Extra Story5 英雄になりたい男
本編1話から35話くらいまでの話です(世界崩壊~食料工場)
~~Side 鹿児島
「ひやぁぁぁぁ!ななななんだぁぁぁ!?」
どでかい地震が来たはずなのに建物や道路は特に壊れたところはなく、なんだなんだとアパートの住人がゾロゾロと外に出てきていた。
ネットがつながらないなんて、とザワザワと騒ぎが起き始めたころ、唐突に人が火だるまになった。
別の方向では何かドロドロしたようなものに身体を包まれた人が溶けていく。
何が起こったと、パニックが起き始めたあたりで、鬼のような顔した巨大な蜘蛛が現れ、鋭い槍のような足で人々を串刺しにし始めた。
オレは何が何だかわからいまま、ただひたすらに夜の道を逃げた。その後ろではたくさんの人が悲鳴を上げ、逃げようと走り、転び、化け物たちに殺されていった。
「はぁっはぁっはぁっ…」
どれだけ走ったか、もう息が続かない…オレもあの化け物に殺されるのか。
気が付いた時には自分が通う鹿児島大学に着いていた。避難してきたのか、他にもたくさんの人が集まっている。
ここは無事なのか?少なくとも化け物はいないようだ。オレは崩れるように座り込み息を整える。
「あのぉ、大丈夫け? 」
どこかで見たことがある女性に声をかけられた。
「あ、はい、一応…あー、えっと、大学の…オレここん学生じゃっど…。」
「あ、やっぱそうよね。私もここで職員ばしちょっど。学内で見たことあっけんど…」
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大地震と化け物の出現から3日が経ち、大学への新たな避難民も来なくなったころ、インターネットが復旧した。
SNSはXitterだけが使えるようになり、制限はあるが日本中、いや世界中と連絡が取れるようになった。
だが、そこでわかったことは多くの人にとって絶望だっただろう。
『世界崩壊』それこそが大地震の正体だった。
オレたちにとって幸いだったことは、大学周辺と大学の東側、鹿児島湾沿いに立地する大型ショッピングモールであるナイン&Jモールの間には化け物が現れず、多くの避難民が食料や生活必需品を得ることが出来たこと。
そして、ショッピングモールのお偉いさんが東京や島根などのいくつかの地域と連絡が取れて、日本中にまだ生存者がいることが分かった。
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英雄ホーリー
最近、Xitterで話題になっている高校生男子だ。もともとは東京にあるショッピングモールの避難民だったらしいが、アクマと戦う力を手に入れて避難民を助けているらしい。
自衛隊を壊滅させた鬼を退治しただの、食料工場の安全を確保し、食料問題を解決しただの、ただの高校生にそんなことが出来るのかと疑わしい内容が広まっている。
しかもそいつが捕まえたアクマから力の使い方を習って、更にそれを人に教えて戦える人が増えているともいう。
鹿児島の避難民の中からも力(後からプラーナという名前であることを知る)の使い方を学んでアクマから人間の生活圏を取り戻そうとする動きがある。
高校生にできるならオレにだってできるはずだ。誰よりも強くなって、オレも英雄と呼ばれるようになってやる。
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大学やショッピングモールの周辺にアクマが出現しない理由が分かった。
そこそこ戦えるようになった人が増え、大学とモールを中心に周辺を探索したところ、大学を囲むように八幡宮などを含む神社が建っており、それらが輪をなすようにこの辺りを清いプラーナで覆っていたらしい。
実際に神に会った人はいなかったが、英雄ホーリーの情報を発信しているアカウントの情報によると、神が実際にいて、避難所を守っているという。
アクマがいるんだ、神もいるのだろう。
そしてその神の力を借りて、避難所と避難所の間を安全な道でつなぐこともできる。
鹿児島県最大のパワースポットと言えば霧島神宮が有名だが、そこになら力を貸してくれる神がいるかもしれないと、避難民の中で話が広がっている。
ここから北西にある農業センターを中心とした食料工場地帯の安全を確保したら、霧島神宮を目標に北上するプランが避難民たちのリーダー会の中で上がっているとのこと。
食料工場確保にはオレも参加する。さっさと完了させて、オレも神様とやらに会って、力を認めてもらおう。
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「はぁっはぁっはぁっ…いったいアイツはなんなんけ!?」
「わからん!あんな化け物がおっどんて聞いちょらんど!!」
オレが率いるチームの女性メンバーが泣きそうになりながら叫び返す。
最初に突入したチームは全員があっという間に殺されてしまった。あの恐ろしい人の頭がタコの化け物に。
今回、霧島神宮に派遣されたのは四人一組が5チーム。慎重派の隊長が率いる探索が非常に得意なチームが先行し、神宮の状況を確認する予定だったが、神宮を攻撃していたと思われるアクマ達のリーダーに見つかり、抵抗する間もなく…。
残り4チームは何とか隠れることはできているが、あの強さを見せられ、ほとんどのメンバーが戦意を喪失している。
霧島神宮捜索隊を率いる大隊長に対し、各チームの隊長がどうするのかと怯えた声で指示を要求する。
『クックック、もう来ないのか?ニンゲンども。神域の結界はなかなかやっかいだが、邪魔をするなら先に貴様らからひねり潰しても良いが?
尻尾を巻いて逃げかえるなら今回は見逃してやってもいいぞ?ククク…』
「て、撤退じゃ…私たちの力でどげんかなる相手じゃなか。せめて情報ば持ち帰るぞ。」
大隊長の指示で、俺たちは隣にいる死の恐怖に耐えながら逃げ出すことになった。
霧島神宮が見えなくなり、追っ手もないことを確認し、ようやく緊張が解けた。誰もが悲壮な顔をして肩で息をしている。
誰も何も声を出すこともなく、肩を落として帰路につく。オレ達は気付いていなかった、この時、空からオレ達を追跡している目があることに。
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逃げ帰ったオレ達を迎えたリーダー会の面々はそれぞれ神妙な面持ちだった。どうやら霧島神宮が攻撃を受けており、そこに鎮守する神を救って欲しいと、大学を囲む神社に降臨した神に依頼されたというのだ。
大隊長が、タコ頭の化け物に一チームが全員殺され、自分たちも全く勝機がないことから撤退してきたことを伝える。
そんな俺たちに更なる恐ろしい話が聞かされる。
日枝神社に降臨した神の名前は【オオナムチノミコト】と名乗ったそうだ。その神が言うには、霧島神宮を守る神は【ニニギノミコト】で、オオナムチからすると遠い親戚らしく、ニニギに頼まれて、自分に所縁がある神社に降り立ち人間に依頼している。
タコ頭はクトゥルヒという存在で、とんでもなく昔から世界中の神々の敵で、一度大きな戦いで封印された存在らしい。
なぜ現世に復活したかは不明だが、霧島神宮を襲うクトゥルヒを倒すための方法として、オオナムチを自分の身体に降ろし、神身一体となって戦うのだという。
だが、神身一体は降ろす側の人間の負担が著しく、戦いが終わった後に無事でいられるかは分からない。
その話を聞いて、誰も手をあげる者はいなかった。
オレは心の中で、今こそ英雄になる時だ!と必死に決意しようとした。だが、震えた体は一向に動く気配がなかった。
しばらくたった後、お茶を運びに来てくれた女性が、「私がやります。」と声を上げた。
誰もが信じられない面持ちで女性を見ていた。その女性は、世界が崩壊したあの日、俺に声を掛けてくれた大学の職員だった。
彼女は戦闘チームではない。主にリーダー会の補佐をしてくれている裏方の人間だ。アクマと戦ったことはほとんどない。
レベリングと称して、小さい子供以外の避難民で少しだけアクマを倒しプラーナを吸収したことがあったが、それ以降、アクマを前にしたことはないはずだ。
「神様がこの体ば使うて戦うてくれっなら戦闘経験は要らんじゃろ?チームのみなさんはまだこれからも必要な人たちじゃっど。もし、この戦いの後に何かあったら、この先、みんなを守ってくれる人がおらんごつなる。私なら、もし何かあっても困らんから…。」
そういって彼女はオオナムチを受け入れた。
ほどなくして、クトゥルヒが避難所に向かってやってきていると報告が入る。俺たちが後を付けられていたと気付いたのはこの時だった。
彼女、いやオオナムチは目に見えるほどのプラーナを発し、クトゥルヒが来る方向に飛んでいった。
オレは慌てて外に出て、停めてあった原付に乗り込み後を追う。別に彼女と何か関係があったわけじゃない。だが、英雄になれなかったオレと、英雄になってしまった彼女、その姿を見ておかなければならないと思った。
エンカウント:Lv1 スライム / Lv4 オンモラキ / Lv13 ツチグモ / Lv?? クトゥルヒ
うっかり本編を進めすぎて別視点が進んでいない罠(東京視点が危険レベルで遅れています)
当話のメイン視点の人についてはそのうち登場予定
当話の会話部分は我が家のCopilotちゃんが方言にしてくれたものなので、全然違ったらすみません。事前にお詫びいたします。
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