第80話 英雄として
弱鬱展開
鳥居をくぐった瞬間にまばゆい光が視界を覆った。だが、光はすぐに消え、目を開けるとそこはどこかの街…それもビルが立ち並ぶ東京のオフィス街のようだった。
左手に重さが消え、右手の温かい感触が消えていることに気付き、手元と右側を見たがそこにはコッチーもミコトも、そしてミコトの肩に乗っていたはずのレベッカもいなくなっていた。
「手をつないでいても駄目だったか…。一人にされたってことはみんなそれぞれが一人で受ける試練って事かな。」
一人納得して周囲を観察する。ビルが立ち並ぶ街並みだからといってここが本当の東京だとは思わない。試練のために作られた空間と考えるのが正しいだろう。
見える範囲では本当に普通のビル街という感じだが、人は一人もいない。少し歩いてみよう。
少し道なりに歩いていると、先の方で人の叫び声が聞こえた。俺は急いで声がする方へ駆け出す。キャーとか助けてーとか言う声が交差点の左側から聞こえてきた。
俺はさらに加速し交差点を曲がる。そこには道化師のような恰好をした怪人たちがナイフや剣、鎌などを持って人々を襲っていた。
俺は今まさに鎌を振り下ろさんとしている道化師にバレットを放ち攻撃を阻害する。さらに近付き棍を払って弾き飛ばす。剣を振るう道化師を土槍で串刺しにする。投げられたナイフをバレットで撃ち落とし、フレイムバレットの連弾で道化師を焼き尽くす。
そうやって10体ほどの道化師を葬ったところで、敵の姿が見えなくなった。
すでに殺されてしまった人も数人いたが、ほとんどの人を守れたと思う。近くで腰を抜かしている男性に向かって、声を掛け手を差し伸べた。
「もう大丈夫です。アクマはとりあえず倒せたみたいです。どこか避難できる場所はありますか?」
「あわ、あわわわ、ひいぃぃぃぃっ!化け物――――!!た、助けてくれーーー!」
男性は叫び声をあげて、必死に逃げていく。まさかまだアクマがいたのか!
俺は振り返り、戦闘態勢に移る。だがそこには怯えた表情をした人々がいるだけ。アクマはどこにも見つからず、プラーナ感知でも見つけ出せない。
「どこかにアクマが残っていますか?」
俺が声を掛けると、人々は叫び声をあげて散り散りに逃げていった。
「ど、どういうことだ?」
戸惑って、立ち尽くしていると、急に風景が変わり、奈良さんや香川校長、長崎先生などのリーダーたちが会議をしているところが見えた。
俺が声を掛けようとした時、リーダーたちの話し声が聞こえる。
「いったいどうしましょうか?あの力は人間にとって脅威でしかない。」
「最初はまだ良かったんだが…」
「もうアクマの脅威はほとんどありませんよ。彼のような力を付けすぎた人間の方がよほど恐ろしい。いや、あれはもう人間ではない…」
何の話をしているんだろう…力を付けすぎた人間が脅威?人間じゃない?
心臓がバクバクいっているのを感じる。まさか、という不安が押し寄せてくる。あの男性の恐怖の顔…化け物…
「高屋穂織と玉乃井美琴をどうにかしなければなりませんよ。」
「アクマとの戦いでいっそ死んでくれればよかったのに…英雄のままで死んでくれれば…」
「落ち着きましょう。幸い彼は私達を信頼している。暗殺という形であればやりようはあるのではないですか?」
嘘だ嘘だ…奈良さんがあんなこと言うなんて…香川校長だって長崎先生だって…
『強すぎる力は人々から疎まれるやもしれぬ…』
オオヤマツミ様の言葉が頭の中で反響する…そうか…疎まれるってこういうことか…
また場面が変わる。ここはどこかの山の中か?来たことがない場所だ…目の前には体中が傷付いて座り込んでいるミコトがいる。
「どうしてこんなことに…ホオリくんが…ホオリくんが力を求めるから!人が持てる以上の力なんてあったって戦いが終わったら、こうして守ったはずの人に迫害されるんだ!ホオリくんがあの時、神様の修行なんて受けるって言うから!全部あなたのせいだ!」
ははっ…ああこれは幻だってはっきりわかる。ミコトがこんなこと言うわけがない。彼女の太陽のような真っすぐさは十分にわかっているつもりだ。自分自身が選択したことを人のせいになって絶対にしない。
でもこれは俺の心のどこかで思っていることなのかもしれない…
そしてまた場面が変わる。ここはどこだろう。少し幻想的な雰囲気を感じる草原と森の境目かな。レベッカがいる。
「アンタともここでお別れね。私は妖精の世界に帰るわ。アンタはニンゲンだからついてこれない。自分の世界で生きなさい。たとえニンゲンがアンタを受け入れないとしても一緒には行けないのよ。」
なるほどね。どこにも居場所は無いよってことか…レベッカなら言いそう?いや、本当に困ったとき、つらい時はこんな言い方しないな。わたし達で新しい世界を作るわよ!くらい言うかもしれない。
更に場面が変わった。ここは…俺の…俺達の家か…目の前には姉さん、コッチーがいる。
「ホオリちゃんが階段を降りるのが遅いからみんな死んじゃったんだよ。それに私か、父さんか、母さんが一番前だったら生き残ったのはホオリちゃんじゃなかったかもしれない。なんであなただけが、のうのうと生きているの?私なんかコッチーの中に入っちゃったんだよ。人間じゃなくなっちゃった…ひどいよホオリちゃん…」
姉さんはどう思っているんだろうな。人の姿になれるようになったら話してくれるかな?
ふと背後に気配を感じ振り向くと、父さんと母さんがいた。
「父さん、母さん、俺…ごめんね…みんなを死なせてしまったのは俺のせいだ…」
「穂織、母さんは穂織が生きていてくれて本当に嬉しい。私達は死んでしまったけれど、あなたの未来がまだ続いているだけで嬉しいんだよ。本当はもっと長く一緒にいたかった。素敵な女性に巡り合って家族を作って、かわいい孫が生まれて…。ごめんね穂織。」
俺は首を振る。
「ありがとう母さん、もう一度会えただけで俺は嬉しい。」
続いて父さんが話し始める。
「穂織、俺から言えることはただ一つだ。未来の失敗におびえず立ち向かえ。絆を、姉さんとコッチーを頼むぞ。」
俺は涙をこらえて頷く。
「穂織、愛しているわ。」「穂織、愛しているぞ。」
「父さん!母さん!」
俺は我慢できずに二人に抱き着く。「俺、父さんと母さんの子供で良かったよ…」
一瞬だが二人のぬくもりを感じ、父さんと母さんは淡い光になって天に昇って行った。
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~~Side ??
『親に会わせてやるなんて情深い奴だな…さすがのお前も孫には甘いか?』
『いや、勝手に介入されたんじゃ。マルガに還らず、息子を見守っていたんじゃろう。』
『人間がか?あやつらは真度し難いな…』
『それが人間、やも知れぬのぅ。アッシャーに君臨する傲慢さは侮れんよ。』
『だがこれで英雄の覚悟は決まったか。経津主の出番があって何よりだ。』
『色々と手を貸してくれて助かる。お主は子も多いからなぁ。』
『父に斬られたと時に生み出した子らだがな。まぁおかげで眷属含め身内が多くなったものよ。お前に借りを作れるのは悪くないしな。』
『彼らの成長を間近で見られるのは“貸し”になるくらい面白いやもしれんぞ。』
『はっはっ、それは楽しみだ。全員が試練を乗り越えられたらな。』
いわゆる魔王討伐後の勇者の話のようなイメージで書いています。
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