第141話 目覚め、そして断て
目の前が赤い…敵が見える…あの巨大な…憎い…あいつが…父さんも母さんも…姉さんも…コッチーも…ミコトのお母さんも…あの時助けられなかった女性も…憎い…あいつが…全て…必ず…
『ホオリくん!!』
ミコト…ミコト?
ミコト…同い年の高校生なのにXitterで人気のインフルエンサー…
ボディビル…いや、ウィメンズフィジークを目指すトレーニーとしてストイックに肉体を鍛える姿が同世代だけでなく、年下の学生にも人気がある。
その凛々しい姿は男女問わず社会人にまでファンがいる、ある種のアイドルのような存在だった。
Xitterで見るだけだった彼女が一緒に行動するなんて…そして…こんなにも近い距離で過ごすことになるなんて…。
初めて会ったときは秋田さんのチームに居たんだっけ。まさか戦いを挑まれるとはなぁ。まだあの時は負けん気が強かった。まぁずっと鍛えてきて、格闘技までやってた人が、ポっと出の高校生が英雄だなんて言われていたら、そりゃ気に入らないよな。
ミコトと一緒に最初に強敵と戦ったのは、サクヤ様やイワナガヒメ様と出会ったところだった。富士山のふもとでは元は人間だったヘルズバイカーと戦ったっけ。あの時は福島さんの機転のおかげで勝つことが出来たんだよな。ミコトの鋭いケリが決まっていたっけ。
次の強敵は…名古屋でオロチと…八岐大蛇の一本だなんて、伝説の怪物だったな。あの時は英雄として名高いヤマトタケルと一緒に戦った。伝説の武器に宿る英雄だなんて、格好良かった。でもあの時、体を貸してくれた男性は目が覚めただろうか?全国各地で命を懸けて戦っている人がいたんだ。
あの時はミコトがオロチの頭を蹴りで打ち上げたんだった。地面が陥没するほどの踏み込みだったんだけど、人間の力で地面が陥没するなんて漫画の世界のようだったな。最後はタケルさんの大上段斬りで真っ二つだった。
大阪は大変な戦いだったなぁ。敵も味方もたくさんの人が参加した初めての戦いだった。敵を率いていた悪魔達も人間には太刀打ちできないレベルの強さだった。強敵とは沢山戦ってきたつもりだったけど、あそこまで隔絶した強さを持った敵はいなかった。ベリアル、恐ろしいやつだった。レベッカの話だと下級神レベルの強さだったって。
オオヤマツミ様たちに力を借りることになったけど、みんなには心配かけちゃったよなぁ。俺ってあんなに無鉄砲だったっけ?家族には心配かけないように生きてきたつもりだったけど、なぜだかあの時は命も魂も捧げてでも皆を守りたかったんだ。
そう言えば、戦いの後不思議な夢を見たような…夢に出てきた人…女性はミコトだったのかな?いや、もっと大人だったから違うか。なんで今まで忘れてたんだろう。いや、今でもぼんやりとしか思い出せないけれど。大切な人だったってことだけは思い出した。
その後はロカ・プラーナで修行したり、福島さんは名古屋に残ってレンさんが加わったり。福岡では人が天使になるって言う恐ろしい事件があったり。
シーヴァル様とヴェルディ様はもう日本を出ただろうか?探している妹さんが見つかるといいけれど。
『ホオリくん!!』
ミコト…ミコトの声が聞こえる。そうだ、俺達は進化したたった二人の人間なんだよな。俺一人が勝手するわけにはいかないんだ。まぁやっちまったなぁ。
徐々に視界が晴れていく…俺は…倒れているのか?それに何か温かいものが乗っているような…。
目を開けるとミコトの顔が目の前に…そして唇が…
これは…どういう状況だろう?何故だが、モテない男たちからの憎しみの視線や念を感じる気がする。今までは俺がそれを向ける立場だったが…。
『ホオリくん…おかえり。』
「あ、あぁ。俺、またやっちゃったんだな。ありがとうミコト。ただいま。」
そっと体を放し、起き上がるミコト。ミコトの差し伸べてくれた手に引かれ俺も起き上がる。少し離れた北の方で、炎の力と深くて暗い海のような力がぶつかっている。ヴォルディアとはカイトさんとヤチホさんが戦っているのか。少し辛そうだ。そことは反対側ではコッチーとレベッカ、レンが黄金のねじれた力と戦っている。こちらは決定打に欠ける感じか。
不思議と戦場の様子が把握できていた。戦いの喧騒が聞こえるはずなのに、なぜかシンとした静けさも同時に感じる。
「ちょっとコッチーたちを手伝ってくる。ミコトはカイトさん達のフォローをお願い。終わったらすぐに行くからさ。」
『わかったよ。待ってるね。』
ミコトヴォルディア向かって駆けていく。俺は静かにコッチー達のもとに向かう。あぁ棍がない。どこかで落としたままか。うーん、今ならあれが出来そうだな。
俺は静かに集中し、手のひらを広げた状態で手を伸ばす。来る!
ガレキの中から棍が飛び出して俺の手に戻ってきた。なんか怒ってる感じがする。相棒をないがしろにして申し訳ない。これからも頼むよ。
棍が仕方ないなぁと応えた気がした。
さて、あの頭がたくさんある蛇のような奴が相手か。攻撃を無効化しているのか?なるほど厄介な感じだな。頭が3つ吹き飛んでいるのはミコトやコッチーがやったのだろうか。口を開けたときに中から破壊したのかな?でも今の俺ならば。体にプラーナを巡らせる。力が全身を駆け巡っていくようだ。
『ごめん、待たせたね。俺がやるよ。』
「ようやく起きたのね。お姫様のキスで目覚めるなんて恵まれたご身分ねぇ。」
ニャ!ニャ!と少し怒ったような、安心したような声がコッチーから聞こえる。
『コッチーもごめん。』
「ボ、ボクも待ってましたからね!」
レンは何故か少し怒っているような。心配かけすぎたかな?
「あー、ホオリ。せっかく格好つけているところ悪いけど、あいつの表面には攻撃が通じないわよ。」
『大丈夫、大丈夫。あれくらい断てないと師匠に怒られる。』
俺は棍にプラーナを込めて刃を発生させる。無防備に近づいていく俺に腹を立てたのか、デミ=ヒュドラは体を叩きつけるように攻撃してくる。俺はそれを体の軸をずらしながら躱していく。炎のブレスは短く持った棍で払った。
そして射程内。元からそうあるべきであったかのように棍を振り下ろす。俺が振るった刃はデミ=ヒュドラの体皮に弾かれることなく、地面まで斬り裂いて消えた。
『これでいい。』
俺はデミ=ヒュドラに背を向けてコッチー達のところに戻る。後ろでは、体を真っ二つに断たれ、力を失い体を支えられなくなったデミ=ヒュドラがズンッと音を立てて倒れ、地面に黒いシミを残しながら光になって消えていった。
「はー、やるわね。伊達に軍神の弟子じゃないって事ね。」
「ほ、ホオリ君凄すぎです!こ、攻撃が通用しなはずの敵を真っ二つなんて…も、もう何が何やら…」
コッチーは誇らしげにオレの体に登ってきて肩に座った。
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