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第5話 偵察

 夜が明けて、朝の6時。全館アナウンスが流れ目が覚めた。子供を除く全員が6時に起床し、準備を整えた後、食事の前に本日の方針を決めるそうだ。バリケードに見張りの人を3名(奈良さんの直接の部下)だけ残し、全員に話をするとのこと。


 見張りを除いた67名が3Fの大ホールに集まった。イベントなどで使えるスペースで100人くらいは入れそうな広さがある。


 奈良さんがマイクで話し始めた。


「皆さん、朝食前にお集まりいただきありがとうございます。まず本日はどうするのかを決めてから朝食をとるなど、本日の行動を始めたいと思います。

 一番に決めるべきことは、このままこのモールに避難を続けるか、各自家に帰るかです。


 とは言っても、状況が分からないと判断できないと思います。今わかっていることだけ、簡単に共有します。」


 奈良さんによると

 1.モールの周囲100mほどの範囲には怪物は見当たらない

 昨夜、店員が手分けして確認したらしい

 2.モールの北側と東側は危険である可能性が高い。

 北・東から逃げてきた人によると、人よりも大きな怪物らしきものが人を襲っていたらしい

 3.モールの南側と西側は比較的危険度が低いとみられている。

 スライムがいることが分かっているが、大型の怪物は発見されておらず、南・西からの避難者は俺以外にはいない

 4.電気やガス、水道は問題なく使えるが、電話とネットがつながらない。

 5.今日からフィットネスクラブのシャワールームを交代で利用できるようにする

 6.食料は昨日同様に配給する


 結局、南と西に住んでいる人で、家族が家にいる人は戻ることになった。北や東側に住んでいる人たちは電話やネットが復旧するまで、モールに滞在するらしい。


 俺もマンションが崩れてしまっているし、コッチー以外の家族はもういないのでしばらくモールにいさせてもらうことにした。


 フードコートで朝食をいただいていると、年配の女性が奈良さんに何かを頼んでいる声が聞こえた。娘さんの安否がしれないので、探しに行って欲しいと頼んでいるようだ。奈良さんも今の状況では外の探索に人手を割くこともできないようで、何とかなだめようとしている。しかし、女性は涙を流し懇願し続けている。周囲の人たちも困ったように視線を向けていた。


(俺は…見てくるだけならできるのか?でも…)


 情けなく迷っている俺を見てコッチーが勝手に女性の方に向かって歩き始めた。


「お、おい。コッチー、どこに行くんだよ。おい!」


 コッチーはこちらをチラっと見て、ニャと鳴いた。早くついて来いと言っているようだった。仕方なくコッチーと一緒に奈良さんのところに向かう。


「奈良さん、俺、見てくるだけなら行ってきますよ。」


「えっ!?」


「ほ、本当かい!?行ってきてくれるのかい!?」


「はい、でも怪物とは戦えないので、駄目そうならすぐ逃げてきますよ。それでも良いなら…」


 女性はありがとう、ありがとうと繰り返しながら俺の手を握ってきた。その手はとても冷たく、不安でいっぱいだったことが感じられた。


 その後、女性の家の住所やスマホに残っていた娘さんの写真を見せてもらい。鍵を貸してもらった。


「本当に行くのか?北側は危険である可能性が高いぞ。」


「スポーツショップからバットをもらっていってもいいですか?あと動くのに支障がないレベルのプロテクターみたいなものとか。」


「それは構わないが…」


「実は何とかなる心当たりがあるんです。コッチーが一緒にいれば危険はかなり避けられるはずなんです。昨日、ここに逃げてきた時もコッチーのおかげでたどり着けましたから。」


「そうか、わかった。だが無理は絶対にしてはいけないよ。子供に無理をさせたとあっては大人としては責任問題だ。自分の身の安全が第一で、戻ってくることが一番の目標だからね。」


「はい、もちろんです。でも、もし助けられる人がいるなら助けたい。俺は全部失ってしまったから…。…ぐえっ!」


 ガッと奈良さんに締め上げられた。いや、抱きしめてくれたのか。胸板が厚すぎて締め付けようとしてきたのかと一瞬驚いた。変な声が出てしまった。


 苦しさが伝わったのか、奈良さんが俺を解放してくれた。すまんすまんと頭をかいている。足元ではコッチーが奈良さんのふくらはぎあたりにネコパンチを繰り出していた。


「あはは、コッチーもう良いよ。俺は大丈夫。奈良さんは心配してくれただけだから。」


 コッチーを抱き上げて、もう一度奈良さんを見る。


「大丈夫です。必ず戻ってきます。様子を見てくるだけですから。もし娘さんに会えたら、連れてきますね。」


「ああ、これ以上は何も言わん。行ってこい!」


 ◆━━━━━━━━━━━━━━━━━◆


「ああは言ったものの、怪物とはできるだけ戦いたくないね。コッチー、万一の時は頼むよ。」


 ニャ!とコッチーが鳴く。任せろよと言っているようだ。まったく頼りになる相棒だ。


 コッチーと一緒に北に向かい道路を進む。昨日はたくさんいたスライムも特に見当たらない。巨大な怪物というのもいないし、化け物自体がいなくなったのだろうか。


 そんなことを考えながら進んでいると、ふと違和感に気付いた。


「怪物もいないけど、人もいない…スズメやカラスなんかの鳥もいない?」


 ゾッとした。なんで人がいない?地震があった後だとしても、外にいる人がいないなんてことはあるのか?仕事人間という人種が少なくなっていると、父さんがよく言っているが、誰も仕事に行かないなんてことがあるのだろうか。いまだに勤勉で知られる日本人だ。地震があったって、余震もない今の状況で、会社にとりあえず行ってみるという人だっているはず。それか、誰一人として人がいないなんてことは…。


 高鳴る心臓を抑えながら、何とか頼まれたお母さんの家にたどり着くことができた。チャイムを鳴らし、少し待つ。全く反応がない。


(声を出すのは怖いな。怪物がいないとは限らないし、声にひかれてやってくるかもしれない。鍵は…かかっているか。帰ってきていないのだろうか?どこかに避難しているのかもしれないし…)


 玄関で待っていても仕方がないので、預かったカギで玄関のドアを開ける。そっと家の中に入る。するとコッチーがリビングの方の向いて警戒しているのに気付いた。誰かいるのだろうか?


 何か、グチャグチャという音がする気がする…


 そして、廊下を進みリビングをそっと覗くと…


 あれは、何だ…。

エンカウント:Lv3 餓鬼


ようやく1話につながるところまで来ました。時系列は2→3→4→5→1→6話となっています。

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