第83話 大ムカデ
ダンジョンアタック!
洞窟はまだ続いているらしく、さらに先に進む。フワフワした光の玉のようなものが現れ始める。コイツは強い光を放ち目をくらませて来たり、プラーナの塊を飛ばしてきて攻撃してくる。フワフワ浮いているので少し攻撃を当てづらいが戦闘力は大したことがない。やっかいなのはコイツ自身が発光しているため、倒すと周囲が暗くなり、目が一瞬慣れないということ。
倒すたびに目くらましを受けるのはうんざりなので、目をつぶって戦うことにした。コイツと戦いのおかげで視覚に頼らない戦いもずいぶん慣れてきた。
そうしているうちに、休憩所になりそうな部屋が現れる。時間の感覚が全く無くなっているため今が昼なのか夜なのかもわからない。プラーナのおかげで心身ともに強化されているが休めるときには休んでおこう。そろそろ終わりが近い気もするし。
初日同様に感知を切らさないよう注意しながら眠りにつく。途中、2度ほど光の玉が襲ってきたが、事前に感知し起きて迎撃することが出来た。野生動物みたいになってきたかな?と自分でも少しおかしかった。
それ以外の襲撃は無く、ある程度の睡眠はとれた。食事もすませて探索を再開。
少し進むと予想通り広間が見えてきた。ボス戦かなと気を引き締める。
そこはかなり広めの部屋だったが、待っている敵もまた大きかった。全長が何メートルあるだろうか、巨大なムカデがそこにいた。
足がわさわさ動いているし、顎にある牙のようなものはかなり鋭そうだ。体が大きい=力があるということだし、体当たりは受けきれないかもしれない。体皮も堅そうなので半端な攻撃も通りづらそうだ。
俺の使える飛び道具だとダメージを与えられそうにない。とは言え、いきなり接近戦を開始する前に動きの速さは知っておきたい。
俺は先制の貫通力重視で高回転フレイムバレットを放つ。10発程度放ったうち、2発ほどは回避されたが、他は体皮に突き刺さる形で着弾。刺さってはいるが貫通はしないし燃え広がる感じもない。針で刺した程度のダメージにしかなっていなさそうだ。
俺は3種バフで肉体を強化し、接近戦を開始。棍での打撃は多少のダメージがありそうだ。だが嚙みつきや体を振り回しての薙ぎ払いなど、直接受け止めるのは危険な攻撃も多く、躱すだけでも大きく動く必要がある。長期戦で体力を減らされると厳しいか…。
ムカデを倒すとしたら体を繋いでいる節を狙うか、口の中から脳を破壊するか、何かしら弱い部分を攻める必要がある。
まずは土槍で体皮を貫けるか試してみる。うーん貫けないな。多少、動きを阻害できるがすぐに薙ぎ払いで破壊されてしまう。貫くには高密度のプラーナ刃を棍に発生させて突き刺すしかなさそうだ。
どうやって隙を作るかな…そうだ、久しぶりにアレをやろう。
俺はムカデの攻撃を捌きながら、時々相手の体を打ち付ける。攻防に焦れてきたムカデが頭を下げて噛みついてくる。俺は棍にプラーナをしっかり込め、あえて受け止める。
とんでもない衝撃だったが何とか受けきった俺は目の前にあるムカデの頭の近くでプラーナで作った光を強く発行させた。
ムカデは目がくらんだのか、大きくのけ反る。俺はその隙に棍の先に発生させた高密度のプラーナ刃でムカデを上から貫き、地面にくし刺しにする。さらにその傷目がけて土槍を発生させて貫き、土槍から木の根を伸ばしてムカデの体を貫いていく。
苦し気にうめくムカデは俺に向かって口から何かを吐き出すが、それを回避。床がジュワっと音を立てて溶けたので強酸のようだ。
口の中を攻撃していたら危険だったかも。
しかしそれが最後のあがきだったのか、木の根に体中を貫かれたムカデは生きたえ倒れ、そして光になって霧散していった。
大きな虫型のアクマ?と戦うのは初めてだったか。体が大きいというのはそれだけで脅威だ。名古屋で大蛇と戦った時もそうだが、体が大きい=力が強いなわけで、大きいから動きが鈍いわけでもない。いい経験になったかな?
ムカデが倒れた先にもう一つ部屋があり、そこにある祭壇のようなものに淡い光を放つ玉が置いてあった。これが師匠がとって来いと言った宝珠だろう。
宝珠に近づき掴もうとしたところで、宝珠が俺の中に吸い込まれていった。
「えっ!?ど、どこに??」
慌てて体を探るがどこにも見当たらない。本当に体の中に入ってしまったようだ。
「嘘だろ…まさかこれって失敗じゃないよね…」
俺はため息を吐き項垂れたがここに留まっていても仕方がない。師匠に叱られるかもしれないが諦めて受け入れるしかないか。
さて帰ろうと振り返った瞬間、光に包まれてどこかに飛ばされる感覚があった。目を開けると洞窟の入口に戻っていた。
自動転移みたいな仕掛けがあったらしい。よく考えると、同じ時間をかけて戻っていたら食料が足りないよな。今回は師匠が全部準備をしてくれたから良かったが、本来、自分で準備をするなら戻る時間も考えて用意しないといけないことに気付いた。
まだまだ色々なことが不足しているなと思いながら修練場に戻った。
「師匠!戻りました。」
『うむ、その様子だと上手くいったようだな。ん?どうした?叱られる前の猫のような顔をして。』
「よく猫の顔なんて知ってますね…えっと、それはともかく、指示された宝珠ですが触れた瞬間、俺の体に吸い込まれてしまって…」
『うむ、それでよい。あれは宝珠の形をしているが儂の力の結晶だ。目的物として分かりやすいようにしただけだからな。』
「あ、そうだったんですね。はぁぁぁ、良かった。てっきり失敗したのかと思いましたよ。」
『お前は実力の割には気が小さいな。おごらないところは美点だが過ぎれば欠点にもなるぞ。』
「塩梅が難しいんですよ…」
『すべき決断の時に腰が引けねば良い。さて、此度の修行で何を学んだか教えてもらおうか。茶を用意してある。腰を下ろしてゆっくり話すが良い。』
俺は目だけに頼らず戦うことや、休むときに感知を切らさないようにすること。目には見えない音の攻撃への対処、目くらましなどの力だけではない戦い方、大型のアクマへの対処、そして帰りまで考えた準備の必要性について師に報告する。
フツヌシ様は一つ一つ頷きながら聞いてくれた。
『うむ、十分に及第点だろう。今回の修行は今までのように仲間と共にではなく一人で武の高みへ向かうものだ。どのような環境でも生き延びられる生存力があればプラーナもまた強くしなやかに成長していくだろう。』
生存力か…いわゆるサバイバル訓練という感じなのかな。
その後はまた基礎の体づくりや地稽古を繰り返す。少しずつだが師匠と打ち合う時間が増える。師匠も足を使って攻め受けをするようになってきた。一歩も動かせなかった時から比べると少しは成長してきている実感があって嬉しい。
また、最近は特に込められるプラーナの量が大きく増えていると感じる。今までは少しずつ倒したアクマから吸収することで絶対量が増えていたのだが、ここで稽古を始めてから、悪魔を倒したのは洞窟攻略だけにも関わらず、総量の増加が著しい。
『それはこの地に流れるプラーナの量がアッシャーとは比べ物にならないことと、食事にも多量のプラーナが含まれていること、稽古で体内全てのプラーナを使い切って一日を終えているからだ。』
「ここでの修業はプラーナの保有量を増やすのに適しているということですね。」
『そうだ、プラーナの量=強さとも言える。この先、下級神クラス、いやそれ以上の相手とも戦うことを想定すると、アッシャーで戦っているだけでは届かんからな。儂らはアッシャーでは長時間顕現できぬし、仮に顕現したとしても、本来の肉体がないから分霊での顕現となる。それでは邪神の眷属とは戦えん。
それに、すでにアッシャーはお前たち人間のものだ。ガイアがそう定めたからな。であればアッシャーは人間の力で守らねばならん。』
「ちなみにガイアというのは?」
『大戦の後にこの星を癒すために星と同化した神の名だ。大地神ガイア。誰よりも慈愛深く、誰よりもこの星のことを思っている。進化の過程で人間が生まれたのは偶然なのかガイアの意思なのかはわからん。だが、お前たち人間がここまで発展しても滅びの道に進まんのはガイアが認めているからだろう。』
「そうなんですね。俺達の、俺達全員の親みたいなものですかね?だとしたら、なおさら邪神にこの国もこの星も渡せないですね。」
『うむ、その気持ちを忘れるな。』
エンカウント:Lv36 ウィスプ / Lv45 大百足
ソロでダンジョンアタックというのはリスクが高すぎますよね。今回はサバイバル訓練のようなイメージで採用してみました。
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