第6話 出会い
ひれ伏しなさい!と言いたいだけ
店員さんが避難者に3Fホールに集まるようアナウンスを流している。ぞろぞろと人々が移動している中、外から騒がしい声が聞こえてきた。
見張りをしてくれている人が1人奈良さんのところに走ってくる。どうやら、自宅へ帰った南側の住人が戻ってきたらしい。怪物が…とか、人が何とか言っている。奈良さんは見張りを落ち着かせ、戻ってきた人もホールに来てもらうよう伝えていた。
「みなさん、お集まりいただきありがとうございます。少し情報が入ってきたので共有したいと思います。
まず、今朝帰宅された南側に住む人が戻ってこられました。どうやら南側にも怪物がいるらしく、たくさんの人が亡くなられたようです。」
ざわざわと人々が落ち着きをなくしていく
「まだありますので、もう少しだけ聞いてください。
北側の様子も確認ができています。こちらも同様に怪物たちがいて襲われた形跡もあったようです。
また、北も南も同様ですが、建物や道路が崩れたりしているところはなく、昨夜発生したのは普通の地震ではなかった可能性がでてきました。
幸いにして、このナイン&Jモールには食料や生活必需品が十分にあり、今のところ怪物たちに襲われてもいません。せめてネットや電話がつながり、もっと広い範囲で情報が得られるようになるまで、ここで暮らしたほうが良いと思います。
みなさんで協力し合って、まずは生き延びましょう。」
ここで、一人の男性が手を挙げる。何もせずに待っているだけなのか?という質問だった。
「この後のことは相談して決めていきたいですが、無理のない範囲で周囲の状況を見に行く、偵察といいますか、自分たちの目と足を使っての情報収集は行いたいと思います。
また、この家屋が破壊されて怪物に侵入されたケースもわかっているので、モールの出入口については、人が通るところを完全に限定してしまい、封鎖する方向で皆さんに協力してほしいと思います。簡易的な拠点化を目指すべきだと思っていますが、これについても協議させてください。」
男性は理解したようで、それ以上は特に追求しなかった。ショッキングな情報共有だったこともあり、昼食を取った後、14時から今後の方針について協議することになった。
「高屋君、少しだけ先に相談させてほしい。」
「奈良さん…。はい、どんなことですか?」
「まず、君は怪物を倒せるんだろう?どのくらい倒した?」
「うーん、数えていないので正確ではないですが、スライムは7~8匹くらい、青白い小さい奴は1体です。」
「なるほど、スライムは普通の人でも倒せると思うか?」
「おそらく1匹だけなら武器があれば確実に倒せると思います。動きも別に早くないですし。ただ、上から降ってきたり、水たまりに擬態して足を取ってきたり、意外に頭がいいというか、油断すると危険です。
あと、今日見てきた感じだと、スライム単体というよりいろんな怪物が遠くない距離にいるので、戦っている最中に他の怪物に襲われる危険性があると思います。」
「餓鬼はどうだ?」
「ガキ?えーと??」
「ああ、すまん。青白くて下腹が出ている小さい奴だ。部下にファンタジーに詳しい者がいてね。君が見た怪物の特徴を伝えたところ、餓鬼という日本古来の怪物に特徴が似通っているそうなんだ。」
「そうなんですね。あ、えーっと、倒せるかの話ですよね?実はコッチーの電撃でひるませてからバットで殴りまくって倒したので、真正面から戦って倒せるかはわからないです。動きの速さとか力の強さが全く未知数で…。ただ、耐久力はさほど高い感じではなかったので、複数人で動きを止めたりできれば倒せると思います。」
「ふーむ、なるほど。少し確認したいのだが、私と腕相撲してくれないか?」
「え“っ?」
「ははは、確かに私は学生のころラグビー部で、今も筋トレは欠かしていない。普通の人より確実に鍛えているさ。だが、君からは何とも言えない力強さを感じるんだ。別に勝負というわけではないから、気楽にやろう。」
近くにあるお店のレジカウンターで腕相撲をしてみた。
まぁ当然だけれど奈良さんには勝てなかった。いや、俺の足くらい太い腕だから勝てるわけはないんだけどさ。だが、奈良さんは驚いていた。
「君はやはり少し普通とは違うな。私と君の腕の太さを考えると、私もそれほど力を入れずに勝てるはずだ。だが、負けはしないがかなり力を入れないと勝てなかった。なにかこう、筋力とは違う力が君に宿っているのかもしれないな。
となると、餓鬼を倒す話は、普通の男性を基準にすると危ないな。いや、時間を取って悪かった。とりあえず昼食をとってきてくれ。
あー、あともう一点だけ相談だが、先ほどホールで話した周囲の環境の偵察なんだが、君にも頼みたいと思っている。検討しておいてくれるとありがたい。」
「わかりました。午後の会議でまた。」
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午後の会議では、お昼前に奈良さんが話した通りの方針で、一旦はまとまった。あの後も、4人の人が南側から戻ってきていた。みな同じように怪物がいることを見て、また近所の人たちが全くいなくなっていたようで、恐ろしくなったそうだ。
昨日より確実に怪物は増えているのだろう。
周囲の偵察については、基本的に男性3名を一チームとして4チームほどが活動することになった。俺はコッチーがいるし、あまり知らない人と一緒だと怪物に見つかる可能性が高まるので、コッチーと二人のチームにしてもらった。
暗くなる前に一度だけ西側にある小学校の方を見てくることにした。避難所といえば学校の体育館だからだ。他に避難している人がいるかもしれない。
モールからは少し距離があるので、30分で着かなかったら戻ってくることにした。
今まで通り怪物には極力見つからないよう慎重に進む。途中で2度ほど避けられない場所があり、餓鬼を2体ほど倒した。コッチーが電撃でひるませてくれるので危なげなく倒すことができている。
だが、どうしても足が止まることになるため、小学校まではまだ半分以上距離があった。30分では到着できなさそうだ。そろそろ、戻ろうかというところで、崩れているコンビニを見つけた。地震で崩れたというより、何かが何度もぶつかって崩れたような感じがする。怪物に襲われたのだろうか。
まだ、怪物が近くにいたらまずいので、すぐに離れようとしたところ、何やら女の子の声がするような気がする。
(まさか人がいるのか?コンビニに閉じ込められているのかも!?)
コッチーの方を見ると、コンビニの方を警戒しているように見える。
「コッチー、一応確認に行きたい。慎重に行こう。」
フーッと毛を逆立たせてはいるが、反対という感じでもないので、周囲にも気を配りながらコンビニに近づいた。
「ちょっとー!もう何なのよ!誰か助けなさいよー!!」
やはり女性?かなり高い声なので小さな女の子なのだろうか?口が悪い小学生のような感じだ。そんな小学生女子は嫌だが…。
あまり騒がれて怪物が近寄ってきても困るので、声をかける。
「大丈夫ですか?助けますので、少し静かにできますか?怪物が寄ってくると助けられなくなります!」
「あ!ようやく来たの?仕方ないわねー、この崩れているのをどかしてちょうだい。可及的速やかによ!」
なんだかずいぶん偉そうだ。助けなくていいかな?などど一瞬考えたが、今なら助けられるはず。俺は急いでバットを梃子にしながら動かせそうなガレキからどけていく。なんだかいつもより力が入る気がするが、一旦気にせず女の子がいるであろう空間につながる穴をあけることができた。
声をかけようと穴に近づくとコッチーがシャーと鳴き、俺の足を引っ張った!
とっさに顔を下に下げたところに、小さな物体が飛び出てきた!あのまま顔を近づけていたら顔面に直撃していたかもしれない!
「あら?アンタ、アッシャーの奴じゃない?まだ喰われていないのが残っているのね。」
なにやらとんでもないセリフが飛び出てきた。声の方を向くと20cmくらいで背中にトンボのような透明の羽が生えた女性がフワフワ浮いている。
「なっ!怪物!?」
「はぁ!?アンタすっごく失礼ね!こんなに見目麗しいレディに向かって怪物って何よ。助けてくれてなかったら吹き飛ばしているわよ!
私はピクシーのレベッカよ。ひれ伏しなさい。」
「ひ、ひれ伏せって…。俺は高屋穂織。こっちは猫のコッチー。あんたは人間を襲わないのか?」
「へぇホオリね。なるほどねぇ。フフッ。
あー、ニンゲンってあれ?アッシャーにたくさんいるやつでしょ。まー私は襲わないかな。別に何の得もないしね。それより、この建物の中にあった甘い食べ物の方がいいわ。」
「そ、そうなんだ。俺も戦わずに済む方がいいや。あーそれと俺はもう行くね。そろそろ戻らないと心配しているだろうし。」
「ん?ホオリの家はここから近いの?おいしいものはある?どうせなら招待してくれてもいいのよ。」
「いや、駄目でしょ。レベッカは襲ってこないかもしれないけど、それを知らない人が見たら絶対にびっくりするし、騒ぎになっちゃうよ。」
「なにケチくさいこと言ってるの。アンタ男でしょ?男はレディに奉仕するものって決まっているの。オーベロン様もティターニヤ様にせっせと尽くしているわよ。
人目が気になるなら、服の中にでも隠れているから、話の分かるやつに説明して、話とおしなさいな。ま、アンタなら大丈夫よ。私が保証する。」
(えー、こんな奴に保証されてもなぁ。でも話してどうこうできる気がしない。クラスのうるさい女子より気が強そうだ。)
俺は仕方がなくピクシーのレベッカを胸ポケットに入れて、モールに戻るのだった。
エンカウント:Lv?? ピクシー
主要キャラ追加回でした。




