第88話 フィードバック
主人公チームの弱点、というか誰でも気付く欠点みたいな話
『ふむ、吹っ切れた顔になっておるな。何よりじゃ。』
大山祇神社に戻った俺達はオオヤマツミ様とカグツチ様に迎えられた。カグツチ様もまだいたんだな。福島さんが戻ってくるまでいるのだろうか?
『俺からお前たちに伝えることがある。まぁ戦いの反省というやつだ。先ほどの雰囲気だと言っても伝わらんかっただろうからな。今ならば冷静に先の戦いを振り返られるだろう。』
そうかいわゆるフィードバックというやつね。俺達は必死に戦ったが、各上から見て具体的にどこがどう良くなかったか。改善ポイントはどこかを教えてもらえるのは非常にありがたい。
「結構がんばったなとは思うけど、完敗だったしちょっとドキドキするね。」
「まぁ勝ち負けでいえば絶対に勝てない相手だったわけだから、そことは無関係に言いたいことがあるってことでしょうね。」
『その通りだ。単純な戦闘力でいえば、正直、アッシャーにおいてお前たちを倒せるものはほぼいないだろうな。俺達神はアッシャーでは本来の力を発揮できん。大量のプラーナが必要になってしまうからだ。もしそんな大量のプラーナを用意できるのであれば話は別だが、基本的に上位神クラスは顕現できんと考えていてよい。
だがプラーナ自体は少なくても戦いに慣れているものは多くいるだろう。そのような老練を相手にしたときに問題になる点がある。それは“溜め”だ。』
「溜め…?大技を出すときにプラーナを溜めることですか?」
『そうだ。俺と戦った時、お前たちは2、3回溜めによる攻撃を行っている。ホオリやレベッカが防御に専念し、その間にコッチーやミコトが溜めると言った風にな。』
『確かにそうですね。コッチーは特大のイカヅチや白熱火球を放つ時はだいたい溜めているかも。』
「わたしも水穿破を放つ時はどうしても溜めが必要です…」
『うむ、そうだな。まず勘違いしてはイカンのだが、溜めること自体は悪いことではない。火力を集中し決め切るときには必要だろう。だが、お前たちは溜めがあからさますぎる。ホオリやレベッカが防御するなら反撃で強力な一撃を叩き込むという戦術は良い。相手も火力を出した後は隙ができやすいからな。だが、大技が来るとわかっていれば対策が出来るということだ。』
「確かにコッチーのイカヅチを地面に流して軽減したり、分身に入れ替わったりされていました。」
『この先、強敵となるものは戦闘経験が多いものが増えてくるだろう。そうなれば様々な攻撃に対応できる可能性が高い。攻撃が来るとわかっていれば猶更だ。』
「溜めを悟られないよう、プラーナの制御をさらに高めるしかないわね。まぁ私はもうやっているけど。」
確かにレベッカの攻撃は対策されずに直撃していることが多いな。あの名前がカッコいい必殺技も直撃していたし。だが、そのドヤ顔はちょっとムカつく。頼りなるんだけどね。
『プラーナを隠蔽しながら集束するという一見矛盾した行動を取るのは人間にとっては簡単ではないだろう。ある種の並列思考が必要になる。コッチーは習得が早いかもしれんがな。』
『私がいるからですか?でも私って戦闘のセンスが…』
『隠ぺいにだけ集中することはできるだろう?あとはコッチーが自由にやってくれるさ。』
『なるほど!それならできる気がします!』
「問題はわたし達かぁ…レベッカぁやり方教えてー。」
「そうね、移動しながらでもできることだし、体に覚えさせる方が良いわね。ホオリもそれでいい?」
「もちろん。いつも助かるよ、レベッカ先生!」
フフンと胸を張っていらっしゃる。おだてればやる気を出してくれるから助かるな。でもモールに戻ったら甘いものを提供した方が良いかもしれない。宮城さんにちょっとお願いしておこう。
『もう一つ。コッチーよ、雷身の使いどころには注意せよ。』
「雷身?あの目に見えない速さで攻撃する技ですか?」
『そうだ。攻撃というより移動法だがな。あれは単純な速さで捉えられるものはいないが、“置き”にめっぽう弱い。特に俺のように全身を刃に変えられる場合はその速さがお前にとって致命的な攻撃力になってしまう。今回はあえて使わんかったが、雷神は比較的多い神の一つ故、対策もされやすいことを忘れるな。』
『はい。分かりました。言われてみれば仰る通りですね。刃の塊の中に高速で突撃したらこちらがズタズタにされちゃいます…』
置きカウンターか。逆に相手が高速戦闘が得意なタイプなら、俺の土槍でカウンターが出来るかもしれないってことか。勉強になるな。ミコトもウンウンと頷いているところを見ると、対策を考えているのだろう。やられる前で良かった。下手するとコッチーが死んでいた可能性もあるな。
『とまぁ、今回俺が言いたいのはそれくらいだ。戦闘経験は強い敵と戦わないとあまり付かないから、お前たちはこれからが大変かもしれん。俺と戦いたくなったらまた声を掛けてくれ。』
「「「『・・・・・』」」」
『がっはっはっ、嫌われたようだぞ。お前のような戦闘狂と好んで戦いたいものなどおらんわ。』
『大山祇…お前だって若い時は散々暴れていたではないか!娘や孫が出来て落ち着いた振りなどしよってからに!』
『お前は子だくさんの割には落ち着かんのぅ。』
『俺は生まれてすぐに親父殿にぶった斬られて子をなしたから仕方ないだろう!』
「ま、まぁまぁ…お二方とも…そのぐらいに…。カツグチ様の言う通り戦闘経験で困ったら相談させていただきます。」
『ホオリは良い子だな。俺は炎の神でもあるから俺をまつる社もそれなりにある。なくても社で声を掛けてくれれば届くだろう。この岩親父の社の方が多いからそっち経由で連絡をくれても良いぞ!』
「こいつ、この先も出てくる気満々じゃないの。うちの女王様と言い、自分が楽しむために関与してくるのは勘弁してほしいわね…」
「そ、それはそうと、福島さんはまだ戻りませんか?」
『そうじゃった。福島はこちらから声を掛けんと延々と鍛冶修行に付き合わされておるんじゃった。いま連れて参るから待っておれ。』
神様にも忘れられる福島さん…俺達が言うのもなんだけど不憫だな…。ミコトも苦笑いしていた。うん、考えることはみんな同じ、と。
一瞬消えていたオオヤマツミ様が再び現れ、その後ろのは3人の影が見える。一人は福島さんとして、あとの2人は誰だろう?
「おおおお!みんなーーー!会いたかったでござるよ!!」
「げっ!アンタなんて格好なのよ!髪の毛と髭!汚いわね!」
『福島さん…清潔感が無いのが一番女の子に嫌がられるんですよ。』
「ワイルドって感じでもないから、ちょっと厳しいですね…」
「ゴフッ!数か月ぶりに会えたのに…拙者のライフはもうゼロよ…」
お、おおう、女性チームは辛らつだな…。確かに髪は伸びてボサボサ、髭も伸び放題とちょっと汚らしいけど、別に体は汚れている感じはないし、むしろ筋肉がついて引き締まっている気がする。お腹も少し出ていたのが完全に引っ込んでいるし。
「ふ、福島さん。色々と積もる話もありますし、お風呂行きません?
ほら、3人はさ、昨日泊った旅館にもう一泊できないか確認して、待っててよ。俺は福島さんを連れてもう一回銭湯に行ってくるからさ。」
「ホーリーぃぃぃ」
福島さんが涙目ですがってくる。うん、女性のあの目にさらされたら辛いよね。
「あ、そういえばそちらのお二人は?」
「おおお!そうでござった。こちらは拙者たちの鍛冶の師匠である、鍛冶神ゴブニュ。そして、もう一人は兄弟子の岡山で刀匠をなさっていた上田さんでござる。
兄者も一緒に風呂に行こうでござるよ。師匠はどうなさるか?」
『初めまして英雄たちよ。ワシはゴブニュ。守るべき土地に人がいなくなってしまい途方に暮れていたところでオオヤマツミ様に声をかけていただいた西の国の神じゃ。プラーナを使った技芸が必要と聞き、上田と福島を鍛えておる。しばらくはアッシャーに留まるのでよろしく頼む。』
おお、神様だったのか。まさに職人と言ったいで立ちだが、確かに神性を感じる。武器とか防具とか作ってくれるのかな。戦闘部隊にとっては非常に助かる。
「私も風呂に入れるなら一緒に行こう。あそこは確か、髪を切ってくれる人がいるはずだ。」
『ワシはオオヤマツミ様やカグツチ様にお話がある。お前たちは行ってこい。出立は明日で良いだろう。』
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