第19話 東立川駐屯地
お色気お姉さん登場
女性に貢ぐときは見返りを期待したらいけません
駐屯地まであと30分というところだが、アクマとの遭遇頻度が増えてきた。
特に危険なのが、鬼のような顔が付いた巨大な蜘蛛(アクマ・デバイスによれば土蜘蛛)と骨ような羽をもつ毒針を飛ばす鳥(アクマ・デバイスによれば鴆だ。
土蜘蛛は全長3mはあるため、そもそも力が強いうえ、コッチーのイカヅチがあまり効かない。あげくに、広い範囲に稲妻を落としてくる。
精度・威力ともにコッチーのイカヅチには及ばないが、広範囲にまき散らすため動きを制限され、とどまっていると大きな足で叩き潰そうとしてくる。
糸を出さないことだけが救いかもしれない。
チンは空を飛んでいるためバットでの攻撃が当たりづらく、毒を受けると体の動きが著しく悪くなる。
幸い、レベッカが解毒の術が使えたので、毒を受けてもすぐ回復してくれていた。
また、炎に弱いらしく、威力低めのフレイムバレットでも十分にダメージを与えることが出来、乱れ撃ちすると数体を一度に叩き落したりもできる。
ちなみに、話が通じるアクマにはまだ遭遇していない。
戦いながら確実に進んでいくと、ようやく駐屯地の敷地が見えてきた。周囲にいくつか小学校があったが、特に人がいた形跡はなかった。
駐屯地は全体をぐるっと鉄柵で囲われているが、GlugleMAPによると北西側に入口があるらしい。柵の間から中を覗きながら入口に向かう。
「人が全然いないけど、建物の中に集まっているのかな?」
「ホオリ、油断しない方が良いわよ。」
コッチーもかなりピリピリしているように見える。アクマがいるのか?
入口に近くなるにつれて、雰囲気がおかしいことに気付いた。地面のあちこちに黒いシミがあり、建物が壊れているところがあったり、木が倒れていたりする。
「ホオリ、ヤバイわ。冗談じゃなくて本気で。逃げた方がよさそうよ。」
コッチーも俺の背中に飛び乗ってきて、腕の中に無理やり入ろうとしてくる。震えている?
「な、なにが…」
俺は二人の様子がおかしいので、柵から離れ道路を挟んだところにある家の陰に隠れた。
しばらく様子を見ていると、背丈が2~3mはあるであろう、赤い肌をして頭には太くて短い角を持った人型のアクマがうろうろしているのが見えてきた。
「お、鬼?」
「そうね、オニだわ。1体や2体じゃなさそうよ…」
レベッカが言うように、何体もの鬼が駐屯地内の建物から出てきたり、遠くを歩いていたりする。
「あ、あれは…」
1体の鬼が、何か丸さがあるものを繋げたものを首から下げている。それは、人の頭蓋骨だった…。
「あの様子だと、自衛隊とやらは全滅しているようね…。この国の軍隊だったのよね?」
「あ、ああ。自衛隊は日本を守るための部隊だ…。世界の中でもその強さはアメリカ軍やフランス傭兵部隊に匹敵すると言われているのに…。」
「あのオニ達、よく見てみなさい。体を薄いプラーナで覆っているでしょう。プラーナが使えないニンゲンや武器では攻撃が通らないわ。」
ここで何人の人間が犠牲になったんだ?確かに今まで、住宅にも人はいなかったから沢山の人がアクマ襲われていると思う。
しかし、ここは地獄のような様相だった。地面に広がる黒いシミは人間の血なのだろう。鬼の大群に襲われ、駐屯地にいた人たちは惨殺されてしまったのだろう。
気付くと俺はこぶしを強く握っていた。
「ホオリ、駄目よ。絶対に戦おうとか考えないでよ。今の私たちじゃ絶対にかなわないわ。数が多すぎるし、肉体の強度も今までのアクマとは段違いよ。あのプラーナが見えるでしょ!」
「ぐぐ、でも自衛隊の人たちがあんな無残に…許せるわけがない。」
「だったらもっと強くなって仲間を集めてからよ。今戦いを挑んでも無駄死によ。コッチーまで巻き込む気なの?」
コッチー…くそっ!くそっ!
俺は、無力な自分に強い苛立ちを覚えていた。少しぐらい強くなったって誰も助けられやしない。仇を討つことすらできないなんて…。
もう少し西に行けば、もう一つの駐屯地もあるが、この様子だと同じ事になっていそうだ。
俺たちは失意に打ちひしがれ、次の予定地点に向かうことになった。次は二時間ほどかけて都立大の日野キャンパスに向かう。
高校や小学校、病院などが近くに密集する地域なので、避難者が集まっている可能性が高い。不安と希望を胸に秘め、俺たちは歩き始めた。
駐屯地から少し離れると、また土蜘蛛やチンが姿を見せ始める。土蜘蛛は体が大きいため、少し遠くからでも発見でき、戦闘を少なからず回避できたが、チンは空を飛んでいるため、なかなか見つからずに進むことは難しかった。
チンとの戦闘に時間をかけると土蜘蛛が来る可能性があるので、フレイムバレット多めで速攻をかけるようにする。
できるだけ移動を重視したためか、少しだけ早く多摩川まで来ることが出来た。
「川って言うとピアレイがまた出るかな?」
「もっと厄介なやつがお出ましよ。」
レベッカの視線の先を見ると、女性が川を泳いでいるのが見えた。もうすぐ4月とは言え、川の水はまだ冷たいはず。それにこの状況で川を泳いでいるなんて、明らかにおかしい。
とは言え、どうしても気になった俺は、橋をそれて川辺の方に降りて行った。
女性がどんどん近づいてくる。よく見ると足ではない何かが…フィンでも付けているのか。
バレットの射程に入ったとき、下半身がしっかり見えた。
「下半身が魚!?」
「マーメイドね。アイツの歌声には眠りの効果があるから、歌い始めたらすぐ止めるのよ。」
コッチーがフーッと威嚇交じりの返事をする。コッチー、何か怒ってる?
「あの!すみません。話を聞いてもらえませんか?」
俺は意を決して声をかけてみる。マーメイドは少し距離が離れた場所で泳ぐのをやめ、こちらを見つめてきた。
上半身だけ見ると、すごく綺麗な外国のお姉さんという感じなので少し緊張する。
「あら、ニンゲンかと思ったらアクマなのかしら。ボウヤは不思議な感じがするわねぇ。」
おおっ!返事をしてくれた!少し間延びするような話し方だが、やはり人型だと話が通じるのかな?
俺は少し嬉しくなって話を続ける。
「ここらで何をなさっているんですか?」
「そうねぇ。海の方はちょっとムカつく奴らが幅を利かせているから、川を上ってきてみたの。でもあまり川がないのねぇ。行けるところが少なくて困るわぁ。」
「海の方は危険なんですね。何か俺にできることはありますか?」
「あらぁ、お姉さんのために何かしたいのかしらぁ。カワイイ坊やねぇ。
ん~そうねぇ、地上を歩いて散歩するには下半身を変化させなくてはならないのだけれど、少しプラーナが足りないの。分けてくれるかしら?」
プラーナか。アプリで貯蔵しているものを分けられたりするのかな?
俺は、ボケットからスマホを取り出し、アクマ・デバイスを起動。プラーナ貯蔵の欄を開くと、『アクマにプラーナを分け与えますか?』と表示されているので、【Yes】をタップ。
すると10・50・100の選択肢が出たので、100を選ぶ。
スマホからマーメイドに青白い光が伸びていく。
「あらぁ、気前がいいじゃない。でもお姉さん、このくらいじゃ満足できないな。もっと…チョウダイ?」
大人の女性の色気が…
俺は慌ててアプリを操作し、追加で100プラーナをマーメイドに渡す。
「ふふ、いい子ね。お姉さん嬉しくなっちゃったわぁ。お礼にこれをあげるわね。」
マーメイドから水色にきらめくオーブのようなものが、フワフワと飛んできてスマホに吸い込まれる。
画面には『プラーナの結晶(水)』というものが表示されていた。
「あ、ありがとうございます。大切にします!」
手を振りながらマーメイドは上流に向かって泳いでいった。
エンカウント:Lv13 ツチグモ / Lv14 チン / Lv?? オニ / Lv12 マーメイド
自衛隊が正常に機能していると一般人がすることがなくなるため犠牲になってしまいました。申し訳ございません。
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