第90話 ミコトの水練
区切りの関係上、少し長めです。
さて、何事もなく昨夜は夕食をいただき床に就いた。そう何もなかった。いいね。
改めてオオヤマツミ様の元に赴き挨拶をする。そこにはカグツチ様もゴブニュ様も一緒にいた。
『ホオリ、コッチー、レベッカ、ミコトよ。お前たちは大きな力を得た。大きな経験もした。その力、人のために使えよ。そしてまた困ったことがあればいつでも来るがいい。』
『上田、福島、ゴブニュにはいろいろと渡しておいた。人の世のために活用しろよ。』
オオヤマツミ様とカグツチ様にお礼とお別れを伝え、辞去する。駐車場に戻ると、名古屋からゴブニュ様と上田さんを迎えに来たという名古屋の部隊の人が待っていた。
「では師匠、兄者、ひとまずここでお別れですな。拙者も一度東京に戻り準備をしてから名古屋に向かうでござる。」
『うむ。お前は鍛冶の腕はまだこれからだが、プラーナの扱いはなかなかだ。早く合流せよ。』
「先に刀を打っている。またな義弟よ。」
ここでゴブニュ様と上田さんともお別れのようだ。とは言え、モノづくりに関して中心的な存在になっていくだろうお二方にはこれからもお世話になることがあるだろう。神の下で新たなものを作っていく。少しだけワクワクするような気がした。
「さて、ここから車でモールまで休みなしでも9時間はかかるでござる。渋滞がないからどこかで足止めを喰らう心配はないが長丁場になるでござるから、途中途中で休みながら行くでござるよ。」
『福島さん、運転をすべて任せてしまってすみませんね。私が人間の体に戻っていたら運転で来たんですが。』
「キズナは運転免許?持ってるのね。」
『そりゃあ大学生ですから!』
「いいなー免許。わたしも高校を卒業したら取りたかったけど、この状況じゃ免許も取れないよね…」
「車なんてそこいらにあるんだから乗ってみればいいじゃない。」
「いやいや、さすがに無理だろそれは。映画じゃないんだからいきなり車の運転なんてできやしないよ。」
「そうでござるなぁ。いきなり運転しろと言われても最低限の動かし方は教わらないと難しいでござろうな。車自体は物流チーム以外ほとんど使わないだろうから、交通ルールはそこまで細かく知らなくてもいいでござろうが。」
「そう言えば、講習所の教官みたいな人ってどこかにいないんですかね?」
「確かに!そんな人がいれば教えてくれそうじゃない?」
「宮城殿に聞いておいたらいいでござる。いま彼は情報部みたいなことをやっているから色んなことを知っているでござるよ。」
「そう言えばパパも情報部で働くって言ってたかも!わたし聞いておくよ!」
そうか、ミコトのお父さんは元気になったんだな。お母さんが亡くなって気落ちしていたと言っていたからどうなったかと思ったが、もしかしたらそのこともミコトが覚悟を決めるための背中を押したのかもしれない。
「まぁ奈良さんが拙者の代わりの足は用意すると言っていたので急いで覚えなくてもいいでござろうがな。」
そうか、福島さんの代わりに運転してくれる人がいるって話だったか。そもそも俺達ってまだ17歳だから自動車の免許って取れないんだよな、本来であれば。あると便利なのはわかるけど、別に急がなくても良いのかもしれない。
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移動時間の話題は主に修行についてだった。
「そう言えばみんなはどんな修業をしてたの?新技を覚えてきてたじゃない?」
「おお!新技でござるか!うらやましいでござるな!」
「へっへー、じゃあわたしから教えてあげましょう!
わたしの修行場所は海の近くだったの。あれはどこだったのかなぁ。日本っぽかったけど私は行ったことがない場所だった。でもとっても懐かしさを感じる場所だったよ。海を正面に見て左手には大きな山もあってね。」
そこで彼女を待っていたのは大綿津見という海の神様だったらしい。今まで格闘戦主体の彼女になぜ海の神が修行を付けたかというと、ミコトには水を操る力が眠っていたからだ。
彼女自身、今までは特に海との関係はなかったが、なぜだか自然とオオワタツミ様の言葉に納得したそうな。
(思いっきり父親じゃないの。名乗り出るつもりはなさそうだけど、オオヤマツミと言い自分の子供や孫は気になるみたいね。)
「そう、不思議だったんだけど、やってみたらオオワタツミ様の言っていることが本当だって分かってね。それに修行した海がわたしのことを歓迎してくれているような感覚があったよー。」
『海の気持ちを感じるってこと?』
「あ、そんな感じです!不思議と田舎の実家に帰ったとき、みたいな感覚ですかね…田舎のおじいちゃんの家とかいくとすっごい歓迎されるじゃないですか?」
「へー、そんなことがあるんだね。それってどこの海でもそうなの?昨日行ったスーパー銭湯も海辺だったし。今まで行った海とかも?」
「ううん、今までは全然そんなことなかったよ。それに昨日行った海も。ロカ・プラーナだったからなのかなぁ。」
「ミコトの魂が覚えていた記憶かもね。」
「ん?レベッカ、それってどういうこと?」
「あら?言ってなかったかしら。魂ってプラーナ・マルガを通ってぐるぐる回っているのよ。魂のある生き物がアッシャーでどのくらいいるのか知らないけど、肉体が滅んで魂はマルガに還る。そしてまた戻ってきて新たな肉体を得て生きて、の繰り返しよ。」
「輪廻転生、リインカーネーション、単純に転生、生まれ変わり、色々な言い方や考え方が世界中にあるでござるが…厳密に言うとどれにも当てはまらない、でござるか?」
「生まれ変わりって色々あるんですか?」
「拙者より宮城殿の方が詳しいでござるなぁ。でも確か、仏教なんかは転生のサイクルから外れることを解脱とか言って、それを目指しているんじゃなかったでござろうか?」
「ニンゲンも色々と考えているのね。まぁプラーナを知覚できない時点で真実にはたどり着けないんでしょうけど。」
「そもそも、人間の宗教観は今より命が軽い時代に心の救いとして広まったものが多いでござるからな。仏教しかりトラータ教しかりでござる。トラータ教なんて死んだら神の下で幸せに暮らせるか、地獄に落ちて永遠の苦しみを与えられるかの二択でござるよ。神を信じないものには容赦なしでござる。」
「あ、ごめん、ミコト。話が完全に逸れちゃったね。それでオオワダツミ様のところでどんな修業をしたの?」
ミコトの修行は、俺と同じく肉体を作る基礎トレーニングと水を操る練習だった。最初はとにかく海水をプラーナで操作する練習を繰り返したらしい。水に含まれる微量なプラーナと自分のプラーナを結び付けて操作するようだ。プラーナってどこにでもあるんだな。
「ほら、話した通り、あそこの海はわたしに親切?だから結構簡単にプラーナを結び付けることが出来たの。でも、何もないところから水を生み出したり、あの海以外の水を操るのはすごく大変だったよ。」
そう言われると、バレットってプラーナを固めて回転させて飛ばしているから他の物質に変化させているわけではない。
火弾は細かいプラーナを高速で動かして熱を発生させ、何でもいいから燃えるものを生み出せばいい。
雷は目に見えないくらい小さな氷の粒をこすり合わせて静電気を発生させているんじゃないかな。俺は雷の術が使えないからよくわからないけど。
土槍なんかは地面にある土や石を変化させているだけなので物質をゼロから生み出していない。
空気ってほとんど窒素であとは酸素が五分の一くらい、水素なんてほとんど混ざっていないはずだから空気中の素材を使って大量の水を作るなんて無理な気がする。
「うーん、水を生み出すのってめちゃくちゃ難しくない?水素が全然ないよね?」
「そう!そうなの!そこ水があれば操るだけですむけど、水を生み出して攻撃に使うのがすっごい難しかった!プラーナを水に変換して圧縮して放つのが水穿破なんだよ。」
「だから溜めが必要なんだね。まぁあれが一瞬で放てて連射出来たらヤバいけど。」
「でも海が近くにあったらできるってことでしょ?」
「すっごく圧縮しないといけないから連射は無理かも~。水弾をぶつけるだけなら全然できるんだけどね。」
「水は使いようによっては広範囲攻撃もできるし便利ではあるけどね。海とか泉とか水が大量にあるときはミコトに大波で攻撃してもらいましょう。」
「海と仲良くなるところから始める必要がありそうだよ…」
なるほど。まだまだ課題はありそうだな。
「オオワタツミ様はすごかったよー。海を自在に操ってね。水穿破はもちろん、ドリルみたいに回転させて槍のように突き刺したり、大波で押しつぶしたり、壁にしたりね。」
『やっぱり神様の力って私たちが操れるプラーナとは全然違うんだねぇ。』
「アレを見ちゃうとわたしのやってることってお遊びだなぁって自信失くしちゃうけど、オオワタツミ様はいつかわたしにもできるようになるって確信を持った目で言うから、その気になって頑張って練習しちゃいました!」
さすがミコト、スーパーポジティブガールだなぁ。
次のシナリオに入る前に少しだけ各自の修行振り返りがあります。戦闘シーンも少し待ってね!
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