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第3話 イカヅチ

「くそっ!何なんだコイツらは!?」


 遠目には目的地が見えているというのに、スライムと遭遇する回数が増えてきた。回り道をするとかなり遠回りになってしまう。一刻も早くコッチーを獣医にみせたい。コッチーのぬくもりだけが俺を正気でいさせてくれる気がした。


 幸いスライムは移動速度がそれほど早くなかった。どうしてもかわせない時だけ、必死に踏みつけて、スライムを青白い光に変える。


(もうすぐ、もうすぐだ。何としてでも入口に潜り込むんだ!)


 気持ちだけが焦っていく。そして…


「あっ!!」


 突然、足がとられた。肩から道路に倒れこむ。コッチーを手放してしまった。


「くそっ!何が…」


 スライムだ。足元に薄く伸びて隠れていたのか、突然現れたスライムがつかむように足首を覆っている。


「こ、このっ!」


 慌てて、もう一方の足でスライムを蹴ろうとした。だがそれは叶わなかった。もう一匹のスライムが頭に覆いかぶさってきたのだ。


 目の前が急に覆われ、息ができなくなりパニックになる。手でがむしゃらにスライムをはがそうとするが、スライムは伸びるだけ。


(だめだ…もう…父さん…母さん…姉さん……コッチー……)


 あきらめそうになった瞬間、ふさがれているはずの視界が真っ白に光った。そして、急に視界が晴れた。訳が分からなかったが、無意識に足に張り付いているスライムを、もう一方の足で蹴りはがした。


 その後すぐに、バチィッと音が鳴ったと思うと青白い光の線が飛び、スライムを焦がした。スライムは青白い光を舞わせながら消えていった。


 光の線が飛び出したほうを見ると、そこにはスライムを威嚇するかのような態勢のコッチーがいた。


「コ、コッチー?」


 スライムが消え、気を緩めたのか、逆立っていた背中の毛をフニャっと戻したコッチーがこちらに駆け寄ってくる。そして、倒れたままの俺の顔にほおずりしてくれる。


 俺を気遣ってくれているのか、スライムのにおいを上書きするためのマーキングなのか、いずれにせよ俺もほっと息を吐くことができた。


「コッチー、電撃みたいなもの、出してなかった?」


 コッチーを抱き上げ、話しかける。


 ムフンと得意げな顔をしたコッチーが、ニャ と鳴いた。


「マジかよ…。いや、今はナイン&Jモールに急ごう。」


 幸いにもスライムに取りつかれた足首や顔は特にケガはなかった。ただ、ズボンの足首付近は溶かされたようにボロボロしていた。あまり強い溶解液ではないが、スライムに取りつかれるとイメージ通り溶かされるようだ。コッチーがすぐに助けてくれたから火傷せずに済んだのだろう。


「コッチー、ありがとな」


 何となく誇らしげな気持ちでコッチーにお礼を言った。


 ようやく、ナイン&Jモールに到着する。しかし、入口にタンスや食器棚などの大型家具がいくつも積んであり、バリケードのようになっている。


「何だこれは。バリケード?スライムが入ってこないようにしているのか?

 …

 すみませーん!誰かいますかー!?中に入れて欲しいのですがー!

 おーーーーい!誰かーーーー!」


 ズリズリズリ、と家具を動かす音がする。


「大きな声を出すな!あの化け物たちが集まってくるかもしれないだろ!こっちから早く入れ!」


 男の人の声がした方へ移動し、急いで開けてくれた隙間からバリケードを抜ける。


「す、すみません。ありがとうございます。」


「あんた一人か?ん?子供か?猫?……とりあえず中央広場に行って受付をしろ。」


「あ、はい。わ、わかりました。」


 何だかよくわからない状況だが、言われたとおりにしよう。何が起きているのか少しはわかるかもしれない。


 自動ドアを通り、中央の通路を通る。ほとんど人がいない。金曜日の夜であればもっとお客さんがいてもいいような気がするが、地震があったからどこかに集まっているのだろうか。


 中央広場にはテーブルが置かれており、何人かの人が集まっていた。店員のユニフォームを着ている人もいるようだし、あれが受付なのだろう。女性が1人、対応をしている。他に2人の女性がおり、紙を見ながらパソコンに入力をしていた。


「すみません、ここに来るように入口で言われたのですが…」


「あ、避難してきた方ですか?お怪我などされていませんか?」

 パソコンに入力をしていた女性が1人対応してくれる。


「一応、大丈夫です。」


「では、まずこちらの用紙に名前と住所を書いていただけますか?避難している人をリストにして、すぐに確認できるようにしているんです。」


「猫って書いた方がいいですか?」


「ネ…コ…、あ、はい、念のため名前を書いてかっこして猫と書いておいてください。」


 受付のお姉さんの目がキラキラしているような気がする。コッチーのことをらんらんと凝視していた。ハッと気づいたお姉さんに、パイプ椅子に座るよう促され、鉛筆と用紙を渡される。用紙にはたくさんの人の名前が書かれていた。自分の名前と住所、コッチーの名前を記入し、用紙をお姉さんに返す。


「あの、イシカワ ペットクリニックって開いていますかね?この猫がケガなどしていないか診て欲しいのですが…」


「あー、先生はいらっしゃるのですが、緊急時なので人も含めた病院みたいになってもらっています。クリニックがあった場所でケガをされた人の治療をしてくれていますよ。」


「ありがとうございます。行ってみます。」


「あ、晩御飯はおすみでしたか?夕食をとられていない方向けに炊き出しをしています。フードコートに行けば食べられますので、お腹がすいていたらお寄りくださいね。キャットフードも運んであるので、猫ちゃんもご飯が食べられますよ。」


「す、すごいですね。ありがとうございます。コッチーを見てもらったら食べに行ってみます。」


「はい、ぜひそうしてください。お食事が終わったら、もう一度こちらに来ていただけますか?モール内に宿泊スペースを作ろうと、男性の方中心に働いてもらっているんです。できればお手伝いをお願いします。」


「わかりました。終わったらもう一度ここに戻ってきます。」

エンカウント:Lv1 スライム / Lv1 ネコ好きのお姉さん / Lv1 ムキムキマッチョ

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