第15話 クトゥルヒ
ボス戦続き!
(か、躱せない!!)
俺は盾を構えて、できるだけ体が盾に隠れるように小さくし、足を踏ん張る。が、衝撃はやってこなかった。
「ホオリ!ボケッとしていないで攻撃しなさい!!」
レベッカの怒声で目を開ける。コッチーとレベッカがピアレイを全滅させて加勢に来てくれている。
水の柱が俺に届かなかったのは、レベッカが衝撃波を放って水の柱の軌道を変えてくれ、コッチーが速度と手数重視のイカヅチでヴォヴォルを攻撃してくれたのだ。
これで3対1。だが、全員消耗している。一気に勝負を決めなくては!
俺はコッチーのイカヅチを捌くことに精一杯で、こちらに気を配れていないヴォヴォルに向かってバットを振るう。
ヴォヴォルはタコ足でバットを叩き落そうとするが、その動きは読めている。反対にタコ足を叩き落してやった。
更に隙をついて最接近し、手のひらをヴォヴォルの腹にあてる。その手から貫通力重視の高回転フレイムバレットをゼロ距離で放つ。
さすがにこれは効いたらしく、ヴォヴォルが大きく後退し膝をつく。その隙を逃さず、コッチーの特大イカヅチがヴォヴォルを打った。
やったか!
膝をついたまま、立ち上がることが出来ないヴォヴォルは、何かをブツブツ唱え始めた。
「ぎざま“だけは!!」
ヴォヴォルの怒気と一緒に、真っ黒なモヤの塊が俺に飛ぶ。モヤに包まれた瞬間、意識を失うほどの恐怖と間近に迫る「死」を感じた。
ニャーーーーー!「ホオリーー!」コッチーとレベッカの叫びが響く。
『Ia! Ia! Cthulhu fhtagn!』ヴォヴォルは何かを叫び、黒紫のドロドロになって溶け、地面にシミを作った。
『死』が俺の身を包み連れて行こうとしたとき、ニャミニャミ様にもらったお守りが光を放つ。
光は俺の体を温かく包み、『死』は光によって遠ざけられ跡形もなく消え去ったのだった。
光が消えた後、俺は地面に膝をついて、大きく息を吐いた。次の瞬間、コッチーとレベッカが俺に抱き着いてくる。ああ、温かい…。生きていることを強く実感した。
「コッチー、レベッカ、ごめん。心配かけた…。でも、何とか勝てたね。」
辛勝ではあったが、無事勝利することが出来た俺たちは、周囲にもうピアレイがいないことを確認し、ニャミニャミ様へ報告に戻ることにした。
川辺を歩きながらレベッカと話す。ちなみにコッチーは、心配をかけすぎたせいか、俺の腕から降りようとしなかった。ここをキャンプ地とする!とでも言わんばかりだ。俺もこうやって甘えてくれるのは嬉しいから良いんだけどね。
「あの、タコ頭。ヴォヴォルとか名乗ってた。普通に会話が成立したし、あいつも神様なの?」
「ん~、ロカ・プラーナの神かと言われると違うわね。というか神というには弱すぎるわ。今の私たち程度で倒せるレベルですもの。」
「そうなんだ、神様ってやっぱり神様なんだな。
そう言えば、ヴォヴォルが【ディープワン】がどうとか【ヴォルディア】がどうとか言っていたけど、レベッカは何か知ってる?」
「!!
アイツそんなこと言ってたの!?ということはアイツはクトゥルヒか。本格的にヤバそうな感じになってきたわね…」
「くとぅる??なに??どいう言うこと?」
「ニャミニャミのところで話すわ。アレから意見も聞きたいし。ただ一言言えることは、アッシャーとロカ・プラーナが繋がったのは明らかに人為的なものってことよ。ニンゲンでもアクマでもなく、裏で糸を引いているやつがいるってこと。」
「この事態を引き起こしたやつがいる…。分かった、ニャミニャミ様のところに急ごう。」
(そいつのせいで姉さんたちは…。絶対にたどり着いてやる…)
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『よくぞ戻った。勇ましき人の子よ。』
「ニャミニャミ様、無事に戻りました。この川からピアレイと彼らを操っていたものを倒してきました。おそらくもう現れないと思います。
あと、このお守り、ありがとうございました。おかげで命を救われました。」
『そうか、よくやってくれた。我からも感謝を。そして我が守護が役に立ったようで何よりだ。』
「俺たちはこの川を渡って、八幡小学校に行きたいんですが、行っても大丈夫ですか?」
『そうだったな。人の子らの集落に行くのだったな。橋は全て落としてしまった故、新たにここに橋を架けよう。そなたらはいつでも通るが良い。』
「ちょっとアンタに相談があるわ。ピアレイを操っていたのはクトゥルヒだった。この騒動はあの邪神関係よ。何か知っていることはない?」
『クトゥルヒ…そうか、かの邪神とその配下たちか。世界が繋がった日は星辰が整った日だった。それ故、奴らはこのようなことをやってのけられたのだろう。』
「いくら星辰が整ったって、これだけのことは簡単にはできないでしょう?」
『我もロカ・プラーナから渡ってきた故、詳しいことはわからぬ。我自体も本来はこの土地ではなく、人が生まれ落ちた地に近しいところの守護をすべきもの。だが、すでに人の子はおらず、守るべきものが最も多い、この島に急ぎ渡ったのだ。』
「そうなのね。まぁ私だってこの島が管轄じゃないし、そんな奴らが多いのかもね。」
『言えることは、人の子らの神を見つめる力が大きく弱まっていることと、それに伴い、土地を守る神の力も弱まってしまったということだ。彼奴らの封印が弱まるのも自明のことかもしれぬ。』
「プラーナを知覚できないニンゲンの世界じゃ仕方がないか…。ありがと、十分よ。
で、アンタはここに留まるわけ?」
『そうだ。川の周りに住む人の子を守るのが我が役目。この島に多くの人がおり、また土地の力がまだ残る限り役目を全うしなくては。』
「わかったわ。誰かが守っている方が生き延びられる可能性が高まるものね。じゃ、私は行くわ。」
『プラーナの匠たる妖精よ、他の土地に降りたる龍の神に会うことがあれば、よろしく伝えてくれ。
そして人の子よ、今一度、我が守護に力を込めよう。そしていつか、そなたにその時が来たらもう一度我に会いに来るが良い。そなたの力になれるだろう。
そなたらの旅に幸あらんことを。』
ニャミニャミ様から温かな光が降り注ぎ、お守りに光が灯る。俺たちの体も光に包まれ、戦いでついた傷や体の疲れが癒えていった。
ニャミニャミ様に改めてお礼を言い、俺たちは八幡小学校に向かった。
エンカウント:Lv18 クトゥルヒ ヴォヴォル
即死系攻撃は対策必須というお話でした。
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