第45話 八岐大蛇
熱田神宮は名古屋屈指のパワースポットらしいですね。
本宮の中には4~50人ほどの人が避難生活を送っているようで、屋外にもいくつものテントが張ってあった。
リーダーは宮司の千秋さんが務めているという。なんて言うか少し神様に雰囲気が似ている方だった。
俺たちはお互いに挨拶をし、俺たちが東京の武蔵野市からスタートし、食料や紙製品の工場をつないできたこと、兵庫県の塩の産地を目指し、そこで鹿児島や島根から進んできている人たちと合流を考えていることを伝える。
いま、熱田神宮に避難している人たちは、世界崩壊の時から3日間くらいは、俺たちと同じようにアクマに注意しながら周辺の探索や生活に必要なものを集めたりして、神宮を中心とした範囲で避難生活をしていたらしい。
そのあと、インターネットの復旧と同じくらいのタイミングであの黒い結界の中に閉じ込められた。
外へ出ることもできず、連絡も取れない中、それでも何とか生活をしていたが、今から2日前くらいからナーガ達が現れ、人を襲い始めた。
神宮には何か守る力があったらしく、ナーガは入ってこれなかったため、生き残った人たちは全員神宮に避難したらしい。
だが、ナーガの数はどんどん増え、1体、また1体と侵入する個体が現れ始めた。
もう駄目かと思った時に、一人の大学生が本宮の奥に保管されていた天叢雲剣を持ち出して、ナーガと戦い始めた。
大学生は一体のナーガを切りつけた後、数体のナーガに囲まれ体を槍で貫かれたが、その瞬間に天から光の柱が降ってきて、古代の戦士のような姿になってナーガをことごとく倒していく。
ナーガを倒し切った後、剣を地面に刺し結界を張り夜は休む、朝起きてナーガを倒す、の繰り返しだったらしい。
『我は天叢雲剣に残されていた日本武の魂のかけらだ。勇敢な青年の魂に呼応して一時的に顕現している。だがいつまでも持たないと思っていたところに、そなたらが現れた。正直助かったよ。ありがとう。』
ヤマトタケルは大昔に天叢雲剣を振るって戦った戦士で、いろんな地方の民族を武力で従えていった豪傑だった。後で聞いたけど、実は天皇家の祖先の血筋だったらしい。
血なまぐさい話も多いようで、あまり多くは語らなかったが、英雄神と呼ばれて祭り上げられるのは好きでないとのことだったので、様はあえて付けずタケルさんと呼ぶことにした。
「タケルさんは敵がオロチとか言ってましたが、心当たりがあるんですか?」
『ああ、あれらは俺と違って本当の神である素戔嗚尊が葬った八岐大蛇の首の一本だろう。天叢雲剣は八岐大蛇の尻尾の骨を使って打った神剣なのだ。自分の尻尾を勝手に使われていることが許せないのか、剣に対して強い怨念を感じるよ。』
「ヤマタノオロチって死んでいるんじゃないんですか?」
『もちろん素戔嗚尊が葬った。だが、俺が生きた時代にはここより北西の方角、青年の記憶によると島根県か、そこに八岐大蛇の骨が保管されていた。そのうちの一本が神の結界を抜けて恨みを晴らしに来たのか、吸収して力を取り戻そうとしているのか、ここを襲ってきているのだろう。』
「ホオリ、神は骨になってもプラーナさえあれば蘇るわよ。アッシャーに肉体を残した神も少なからずいたから、ヤマタノオロチとやらもその手合いなんでしょ。まぁ私はそんなマイナーなやつ知らないけどね。」
「タケルさん、千秋さん、俺たちはこの結界を払って名古屋と富士市を安全に移動できるよう繋ぎたいんです。結界を打ち破る方法はご存じでしょうか?」
『俺も顕現したのは2日前だから詳しいことはわからん。だが、八岐大蛇が仕組んだのであれば八つの依り代を使っている可能性が高いはず。そしてそれを守る強い配下の蛇もいるだろう。依り代さえ破壊できれば結界は破れるだろう。』
「そっか、依り代を守っているのは強いアクマなのね。そうだったら私が探知宝珠で強いアクマの反応を調べれば場所はわかるかもしれないわね。千秋はこの辺りの地理に詳しいでしょ。地図を見ながら場所の特定を手伝ってちょうだい。」
「任されましょう。」
レベッカと千秋さんが地図と宝珠の反応を確かめながら、依り代があると考えらえる場所をチェックしていく。
熱田神宮から北に向かって8か所反応があるらしい。
大蛇の結界は北は名古屋城、南は熱田神宮を覆うように発生していて、依り代は中心線に近い場所にあるようだ。
大型ショッピングモールや地下鉄の駅、科学館、そして最後が名古屋城を越えたところにある名城公園駅だ。
名古屋城自体には依り代と思しき場所にいる物より数倍の大きさのプラーナを持つアクマがいるようなので、これが大蛇だろう。
作戦としては、北に向かって順番に依り代を破壊し、すべて破壊して結界を破った後、後詰部隊に神宮の避難民を救助・防衛してもらい、ヤマトタケルと名古屋城で合流し大蛇を倒す。
と言うことで、さっそく作戦開始。
避難民の中に神宮の北に車を置いてきている人がいたため、鍵を借りて移動に使わせてもらうことにした。
ナーガはまだ追加でやってきていなかったため、ショッピングモールまでは簡単に行くことが出来た。
モール内にはナーガが数体徘徊していたが、弱点が分かっていれば怖くはない。炎と衝撃波で蹴散らしつつ、メインストリート中央にある広間に禍禍しいプラーナを感じる。
そこには、自分の尾を咥え円になった蛇に、円の中心に赤黒い宝玉がはめ込まれたオブジェがあり、それを守るようにナーガが2体と、他のナーガより体が一回り大きく、盾と短槍ではなく三又の槍を両手で持ち鎧を着こんだナーガいた。
『余計な虫が入り込んでおるな。我が主に仇なすものよ。ここで喰らってくれる。』
「俺とコッチーででかいのを抑える!レベッカとミコトで横のナーガを速攻で倒してくれ!福島さん、アクマ・デバイスで情報を確認して適時アドバイスください!」
「いっくよーー!」
ニャーー!
「レベッカ様にお任せよ!」
「まかセロリ!デカいのはマハーナーガというでござる!」
俺はコッチーが放った火弾の後に続いて棍を振るいマハーナーガを牽制。ヘイトを受け持つ。
三又槍を何とか捌きつつ、コッチーが火弾を当てやすいよう、相手の動きを制限。何度か直撃弾が入っている。
レベッカは素早い動きで飛び回り、ナーガを翻弄、衝撃波を細かく当て、動きが鈍ったところで大きめの衝撃波を直撃させて倒している。
ミコトはバレットでけん制しつつ、何とか間合いを詰めようとしているが、神宮で遭遇したナーガより強い個体なのか、なかなか近づけずにいた。
俺たちが相対しているマハーナーガを観察している福島さんから声がかかる。
「ホオリ殿!マハーナーガは炎に耐性があるかもしれぬ!コッチー殿の火弾があまり効果が無いようですぞ!」
マジか…ナーガは炎が特攻だったから炎中心で攻めていたが効果があまりないとは…。ナーガには電撃属性も効果が薄かったから当然こいつも効かないと考えていい。コッチーとの相性が悪すぎる!
コッチーもそのことに気付いたのか、フー!とかなり怒り気味の声を出している。
幾度か棍でハマーナーガの槍を払っていたら、体をひねって太い尻尾で薙ぎ払ってきた。
俺とコッチーは転がるようにして避け、距離を取る。体を起こすと、槍を前に突き出し集中したマハーナーガの姿が。
何か来る!とっさにそう感じた俺は盾を前に構えて防御態勢を取った。その瞬間、コッチーの全力のイカヅチに匹敵する太さの電撃が飛んできた。
だが、コッチーも負けじと極太のイカヅチを放ち相殺しようとする。
目の前が真っ白になるほどのスパークが発生し、俺のところには細い幾筋かの電撃がパラパラと降り注いだ。
盾のおかげでほとんどダメージはなかったが、直撃していたら盾の防御だけでは防げず、大けがをしていたかもしれない。
流石のマハーナーガも相殺されるとは思っていなかったようで、大きな力を使った反動か、動きが鈍くなっている。
俺はこのチャンスを逃さず、両手を地面につけて、ハマーナーガの動きを封じるように土槍で攻撃。何本かの土槍がマハーナーガの太い蛇の下半身に突き刺さる。
痛みで叫び声をあげるマハーナーガ。その周りにこぶし大の緑がかった風弾が現れたかと思うと、全方位からマハーナーガに風弾が襲い掛かり、更なるダメージを与える。
衝撃が収まったところで、大きく飛び上がったミコトがスパイクのついた拳でハマーナーガの脳天をぶん殴った。
殴られた勢いで頭から床に打ち付けられ、マハーナーガは青白い光になって霧散していった。
「レベッカ!ミコト!ナイス追撃!助かったよ!」
「へっへーん!」胸を張ってブイサインと笑顔をこちらに向けるミコト。
「調子に乗らないの。」とミコトをたしなめているレベッカ。
全力のイカヅチを放って疲れたのか、コッチーは俺の体に登ってきて腕の中におさまった。
「これって破壊すればいいのかな?」
宝玉と蛇の依り代を見てレベッカに尋ねる。
「そうね、破壊してOKよ。バーンとやっちゃいなさい。」
俺は棍にプラーナを込めて依り代に振り下ろした。バキーンと音を立てて依り代は割れて、床に落ち、さらさらと砂のようになって消えていった。
「不思議だね、何も残らないんだぁ。」
ミコトが不思議そうにつぶやくと、怨念を込めたプラーナで作られているから、破壊されると霧散するものだとレベッカが教えてくれた。
エンカウント:Lv27 ナーガ / Lv35 マハーナーガ
マハーナーガは本作品のオリジナル悪魔です。ナーガは兵隊と言うイメージがあるので、隊長クラスがいても良いかなと。
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