第132話 進軍
~~Side ダテン
ホオリ達が結界前の仮設拠点に集まっている頃。
『人間たちとの約束の時間だ。いくぞ!』
オー!と気勢を上げダテンの都心攻略部隊が出陣する。彼らは二子玉川付近で多摩川を渡り、渋谷駅を経由して南側から皇居に向かう予定だ。食人鬼だった者たちを仲間に加え、総数で200、戦闘員だけでも130も増えたため、今回の攻略には総数200名で臨む。彼らを救おうとした人間、そして救いの手を差し伸べた御仏に報いるため、彼らは進む。
『旨そうなニンゲン…いるからな。ジュルリ』
『おい!我らはもう人を喰わずに生きていける!気を確かに持て!』
『はっ!つい癖で…すまない。人を喰わなくて良いというのはすがすがしい気持ちなんだが…人間との共同作戦と言うことで、妙な気分なんだ。』
『フフッ、まぁそうだな。まさか御仏に道を授かった我らがアッシャーで人間と共に邪神の手下と戦うとは、よもや想像もしていなかった。』
彼らにとって人間とは死してプラーナ・マルガに還る際に地獄門でヤマ様の裁きを受ける存在だった。愚かな者も多く、地獄で一定期間修行を積まないとマルガに還れない者を見てきた彼らにとって、あれほどまでに他者のために必死になれる者は久しく見ない存在だったのだ。
だが、古代において邪神の眷属を撃退するために憤怒の相となり戦ったカーリー、いやパールバティから生まれた彼らは、今一度邪神の眷属と戦えるというのは狂気で苦しんだ過去を清算するには良い機会になるだろう。彼らの目には必ず成し遂げるという強い意志が宿っていた。
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~~Side 皇居救助部隊
ホオリ達が都庁を包む結界を視認した頃。
「都庁攻略隊は予定通りに侵攻していますね。私たちも急ぎましょう。」
ホオリ達が都庁に向けて進むのとは別の道を使い皇居へ急ぐ秋田大隊。ところどころにインボカという犬型のアクマが出現していたが、各隊の連携で今のところ負傷者無しで進むことが出来ている。
「インボカとかいうアクマは邪神の眷属なのでしょうか?通常のアクマはいなさそうですね。」
「そうですね。結界の中はクトゥルヒ達が完全に制圧しているのかもしれません。と言うことは皇居の周りにも戦力を置いている可能性が高いですね。」
秋田は他の隊員と話しながら、慎重に、しかし迅速に進む。間もなく右手に赤坂御所が見えてくる。ここまでくれば皇居はもうすぐだ。高いビル群に阻まれ、皇居の外苑は見えてこないが、距離的には5㎞ほど。秋田は1部隊を先行させて、高い場所から皇居の様子を確認するように伝える。大隊は上智大学の四谷キャンパスに入った。
しばらく待つと、部隊員が戻ってくる。予想通り、皇居は光り輝く結界に覆われているという報告。そして、周辺には外に出る者がいないか監視するクトゥルヒ達が巡回しているという。どうにかして中に入りたいが、結界があると自分たちも入れないだろうと考える。
「確か、半蔵門には皇居内部から確認できるカメラが設置されているんでしたよね。」
「はい、情報部によると、そのカメラに救出のサインを出すことで内部とコンタクトが取れる可能性が高いと言われています。」
「となると、陽動が必要でしょうか。」
「しかし、クトゥルヒを複数体相手するとなるとかなりの戦力が必要なのでは?」
「少数で引きつけ、大隊の戦力で待ち伏せしたいところですね…」
名古屋で生産された日本刀や防具などが一部支給され、攻略隊の装備はかなり充実している。また、各地でアクマ相手にレベリングを行った面々は確実にレベルアップしており、クトゥルヒと言えど、特別強力な個体でなければ、数の力で何とかできるだろうという予測はある。
「では、基本プラン通りに北は靖国神社、南は国会議事堂で待ち伏せを。足の速い部隊でクトゥルヒを引き付けます。私の部隊は皇居とのコンタクトに挑みます。決して無理はしないでください。最悪徹底も視野に入れます。」
皇居解放部隊は二手に分かれ作戦に臨む。いまだ討伐実績が少ないクトゥルヒを相手取るのは不安が残るが、最低でも皇居に救援が来ていることを伝えたい。待ち伏せ作戦を実行する隊長たちにも決死の覚悟が見えた。
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~~Side ムスペル
ホオリ達が結界前の仮設拠点に集まっている頃。
ムスペルたち炎の巨人たちは50名ほどが隊列を組み荒川を渡っていた。スルト王から部隊を任された隊長は、スルト王と力試しをしていた人間のことを想いだす。
(王を吹き飛ばすほどの力を持つ人間か…アスガルドの臆病共よりよっぽど面白い奴等だった。邪神の眷属共がどの程度の戦力か分からんが、楽しい戦になりそうだ。)
以前、クトゥルヒ達が埼玉に攻めてきた時は、犬型のインボカや、使役されていると思われるピアレイ、ディープレギオンなどが主力の軍勢ではあったが、それなりの戦力だった。だが、アッシャーに顕現しているため弱体化しているスルト王ではあったが、邪神の下級眷属程度では相手にならず、簡単に蹴散らし勝利した。
隊長も最前線で戦い、数体のクトゥルヒを葬った。それ以来、支配圏を確立するためにアクマを狩ることはあったが、大きな戦いは起きていない。強い敵も味方も好きな隊長は不謹慎ながらもホオリ達と共に邪神の眷属と戦えることが楽しみだった。
彼らは北側から東京都庁を攻めるため進んでいく。自身に満ち溢れた顔をのぞかせながら。
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