Extra Story8 都庁封鎖
少し時間がさかのぼります
※ホオリ達がデミ=ニグラスを攻略した直後の話
~~Side ディープワン ヴォルディア
『なにが起こった!?』
『デ、デミ=ニグラスからのプラーナ供給が止まりました!』
『三貴衆は何をやっている!』
『応答がありません!侵入者ありの報告以降、連絡がつかなくなっています!』
東京都庁第一本庁舎45階展望室。そこに日本攻略担当のディープワンであるヴォルディアは座していた。この建物の代表である東京都知事の知事室は7階にあるが、人間より一回り大きいディープワンにとって知事室は狭く、また東京を一望できる展望室の方が直接的に最大の攻略目的である皇居を視認できることから、ヴォルディアはここを居城としている。
突破できない皇居の結界。埼玉に現れたムスペルの脅威。各地に散ったクトゥルヒ達の死亡報告。あげくに邪神復活のために世界各地のプラーナ・マルガから引き出しているデミ=ニグラスからの供給停止。
ヴォルディアはなぜこう上手くいかないのかと頭を抱える。最初は順調だった。ロカ・プラーナとアッシャーを繋ぎ、アクマがあふれ、世界に混乱が広がった。デミ=ニグラスも予定通り芽吹き、プラーナを邪神様に送る仕組みが確立した。人間の軍隊、日本の場合だと自衛隊、へのクトゥルヒによる攻撃の成功。日本人の最高権力者である天皇と総理大臣こそ皇居の結界に阻まれ確保できなかったが、経済的中心たる東京都心は妨害結界で覆っており、外部との連絡は取れなくしている。都心にいた人間たちは全て捕らえ、順次プラーナへと変換して邪神の軍勢を呼び寄せる力としている。
そもそも、ディープワンの長であるヴォルグラシュの作戦では、もっとも脅威になると想定されていたのはアメリカとチャイナである。そのため、その二国に対してはディープワンを複数派遣し最優先で攻略することとなっていた。日本という小さな島国では軍隊規模も小さく国土も狭いため、脅威度はかなり低く判定されていたはずだ。
それが実際はどうだ。古代神は邪神との戦いで、そのほとんどがロカ・プラーナに引きこもっていたはずなのに、次々と日本各地に顕現し人間を助け、時にはクトゥルヒを討伐することすらある。アクマ達が近寄れないようにプラーナを浄化し人間の生存圏を次々に広げていく。あの愉快犯とも言えるニャルラトホテプに言われたXitterとやらを確認したところ、人間の中から英雄などど呼ばれる者まで現れ、活気を帯びてきている。
初動以外でヴォルディアが誇れることなど、皇居から現れた四天王と鬼子母神を撃退したことぐらいだ。このままではディープワン達の中で無能扱いされることが容易に想像できる。ヴォルディアは苛立ちを募らせながら打開策を考える。いまだ自分たちが優勢であることに変わりはないはず。優先順位を誤らず対処すれば、このような小さな国などどうとでもなるはずだと思考を巡らせていた。
『ヴォルディア様!何かが!何かがこの建物を取り囲もうとしています!』
焦る思考の中、さらに部下が新たな状況を叫ぶ。
『何かではわからん!!はっきり言え!!』
苛立ちながら怒声を飛ばす。
『こ、古代神が!い、いや、この建物の下の階からも神の反応が!!』
部下は言葉をすべて発する前に都庁が何かの結界に包まれた。ディープワンやクトゥルヒの軍勢が結界の中に閉じ込められたのだ。
『こ、この結界は何だ!一体だれが!?』
『建物を取り巻く4体、い、いえ、階下の1体を含め計5体の神々から結界を構成するプラーナが発せられています!』
なぜ、都庁に1体の神がいるのだろうか。都庁はすでにヴォルディア達に占拠され、神が入り込む隙などなかったはず。であれば最初からいたのか?そうであれば気付かぬはずがない。全く理解不能な状況に混乱する司令部。展望台の窓からは結界を張る神が見えた。そこにいたのは、ヴァジュラサットヴァ、日本では、金剛薩埵菩薩と呼ばれる仏だった。
『ヴァジュラサットヴァ…五大菩薩か!であれば階下にいるのはヴァジュラパーラだな。おのれ!!
おい!攻撃隊に結界を攻撃させろ!それに階下にいるヴァジュラパーラもだ!』
配下のクトゥルヒが慌てて指令を出す。しばらくして、結界を術で攻撃するクトゥルヒ達の姿が見え始める。あまり攻撃の効果が無いように見えるが、向こうのプラーナも無限ではない、物量で押せば必ず破壊できるはずだとヴォルディアは考えていた。
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~~Side 都庁職員
あの日、大地震が起きる前。あれは午後5時くらいだったはず。勤務時間もあと1時間を切っているなと時計を見て思った時に、怪物たちの襲撃を受けた。あっという間に制圧された都庁。外回りをしている職員以外は全員が捕らえられ、各階の大会議室に閉じ込められた。
そして大地震が起きた。今まで体験したこともない大きな揺れ、都庁はかなり強固な耐震性を持っているはずだが、崩れるのではないかと不安になるほどの揺れだった。だが、不安をよそに建物は全く崩れり、壁にひびが入ったりすることもなく、自身の影響が何もなかったかのようだった。外と連絡が取れない彼らには、あの揺れが物理的な地震ではなく、ロカ・プラーナとつながり、プラーナがアッシャーに満ちたことによって人間たちの精神が大きく揺れたことによるものだとは知る由もなかった。
その後は食事だけは最低限提供されていたが、ろくに風呂にも入れずただただ閉じ込められていた。この会議室に閉じ込められた一人に丸石都知事がいたため、彼を中心にまとまることが出来、職員間での争いなどは起きずにいられた。
だが、他の部屋からは争うような声が消えこたこともある。そんな時はあの怪物たちが数体部屋に入っていき、人々をどこかに連れていく。そして彼らは誰一人帰ってこない。
警察も自衛隊も助けに来る気配がない。一度外を見たときには怪物たちが大挙して皇居の方に向かっていくところが見えた。そして皇居を包む光のドームに阻まれそれ以上は進めなくなっているような様子が遠目にうかがい知れた。
その後、一度だけ妙な現象が起きた。光に包まれた5つの人の形をした何かが、こちらに向かって飛んできた。だが、怪物たちを一回り大きくしたような、更に恐ろしい怪物によって光る人型は打ち倒され散り散りに飛び去って行った。目の良い者が、5つのうち4つの背中にはいくつかの炎をともした輪のようものが見えたと言った。それを聞いた他の者が持国天や多聞天などの四天王ではないかと話をした。だが、仮に仏さまが助けに来たとして、怪物の親玉にやられて散っていったのだから、絶望が増しただけだった。
そうして日々が過ぎていき、誰もが絶望に打ちひしがれ、ほとんど会話もなくなったころ、突然、丸石都知事が光を放ちはじめ、なにやらブツブツと話し始めた。すべては聞き取れなかったが、「わかりました。」「覚悟はできています。」「この命は人々のために使うと決めていました。」など少し不安になるような言葉だったと思う。そして、この部屋に閉じ込められた人たちを光のドームが包み、外では都庁全体をさらに大きな光のドームが包んでいたのだった。
エンカウント:Lv76 ディープワン ヴォルディア
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