第78話 脳筋を倒すただ一つの方法
「はぁぁぁっ!」
俺がタケミカヅチの剣を捌きながらミコトが懐に入り攻撃を開始。ミコトの突きや蹴りは何度か入っているが踏み込み切れていないせいかタケミカヅチは怯みもせずに受けきっている。
コッチーの火球やレベッカの風弾も俺達の隙を埋める形で飛んできているが、剣で振り払われるかガードで防がれている。4対1で完全に捌かれると自信を無くすぜ。
不意打ちまがいの土槍や足場崩しも読まれているし、プラーナの動きを完全に把握しているのか?
『がっはっはっ、なかなかやるなぁ!だが前衛の二人の動きが甘いせいで、後衛の攻撃もうぬらを配慮したものになっているぞ!』
くっそ、剣神というのは本当のようで剣の技量が尋常じゃない。3種バフで力も早さも守りも上がっているはずなのにタケミカヅチの剣捌きについていけないのだ。
更には後衛に向かって牽制程度とは言え雷まで落としているのだから神の技量にはあきれるしかない。脳みそが3つくらい付いているんじゃないか?
「ホオリ!ミコト!」
レベッカの声が聞こえると同時に風弾が飛んでくる。わざわざ声を掛けたってことは爆裂風弾か。
俺とミコトがとっさに後ろに飛び下がり距離を取る。直撃コース!
『フンッ!』
タケミカヅチからの全方位雷撃。風弾も撃ち落とされ、その場で爆発。
「崩せないな…」
「剣の技量が高すぎるよ。4人で攻撃して隙一つ作れないなんて。」
「長期戦になったらホオリかミコトの集中力が切れた方が一気にやられるわ。」
『作戦会議かぁ?戦場で悠長なことだな!』
タケミカヅチが一気に距離を詰めて剣を横なぎに払う。俺達は転がりながら何とか回避。回避した先に雷が落ちる。コッチーとレベッカは素早い動きで回避するが、俺とミコトは障壁で防ぐのがやっとだ。
足が止まった俺の方にタケミカヅチが追撃を行う。棍で何とか剣を防ぎ、いなすが捌ききれない。操鬼闘法を貫いて何度か斬撃を受ける。深い傷ではないがダメージが蓄積し始めた。
そこでミコトが再度接近戦を開始。だが、ミコトの攻撃を無視してタケミカヅチは俺に集中して攻撃をおこなう。
一人ずつ確実に落とす算段か!
チラっとミコトに目配せ。すべては伝わらずとも何かをしようとしていることは伝わったはず。
ミコトがすっと攻撃を止める。ミコトからの圧がなくなったタケミカヅチは両手持ちで上段斬りを放つ。
俺も両手で棍を支えて防御。それと同時にタケミカヅチの足を岩で覆い動きを止める。さらに棍と剣を伝ってタケミカヅチの両手を木の根で拘束。
一瞬で拘束を破壊したタケミカヅチだったが、その懐には全力でプラーナを拳に貯めたミコトが飛び込んでおり、みぞおち目がけて全力で打ち上げの突きを放つ。
30㎝ほど浮き上がったタケミカヅチ目がけてコッチーの火球とレベッカの風弾が直撃。今までの抑え気味の攻撃ではなく、プラーナがしっかり乗った強力な攻撃だ。
俺は爆裂する炎と風からミコトを岩壁を作り守る。
10mほどは吹き飛んだタケミカヅチが地面に落下し叩きつけられた。
「やったか!」「やった!」
あ…
ついフラグを立ててしまった俺とミコトが顔を合わせる。
コッチーがニ“ャー!と怒った声を上げる。
だが、タケミカヅチは起き上がらず、倒れたままだった。
ふぅーーと息を吐き、みんなが緊張を解いた時、巨大な雷がタケミカヅチに落ち、周囲に衝撃波を放った。
「ぐっ!な、なんだ!?」
衝撃が収まった後、タケミカヅチは全身から雷を放ち立ったまま宙に浮いていた。
『がーーっはっはっはっ!見事見事!良い攻撃だったぞ!だがまだまだぁ!その程度で神を倒せると思うなよぉ!!』
ドンッ!と音が響くように宙を蹴ったタケミカヅチが俺の目の前に現れ剣を振るう。斬撃を躱し、棍でいなし、それでも何度か剣先がかすり、血が舞う。
これ以上躱しきれないところで飛んできた上段斬りをかろうじて棍で受けるが、タケミカヅチの剣から雷が発せられ棍を伝って俺を打つ。
「グッ!ガァァ!」
一瞬、意識が飛びかけ、体が硬直する。そして横腹に蹴りを受けて俺は吹き飛んだ。
ミコトが攻撃を仕掛けるが、蹴りを左手で払われ体制が崩れたところでみぞおちを剣の柄頭で打たれミコトも弾き飛ばされた。
「がふっ…」
俺は何とか起き上がろうとするが、力が入らない。胃から上がってくる胃液なのか吐しゃ物なのかわからないものを吐き出す。
何という強さだ。ベリアルも強かったが、こいつも今まで戦ってきた相手と比べ別格に強い。攻撃も防御も段違いだ。これが神の領域の戦いか。
震える足に必死に力を入れて何とか立ち上がる。タケミカヅチを挟んで反対側にいるミコトも何とか立ち上がろうとしている。
俺の肩の上にレベッカが飛んできて、耳元でつぶやく。
「力同士の戦いじゃ絶対にかなわないわ。少なくとも今のままでは。だから別の手段を使う。絶対に私がアイツの動きを止めるから、全力の一撃を放って。」
「わかった、レベッカに任せる!」
詳しく聞いている暇はないが、レベッカが絶対なんて言うからには確実に動きが止まるはず。それが一瞬であってもそこに俺達の全力をかけるしかない。
レベッカが風を操って弾丸のようにタケミカヅチに向かって飛ぶ。俺もそれを追いかけるように駆ける。
向こう側でミコトが構えを取り。静かに深呼吸を始めたのを感じた。力を貯めているな。言葉は交わさずともこちらの意図は伝わったはず。
視線を向けなくても、少し離れた位置にいるコッチーも同様にプラーナを貯め始めたのを感じる。
レベッカが飛びながら両手をタケミカヅチに向け、何かを操作するような不思議な動きを取った。
それを見て何かに気付いたのかタケミカヅチがレベッカを攻撃しようと一歩踏み出したが、そのままの態勢でガクンと頭が下がった。
ここか!
俺は走る速度をさらに上げ、その勢いのままにタケミカヅチの腹目がけて全プラーナを込めた突きを放つ。
棍の突きを無防備に受けたタケミカヅチがミコトに向かって飛んでいく。ミコトは地面に円状のひびが入るほどの強さで踏み込んで、飛んできたタケミカヅチを回し蹴りでさらに空中にはじき返した。
宙を飛ぶタケミカヅチに対して白く煌々と輝くコッチー火球と、暴風と呼ぶにふさわしい嵐を内包した風の弾が直撃。
空中で大爆発を起こす。
洞窟の天井が崩壊するかと思ったが、パラパラと岩のかけらが降ってくる程度だった。洞窟自体は破壊不可能なほどの強度があるのか。
爆風が収まった後、タケミカヅチの姿はそこにはなかった。
しばらく様子をうかがっていると、爆心地付近の床辺りに光があつまり人の形を成していく。
そして、膝をついたタケミカヅチが徐々にその姿を現していった。
まさか復活戦かと棍を構え直す。
『いや、勝負あった。うぬらの勝ちだ…まさか肉体ごとコナゴナに吹き飛ばされるとは。』
良かった。戦いは終わりのようだ。俺は構えを解き、どっと腰を下ろして座り込む。ミコトやコッチーもその場でへたり込んでいた。レベッカは俺の肩に降り立ち、耳に手をかけ肩に座った。
「合格ですかね?」
タケミカヅチに声を掛ける。
『がっはっはっ、当然合格だ!あのような手段で勝ちを拾いに来るとは、俺もまだまだ修行が足りん。本当はそこそこのところで終わりにするつもりだったが、まさか負けるとは。』
そうか、勝たなくてもよかったのか。俺は再度立ち上がり、座っているコッチーを抱き上げ、ミコトの元の向かう。
「レベッカ、そう言えば最後は何をしたの?」
「眠らせたのよ。」フフンと胸を張るレベッカ。
「眠らせたぁ!?」
エンカウント:Lv70 タケミカヅチ(分霊)
負けイベント戦闘に勝つ。
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