第86話 しまらぬ結末
しまらんなぁ
俺達に降り注ぐ刃と火炎の大雨を前に岩壁での防御が一瞬頭をよぎったが、すぐにその選択は除外した。万一、土壁を破壊された場合、石つぶてもこちらに降り注いでしまう。
俺は下がったミコトと入れ替わる形で棍を振るい襲い来る刃や火炎弾を弾く。
一心に棍で弾く弾く弾く!絶対に後ろにはやらせないぞ。棍は剣よりも防御に秀でている武器だ。短く持てば小回りが利くし、長く持てば薙ぎ払いで広範囲をカバーすることも可能。突きで一点の攻撃力を増すことだってできる。
トウガとフツヌシ様に習った動きが生きる瞬間だった。
だがさすがに全部を弾くことはできず、いくつかの刃や火炎弾が後ろにいる3人に襲い掛かる。それをレベッカが風弾を当てて軌道を変えることで回避。
小さい風弾を大量に周囲に発生させ、軌道を変えるためだけの最小限の動きと角度で当てているようだ。さすがに器用だなレベッカは。
ミコトとコッチーは反撃に備えプラーナを貯めているのか。ミコトはもう一度ウォータージェットカッターを使うのか?コッチーはイカヅチかな?
よし、二人が火力を出してくれるなら俺は防御に専念だ。ここで力を使い切る覚悟で防ごう。
「ハァハァハァ…どうだ防ぎきったぞ…」
もう腕が悲鳴を上げるという所で、刃と火炎弾がようやく止んだ。そして即座にミコトとコッチーが動く。
いや、コッチーはもう動いていた。相変わらず見えない動きでカグツチの後ろに出現。いや、更に何往復か切り裂いたのか?
回転が止まったカグツチの体に幾条もの爪の切り裂き跡が発生。動きが止まったところでミコトのプラーナが爆発。
「水穿破!」
技名あるのかよ!意味はまんまだがカッコいいな!
ミコトの水穿破でカグツチの体に穴が開き、更に左右に振られた水穿破で体の一部が切り裂かれる。
断つのがやっとなほど疲弊した俺だったが、優しい光を浴びて力が少し戻る。
肩越しに後ろを見るとレベッカがお前もやれと言わんばかりの表情で睨んでいた。最後のプラーナを分けてくれたのか!
その思いに応えるべく俺はカグツチの上方まで力いっぱい飛び上がり、最後のプラーナを全部棍の先に発生させた刃に注ぎ込む。今度は外さないぞ!
「いくぞ!大!切!断!!」
これがすべてを断つ力だ!
カグツチはとっさに尾剣で打ち合うが、それすらも切り裂いて俺の刃がカグツチを襲う。カグツチは驚きの表情で真っ二つに切り裂かれた。
「うそでしょ…」
レベッカのつぶやきが聞こえた気がした。
半分に断たれたカグツチの体が炎のようにボゥと消える。
『悪くはなかったぞ。だが残念だったな、それは分身だ。』
少し離れた位置からカグツチの声が聞こえる。分身…?
『さて、どうするか…もう一当てもつか?』
カグツチが戦闘態勢になる。くそっ、もうプラーナがほとんどない。レベッカもミコトも肩で息をしている。コッチーのしっぽの炎も消えてしまっている。
『ここまでか…では最後に面白い経験をしてもらおうか!』
身が凍り付くほどのプレッシャーを感じたかと思うと、目の前にカグツチが現れ体中の刃で切り裂きに来る。身を縮こませて耐えるが、体中の肉が細切れに弾き飛ばされるような感覚と鋭い痛みを感じる。
そして直後にカグツチの口から炎が吐き出され、向かってくるのがスローモーションになって見えた。
「ハァハァハァ…い、今のは…俺は…」
気付くと俺は膝と両手をついて肩で息をしていた。体中を切り裂かれる痛み、目の前に迫りくる炎、皮膚が焼かれる熱さ…あれはいったい…。
地面についている手が見える。どこも傷を負っていない。火傷もない。
「み、みんなは…」
他の3人はどうなった?確実に体験した死を振り払い周囲を見渡す。みんな…いる…な。他の3人も無事のようだったが、それぞれ膝をついて震えている。同じような体験をしたのだろうか。
『死を体験した気分はどうだ?』
カグツチの声が聞こえる。死を体験?
『まったく…やりすぎじゃ。みな大丈夫か?誰も死んではおらんぞ。カグツチの桁違いのプラーナにあてられて、魂が死のイメージを持ってしまっただけじゃ。みな無事じゃから安心せよ。』
「オ、オオヤマツミ様…死のイメージ…。」
あれがイメージか…痛みも熱さもすべて本当のことのようだった。あれが死ぬってことなのか…ベリアルと戦った時ですら感じなかったリアルな死…。
「もう、修行は終わり…かしら…」
さすがのレベッカも憔悴しきっているようだ。いや、ミコトやコッチーは一言も発せていないから、レベッカはまだ元気な方なのかもしれない。
『うむ、ご苦労だった。修行は終わりじゃ。少々、戦闘狂のバカがやりすぎたが許せ。』
「「「・・・・・」」」
『う、うむ。まぁなんだ…そんな目で見るな。そ、そうじゃ、西の海辺に風呂がある。なんじゃ、スーパー銭湯じゃったか。あそこは良いぞ!このような状況でも憩いの場として店を開けているから皆で行ってくるがいい。儂の名を出せばコッチーも入れるだろう。
そうしよう、そうしよう。ささ、アッシャーに戻って湯につかれば疲れも取れよう。』
『なんだ、そんなにへこたれているのか?若いのだからもっと勢いをもってだなぁ。』
『お前は黙っておれ!』
オオヤマツミ様がすっごく気を使ってくれるので逆に申し訳なくなってきた。
「みんな、せっかくオオヤマツミ様がこう言ってくれているし、お風呂に行ってみよう。スーパー銭湯になんて入れると思ってなかったし、よく考えるとすごくラッキーだよ。」
「そ、そうだね!海も見れるのかな?広いお風呂にゆっくり使ったら気持ちも軽くなりそうだし行ってみよう!」
「はぁ、そうね。私もお風呂は気に入っているし大きいお風呂は入ったことがないから興味あるわ。」
ナーン。コッチーもお風呂に入りたそうだし、気持ちを切り替えて行ってみよう!
オオヤマツミ様に作ってもらった門をくぐり大山祇神社に戻ってくる。1か月以上向こうにいたから、なんだか懐かしい感じがした。
『今後の話もある故、風呂に使って心身を休めたら戻ってきてくれ。最後はまぁなんだ、締まらんかったが確実に強くはなったわけじゃし、修行をした甲斐はあったはず。
では待っておるぞ。』
「お気遣いいただきありがとうございます。修行ありがとうございました。まずはゆっくり体を休めて、気持ちを切り替えてから戻ってきます。」
オオヤマツミ様の言う通り最後は微妙な空気になってしまったが、修行自体は成功だろう。俺達はオオヤマツミ様の元を辞去し島の西に向かって歩き出した。
エンカウント:Lv測定不能 火之迦具土神
負けイベントのうまい終わらせ方を学ばないと…(´・ω・`)
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