第136話 現れ、そして現れる
~~Side 皇居救助部隊
「見えました!全員でバレットを斉射します。その後、全員で一転突破で議事堂に入ります!」
「こりゃ、命の捨て所か…」
「いえ、全員で生き残るために行きます!それに、すぐにでも誰かが向かわねば士気が下がって一気に崩壊する!行きますよ!」
「「「「バレット!!」」」」
国会議事堂に群がるアクマやクトゥルヒをバレットの雨が襲う。インボカやディープレギオンには直撃し、数を減らすことに成功するも、クゥトゥルヒ達は事前に攻撃を察知し、首から伸びるタコ足のような触手や障壁でバレットを弾く。だが、その隙をついて秋田たちは特攻し、手にした刀でクゥトゥルヒ数体を斬り付け、間を通り抜け、議事堂入口で防衛する部隊と合流。
「秋田さん!!」
「大隊長が来てくれたぞ!助かった!!」
「まだです!防御の手を緩めないで!」
秋田は一気に盛り上がる陽動部隊を叱咤し、自身は一番近いクトゥルヒに向き合い、攻撃を開始する。数合打ち合い、後ろからのバレットの援護もあり、首を斬り飛ばす。だが、こちらには十数体のクトゥルヒが集まってしまっているようで、戦況はかなり厳しい。
「先ほど、北側陽動隊もこちらに向かっていると連絡がありました。さらに本部からも援軍が来ます。何としてでも生き延びますよ!」
秋田は必死に戦い、声を張り上げ部隊を鼓舞する。だが、ホオリとレベリングをした秋田チームの面々こそクトゥルヒと対等に戦えてはいるものの、他の部隊員たちは複数人であたっても回復が追い付かず徐々に負傷が増えている。インボカやディープレギオンの数は減ってきているが、クトゥルヒは未だにかなりの数が残っていた。
「ぐぁっ!」
また一人、また一人と前線を支えるメンバーが負傷し、議事堂の奥に収容されていく。戦いに参加できなくなった面々を下がらせるために敵の進路を断つ秋田だったが、すでに立っているのは秋田チームの3名だけだった。ジリジリと押し込まれていく秋田たち。1秒が10分に、1時間に感じるような気がした。回復役はプラーナを使い果たし、前衛3人が守る後ろで膝をついて荒い息を吐いている。
秋田はどうやって時間を稼ぐか、それだけを考えていた。北側陽動部隊はもう来てもおかしくない。本隊からの増援も来るはずだ。だが、すでに時間の感覚がないくらい疲弊しきっており、自分たちが来てからどのくらい時間がたったのかさえ分からなくなっていた。
そして無情にも彼らが国会議事堂に到着してから10分程度しか経っていなかった。これまで各地の探索チームから犠牲者が出ることは無かった。十二分に安全マージンを取って行動していたからだ。だがここに来てついに犠牲者が出ると思われた。
秋田の横にいた隊員がクトゥルヒの触手の一撃で吹き飛ばされる。腕を上げるので精一杯だった彼は左腕に装着したバックラーで少なからず防御に成功していたが、攻撃を受け止めるほどの力が残っておらず、盾が砕けながら地面を転がり動かなくなった。回復役から悲痛な叫びが聞こえる。
さらに秋田のプラーナ感知は、敵の後方から明らかに人間のものではないプラーナを多数感知していた。内心絶望に塗りつぶされそうになった時、敵の後方が騒がしくなってきた。
『ワァァァ!!』
多くの叫び声…いや雄たけびのようなものが聞こえる。そして相対していたクトゥルヒ達があわただしく後ろに引いていく。いや、後ろからくる何かと交戦を始めた。
「一体何が…」
「ど、どういうことだ…?」
「はっ!湯沢君は?無事か!?」
秋田は先ほど吹き飛ばされた隊員のもとに重い体を引きずって駆け寄る。回復役の能代がなけなしのプラーナで回復術をかけていた。秋田も一緒になって回復を行う。湯沢から浅い呼吸が聞こえてきた。能代はそれを確認し気を失った。
しばらくすると敵は一掃されたようで、喧騒がおさまっていた。そして議事堂に2mほどは身長があるであろう人型のアクマが入ってきた。
「助かりました。ありがとうございます。」
秋田は恐れもせずにお礼を言う。
『フッ、我らを見て即座に味方だと判断するとは。大したやつだな。遅くなった。我らは吒天。タカヤホオリ達に救われた恩に報いるため加勢に参った。』
それはホオリ達が川崎で出会ったダーカやダーキニーたちだった。
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~~Side 高屋 穂織
「ここは通さないぞ!」
棍で突く、打つ、時に刃を形成して斬る、バレットを放つ、土槍で串刺しにする。縦横無尽の攻撃でインボカやディープレギオンを次々に倒し、他の部隊員では苦戦するはずのクトゥルヒでさえ、数撃で砕け散っていく。恐れを知らぬアクマ達でさえ、襲い掛かるのを躊躇するほどの暴れぶりだった。
ホオリ自身も外からくる敵を都庁の中に入れないことを最重視していたため、下がる敵には深追いせず、余裕のある立ち回りをしている。
敵自体は皇居から都庁へ戻ってきたアクマ達が大隊と交戦していたり、北側に散っていたのだろう敵も集まってきてはいるため、数自体が減っている様子はない。むしろ徐々に増えてきていると言ってよい。
「ミコト…救助はまだか?」
ミコトたちが都庁に突入してからそれなりの時間が過ぎている。彼女たちがやられることは考えにくいが、それでも心配にならないではない。早く仲間の元気な姿が見たいと思うホオリだった。
戦い続けて少し経った頃、急に電波障害の結界が消え、青空が広がった。念のため付けていた通信機から情報が流れ始める。そんな時、上空から強力なプラーナを発する何かが急降下してくることを感じた。
ズズン!!!
大きな音を立ててホオリの近くに何かが着地した。一つはムスペルの王、スルトに匹敵するのではないかと思われるほど強大なもの、もう一つも福岡で戦った天使よりも大きくかなりの強敵であることが分かる。
土埃がおさまり、その姿が見えてくる。
『貴様が英雄だな。よくもここまでやってくれたものだ。だがこれ以上、この国の攻略に時間をかけるわけにはいかん。ここで貴様を殺し邪魔な神々もろとも駆逐してくれるわ!』
邪悪で巨大なプラーナを発するその敵は、クトゥルヒよりも倍近い体躯、恐らく3m近いであろう体を持ち、頭はタコのようで首周りにはタコ足のような触手がうごめき、豪奢な服をまといつつも、ところどころ見える肌は青緑だ。その手には幅50㎝はあろう双身刀が鈍い光を放っていた。
そして、その隣には体高が2mほどある巨大なタコの化け物。その体は同じく青緑だった。
「そうだ、俺が高屋 穂織、英雄ホーリーと呼ばれる者だ!お前がボスか!?」
『我はヴォルディア。神たるクトゥルフ様に使えし最強のディープワン、ヴォルグラシュ様にこの国を任されし者。こやつはデミ=ダゴン、神の大いなる眷属であるダゴン様よりいただいた分御霊だ。雑魚どもを存分に喰らってくれよう。』
「そうか…お前が…お前が全ての…」
ホオリは心の奥底から湧き上がる強い怒りを感じた。ずっと、ずっと探していた。この事態を引き起こした主犯を。家族を、みんなの大切な人たちを、名も知らない多くの人々を殺した張本人を。
『キサマだけはぁぁぁぁぁっ!!』
ホオリは怒りに心を支配され、入口を守ることも忘れヴォルディアに突撃する。目は真っ赤に染まり、頬を縦断する線は緑の光を放っている。突撃してくるホオリを妨害しようとデミ=ダゴンが前に出る。だがホオリはそれを棍の大振りで横殴りにし吹き飛ばす。
『じゃぁまぁだぁぁぁ!!!』
さらにヴォルディアにはちきれんばかりのプラーナを込めた棍を振り下ろす。だが、その長速度で振り下ろされた棍をヴォルディアはあっさりと体を開いて躱して見せる。そして、手に持つ剣ではなく、触手を振るってホオリを弾き飛ばした。
『フン、どれほどのものかと思えば。プラーナは大したものだが動きは知恵のない獣だな。』
『な“んだと!!』
『ここで死ぬがいい。』
エンカウント:Lv65 デミ=ダゴン / Lv76 ディープワン ヴォルディア
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