君を想いながら 【月夜譚No.349】
誰かの為にする料理は久し振りだ。
大学入学と同時に上京して、早一年。帰宅しても返事のない空間に淋しさを覚える毎日の中、作るものといえば節約をしながら生きていく為の糧でしかなかった。
決して料理が嫌いなわけではないのだが、一人で作って一人で食べるだけの食事は味気なく、張り合いもなにもあったものではない。
しかし今、私は嬉しさと期待、そして少しの緊張を抱いてキッチンに立っている。いつもの場所、いつもの光景なのに、何だか変な感じだ。
彼とは入学式に会話を交わして仲良くなり、お互いの趣味が同じだったことで意気投合。二人とも自己主張が苦手だったが故に少し時間はかかったが、つい先日、ようやく相手の気持ちを知って新たな関係をスタートさせた。
今日は初めて手作り弁当を持っていくと約束した日だ。彼はどんな顔をするだろう。美味しいと言ってくれるだろうか。
「――よし」
私は腕捲りをすると、新鮮な春野菜に手を伸ばした。