第28話 神の戯れ(物理)
(物理)と言いたいだけの回
さて、コッチーとレベッカに気合を入れてもらったことだし、修練の集大成として全力で戦おう。
オオヤマツミ様は一言で言うと4mの巨人だ。七福神が来ているような服を着ているが、袖は肩までまくり上げられており、肌は少し岩っぽい感じの部分がある。
動きは速そうではないが、リーチが長いので想像より遠くまで腕は届くし、一歩が大きいのであっという間に距離を詰められる。
飛び道具は使ってこないが、地面を叩きつけただけで、地面を削るので、土つぶてや小石が飛び散ってくる。
プラーナを纏っているため、それだけでダメージはないが、視界は悪くなるし、距離をとらなければならなくなるので、反撃もままならない。
そして、これがかなりキツイのだが、コッチーのイカヅチの通りが悪い。
まぁ土ポ〇〇ンに電気技は効かないっていうのは数十年続く常識なので仕方がない。
レベッカの衝撃波は普通に効いているし、攻撃がそれるように当ててくれたりするので、かなり戦いやすくはなっている。
プラーナを使うのがうまいっていうのは、こういうことを言うんだろう。
俺は、なかなか接近できないものの、なぜか炎の攻撃が効いているようなので、フレイムバレットに火球を混ぜて、火属性ダメージを狙ってみたり、棍でけん制しオオヤマツミ様の動きを制限させたりしている。
だが、相手はその巨大な体通りの耐久力があるらしく、あまり攻撃が効いている感じがしない。
長期戦になれば、攻撃力が高いあちらの方が有利だ。疲れて動きが鈍ったところに一撃いれられたらそれで終わってしまう。
しかしどう攻めるか。三人の中でオオヤマツミ様に一番ダメージを与えられるのは、誰だろう。
コッチーはイカヅチの効きが悪い。俺はフレイムバレットで効果的なダメージを与えられるが、コッチーやレベッカに比べ体が大きく狙われやすい。叩きつけで飛んでくる小石などの被弾数も高くなるため、攻撃頻度が低くなってしまう。
となればレベッカか。レベッカは進化したことで衝撃波の威力が数倍になっているし、プラーナのコントロールも抜群。回避・命中共に高い能力を発揮している。
俺がそう考えていると、コッチーがこちらを見て、ウニャと鳴いた。
まるで「私にいい考えがある」と言わんばかりだ。
そして、コッチーがオオヤマツミ様へ向かって疾走。攻撃を巧みに回避しオオヤマツミ様の体に登っていく。
「ホオリ!ヘイトはコッチーに任せるわよ!私たちは攻撃に集中するわ!」
なるほど!イカヅチの効きが悪く、打撃戦も難しいことはコッチーが一番わかっている。
今回の修練で、コッチーも近接戦闘での回避術を学んだことで俺たちの戦術の幅が広がったのか!
俺はフレイムバレットを放ちつつ、コッチーがオオヤマツミ様の体の上をピョンピョン飛び回って意識を逸らしてくれたタイミングで威力重視の火球を放つ。
レベッカもここぞとばかりに小さな嵐を玉に込めたような攻撃を叩きつけていた。
俺たちの攻撃を嫌がりながらも、コッチーに翻弄され俺たちに意識を向けきれないオオヤマツミ様は焦れたように腕を振り回す。
しかし、大振りで見え見えの行動では俺たちは捕らえられない。
むしろ隙が大きくなり、更なる攻撃にさらされ、さすがに苦しくなってきたようだ。
このまま決める!俺たちの気持ちが重なり、より一層の攻撃がオオヤマツミ様に襲い掛かる。
次の瞬間、オオヤマツミ様が大きく吠え、体中から膨大なプラーナを放出した。
コッチーも爪を立てて耐えようとしていたが、大きく吹き飛ばされた。
だが、さすがは猫、空中でクルクルと回転し、音もなく着地。うーん100点!
そのあとオオヤマツミ様は腕が青白く光を放つほどのプラーナを纏って、両腕を地面に叩きつけた。
その衝撃で発生する衝撃波と石つぶての嵐、俺たちはぐっとそれに耐えようとするが、この嵐は異常に冷たい。
あの青白い光は冷気だったようだ。衝撃が過ぎ去った後、コッチーとレベッカは大きく吹く飛ばされ、体の一部に氷が張り付いている。
何とか耐えきった俺も足が地面に氷漬けにされていて動けない。このままではやられてしまう。
棍に纏わせたプラーナを炎に変え、何とか氷を融かす。レベッカから回復が飛んできた。
何とか足を前に出し、攻撃の反動か動かないオオヤマツミ様に向かって進もうとした時、トウガから声がかかった。
「それまで!」
その声を聴いて、俺は膝をついて息を吐く。神様強すぎだろう。
『がっはっは!この我と引き分けとは、勇まし人の子よ。いや、ホオリ、コッチー、レベッカ殿、実に見事であった!』
引き分け…?どう考えても追撃されていたら負けていたんだが?
「納得のいかない顔をしておるな。オオヤマツミ様がおっしゃった通り、引き分けだぞ。オオヤマツミ様は奥の手を1枚切ってプラーナがほぼなくなっておったし、あのまま続けていたらホオリ達が勝っておったやも知れぬ。」
そうなのか、まぁとんでもない攻撃だったし奥の手と言われれば、そうなのかもしれない。
「だが、奥の手を1枚切ったということは、更なる奥の手もあるということだ。反対にお主らは死力を尽くしただろう。そこは大きな差だな。なお、オオヤマツミ様は分霊なので本体ではないからな。」
「つまり、本当のオオヤマツミ様はもっと強いということですか?」
「分霊など使える力はたかが知れておる。特にオオヤマツミ様は山神なので、本体がここで戦った場合、山の力を使って、我らからすると無尽蔵とも思える力を振るわれるだろう。」
マジかよ…神様ってどんだけ強大な存在なんだ。
『はっはっは!榊鬼よ、そう言ってくれるのはありがたいが、引き分けは引き分けだ。
ホオリよ、そなたには我が力の一旦を授けようぞ!』
オオヤマツミ様から大きな力が流れてくる。
ピコン!
スマホの画面には【プラーナの結晶(土)を手に入れました!】という通知が表示されている。
そして、力はスマホだけでなく、俺にも流れてきて何か今までにない感覚がある。
『どうだ、力を増大する術が使えるようになったか?我が最後に使ったのは力を増大させる術と冷気を組み合わせた技だが、その一端だ。』
確かに、力を増大させるプラーナの使い方が分かった気がする。プラーナを直接的に攻撃に変換する使い方だけでなく、いわゆるバフのような使い方もできるのか。
最後に、俺の左腕に着けていた盾にも変化があった。
今までは、薄い金属板を張り合わせた軽量のバックラーだったが、大きさ自体は変わらないものの、岩が所々に張り付いたような見た目になっていて頑強そうだ。
『その盾は大地の力を少しだけ宿すことになった。使い続けていれば、ホオリのプラーナに呼応して大地の力を引き出すこともできるようになるだろう。いつかは山をも生み出すことが出来るかもしれないな。がっはっは!』
何か凄いことになったらしい。でも力を引き出すことが出来るようになれば、自分だけでなく周りの人を守る壁なんかも出せるようになるのかもしれない。
「オオヤマツミ様、沢山のいただきもの、そして修行をつけていただきありがとうございました。」
俺は深々と頭を下げ、お礼を言う。
『なに、我も楽しませてもらった。その礼だ。儂の社は全国に散らばっておるが、本体に一番近いのは大三島というところにある。今でいう、愛媛県と広島県をつなぐ小島の一つだな。もし近くまで来たなら寄ってくれ。また試合おう。』
「はい!またお会いできるのを楽しみにしています!次はもっと戦えるようになりますよ!」
『がっはっは!楽しみ楽しみ!また会おう!』
そう言って、オオヤマツミ様は消えていった。
エンカウント:Lv?? 山神 オオヤマツミ(分霊)
防具もさらっと強化。主人公のジョブはこの辺から予定していた方向に進んでいきます。
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