第142話 終盤戦
『ハァァァァッ!!』
苦戦するカイトとヤチホにミコトが加勢することで、二人の危機は回避された。ヴォルディアの双身刀と触手の猛攻をミコトは拳で打ち払い、躱し、隙を縫って拳を突きいれる。
余裕が出来たヤチホはヒット&アウェイでヴォルディアの思考を逸らす。カイトは重い一撃を放つことでヴォルディアを確実に下がらせる。
水弾で攻撃しようとしても、同じ属性を操れるミコトが全て同等レベルの水弾で相殺してしまう。だが、本来のヴォルディアの水弾であれば、まだ修行不足なミコトの水弾程度で相殺されるわけがない。3対1と言う不利な状況でプラーナを十分に練りこむ余裕がないからこその結果であった。
『このヴォルディア様がここまで手こずらされるとは!』
そこにデミ=ヒュドラが真っ二つになり消えていく姿が目に入る。切り札として投入したはずのヒュドラは倒され、ダゴンは炎の巨人に足止めされている。小賢しい動きをしている人間たちを一網打尽にするチャンスだと思っていたが、結果的に押されているのは邪神の眷属達であった。
ヴォルディアは決して油断していたわけではない。忠告通りにXitterから情報を得て人間の活動には注意を払っていた。だが、プラーナを使えぬはずの人間がプラーナを使い始め、挙句に短期間でクトゥルヒを倒せるまでに至った。それでもデミ=ニグラスを守らせていた三貴衆が倒されるとは想像もしていなかった。
彼らは正確に問題はあれど、純粋な戦闘力であればヴォルディアの配下の中では最強格であり、倒せるものなどいるはずがなかった。アッシャーにはすでに神の存在はなく、唯一古代神並みの力を持っていた外神は星辰の前にどこかに消えていった。よほど慌てていたのか、眷属のようなものも置いておらず、対抗できる存在などいるはずがなかった。
現に、他の国を攻略しているディープワンは順調に人間をせん滅し、デミ=ニグラスを使いプラーナを邪神復活のために送っている。
ヴォルディアが攻め切れずにいるうちに、デミ=ヒュドラを倒した人間と妖精、猫のアクマがこちらにやってくる。
『残りはお前だけだ、ヴォルディア。覚悟してもらう。』
瞳を金に光らせ、頬を走る線からは緑の光が漏れている。ホオリがヴォルディアに向かって棍を向け、そう言った。
ホオリがヴォルディアに向けて駆け出した瞬間、ヴォルディアの体がプラーナの鎖で拘束される。
「私たちも忘れてもらっちゃ困るわね。」
ヴォルディアが鎖を引きちぎる前にホオリの棍での連続突きがヴォルディアに突き刺さる。触手が3本千切れ飛び、ヴォルディア自身も吹き飛ばされる。飛ばされる方向で待っていたミコトが回し蹴りでヴォルディアを空に打ち上げた。そこに待っていたのはコッチーの最大出力のイカヅチだった。空から落ちてくる巨大なイカヅチに打たれ地面に叩きつけられるヴォルディア。クレーター上に十数センチ陥没した地面は高熱による結晶化で割れたガラスのようになっていた。
「い、今のうちに人質を避難させましょう!」
レンが都庁に残されたカイトとヤチホのチームと人質たちを先導し、本部に向けて後退する。クトゥルヒや他のアクマ達もかなり数を減らしており、戦局は決したかに見えた。
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~~Side ムスペル隊長
南に見える大きな建物付近で戦っていた大きな敵のプラーナが一つ消えた。相対するデミ=ダゴンもそれを感じ取ったか、若干の動揺が見える。こちらも体中に傷を付けられ体力・プラーナともにかなり削られているが、相手も8本の足のうち半分は焼ききれ、体中に焦げた跡が残っている。状況としては五分、いや、こちらには戦士たちがいることを考えれば、圧倒的に有利と言える。
だが隊長は戦士の誇りにかけて1対1でデミ=ダゴンを倒すと決めていた。大勢でタコ殴りにするなど、戦士の矜持が許さなかった。それにこれほどの強敵と戦える機会など、そう簡単には巡ってこない。この島に渡ってきて、アクマ達が跋扈している状況ではあったが、ムスペルの戦士を満足させるほどの強敵はいなかった。
『だガ、いつまデモ遊んではいられヌ。』
隊長は残りのプラーナを炎の剣に注ぎ込む。剣を包む炎が赤から青へ、そして白く発光し始める。周囲もその剣から発せられる熱で燃えるような暑さになっていく。徐々に体から水分が失われていくことに気付いたデミ=ダゴンは慌ててプラーナを変換させて水弾を作り隊長へ飛ばすも、隊長の体に届く前に蒸発してしまう。
隊長が剣を天に掲げると、周囲を包む炎のサークルから炎の鎖が飛び出しデミ=ダゴンを拘束。隊長は大きく飛び上がり、落下の勢いと共に大上段から炎の剣をデミ=ダゴンに叩きつけた。
炎のサークルが消え、隊長とデミ=ダゴンの姿が見えるようになると、そこには柄だけになった剣を持つ隊長と体を縦に分断され炎の柱となったデミ=ダゴンの姿があった。しばらくして炎の柱は消え、地面に黒いシミだけが残った。
『おおおおお!隊長ガ怪物を倒シタぞーーーー!』
ムスペルの兵士たちは隊長の勝利に勝鬨を上げる。そして残った敵を掃討し始める。頼みのデミ=ダゴンも破れ、人間とムスペルに挟まれたクトゥルヒ達は逃げ場もなく倒されていく。
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~~Side 皇居救出部隊
ダテンの加勢を得てクトゥルヒ達を壊滅させた秋田たちは、ダテンにも協力してもらいケガ人の治療を終えたあと半蔵門に戻っていた。途中で北側陽動部隊とも合流。
「あれで全員ですか?」
「はい、皇族の皆様7名と高宮総理、首席秘書官、国会議員3名、フォーリオ在日米国大使。あとは自衛隊と陰陽師の方々ですね。」
「よく生き延びられましたね…」
「どうやら皇居地下のシェルターには食料生産能力もあるようで、10年程生活が可能らしいですよ。」
「都市伝説じゃなかったのですね。そのおかげで国家の中枢がわずかでも残ってくれたわけですか。感謝しなくては。」
秋田たちは本部からの増援も含めて全隊で本部へと帰還。戦場全体で戦闘が終息しつつある中、都庁前で敵の首領がいまだに健在であり、ホオリを含めた主力が戦っていると聞く。
「奈良司令。我々はまだ戦えます。高屋君の援護に行くべきです。」
「秋田君、救出ご苦労だった。気持ちはわかるが無理はするな。」
「いえ、ここが日本にとっての最終決戦でしょう。何か一つでもできることがあるなら残存戦力すべてをもって参戦すべきです。」
「奈良司令、私も同意見です。救助した方々をモールまでお連れするための最低限の戦力以外は戦場へ向かいましょう。」
「柴田知事…分かりました。秋田君、最終任務だ。残存戦力をまとめ、都庁攻略部隊に合流。必ず全員生き延びて勝ってきてくれ!」
秋田は力強く頷き、戦力をまとめるため駆け出した。
分かれていた戦場の描写も、ようやく次回から一つに集約されます。
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