが舞った。
その瞬間、遼の胸の奥で、何かが静かに“ほどけた”。