第127話 炎の巨人ムスペル
お地蔵様たちのおかげで食人鬼たちは無事に狂気から解放され、慈愛の心を取り戻したようだ。俺達は都心攻略の際に改めて協力を要請しに来ることを伝え、急ぎモールに戻ることにする。共存を訴えていたダーキニーが少しだけ別れがたいような目をしていたが、また会うことが出来ると伝え、川崎を出る。
「結局、俺達の術は無意味だったのかな?」
「そんなことないわ…私たちの浄化でプラーナ酔いは醒めたはずだし、もう一歩のところまで行っていたはずよ。でも何億年も狂気の中にいた彼らを救えるほどでもなかったってことね。クシティガルバも10柱も現れて真言を唱えていたでしょう。それくらい大変だったってことね。」
「す、少し無謀な作戦でしたね…」
「でもでも!お地蔵様が助けてくれて、結果OKだよ!」
レンの言う通り、見込みが甘くて無謀な作戦だったと思う。でも救おうとしたからこその結果だし、最初からせん滅しようと動いていたら双方に大きな犠牲が出ていただろう。
「でもミコト。最後のアレはダメだと思う。俺も覚悟はできているけれど、あのタイミングではないと思ったよ。」
「えへへ、ホオリ君にはバレてたかー。うん、ごめんね。あれは駄目だったね。反省してます!」
『えーなになに?また二人だけの秘密かな?』
姉さんがニャフフと笑う。別にそんな変な話じゃないから、その顔を笑い声をやめてくれ。口に出して言うと更にからかわれるだけだから言わないけどね。
「さ、さぁ皆さん、モールに付きますよ。何とか予定通り明日は埼玉に向かうことが出来そうです。準備などは、ボ、ボクがやっておきますから皆さんは早めに休んでください。奈良さんにも敬意は簡単にDMを送っていますから。」
「あら~、できる秘書って感じね。お言葉に甘えて休ませてもらうわ。さすがに今回は私も疲れたし。進化してなかったらあそこまでの無茶はできなかったわね。」
レンも疲れているだろうに、気遣いが過ぎるなぁ。みんなと休むためにレンと別れた後、そっと戻ってレンを追いかける。明日も何が起きるか分からない大変な交渉になるだろう。レンだって早めに休んで明日に備えてもらわないとね。
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「な、なんというかすみません。結局付き合っていただいてしまって。」
「何言ってるのさ、二人の方が早かったでしょう。レンさんだって俺達のチームなんだから、負担は持ちあわないとね。それに男は女性より働けって言うのが父さんの教えだから。さ!俺達も明日に備えて休もう!」
「はいっ!」
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翌朝、奈良さんを加えた俺達は埼玉に向かう。事前に探索チームがルートを探ってくれており、ムスペルの領域までの間、アクマが出ないことが確認されている。かなりの広範囲を自分たちの領域にしているらしく、ハリティー様やニャミニャミ様などの力が及ぶ範囲とほぼ接するくらいまでムスペルたちの力が及んでいるようだ。
「さて、話が通じる相手かな。」
「どうかしらねぇ。そもそも、なんでこんなところに出てきているのかも不明だし。別に領土的野心がある種族でもないのよ。アスガルドの神々とは仲が悪くて、いつか最終戦争を引き起こすんじゃないかって言われ続けてきたけど、結局は邪神が来たせいですべての神が協力して邪神と戦ったしね。だから最終戦争は起きなかった。」
『アスガルドの神様って日本にはいないの?』
「あれだろ?ハンマー振り回して雷を落とす。だったらアメリカにいるんじゃないの?」
『あぁ、ホオリちゃんが好きだった映画のヒーロー?実際にアメリカにいたわけじゃないでしょうに。』
「へー、ホオリ君ってヒーロー映画が好きだったんだ。私はすっごく強い女の人の映画が好きだったなぁ。とにかくすごいパワーで敵を薙ぎ払っちゃうの。」
「私が若いころは本当にアメリカヒーロー映画が多かったな。君たちが言うヒーローもよく覚えているよ。今では設定をゼロから練り直して、当時の良いところと今にあった内容を両方盛り込んで、再度人気が再燃しているらしいね。」
奈良さんも昔はヒーロー映画を見ていたのか。少し不思議な感じがするな。でも、この正義感の強さは若いころにヒーローに憧れてきたからこそなのかもしれない。少しだけ奈良さんのことが分かった気がした。
「み、皆さん、ここからは歩いていきます。も、もう少しで埼玉県に入りますから。」
『これって荒川…だよね?この向こうが埼玉…なんだか…大きいのが見える気がする…』
姉さん、というかコッチーの目ってそんなに良いんだな。ここからまだ荒川までは結構あるし、その向こうなんて全然見えないのに。猫って動体視力はいいけど、視力自体は人間より全然悪いんじゃなかったっけ?確か視力0.1とかが普通の状態だった気がするな。まぁ普通の猫じゃなくてネコショウっていう上級アクマなんだけど。
「奈良さん、ここからは何が起きるか分かりません。絶対に俺達から離れないようにお願いします。レンさん、奈良さんの護衛は頼むよ。」
さて、ムスペルたちはどこまで話が通じるのか…。俺達はあえて姿が見えるように、プラーナを感じ取れるようにしながら荒川を渡る橋に向かう。向こう岸で巨人たちが動いているのが見えてきた。こちらのことは捕捉しているようだ。
「さすがに緊張するね…体の大きさだけじゃなくてプラーナもダテンさん達より強そう。」
「あれで一般兵なんだから規格外だわ。でも王のプラーナは感じないから、完全体として顕現している訳じゃないかも。それならまだ話し合いもできる可能性が高いわ。」
『いきなり攻撃されるかもしれないから、まだ慎重にね…』
俺とミコトを先頭に、レンと奈良さん、レベッカ、最後尾はコッチーで進む。奈良さんは俺達と違いプラーナを多く吸収しているわけではない。巨人たちの圧力はかなりのものだと思うが、堂々たる立ち振る舞いで歩いている。さすがだな。
橋を渡るころには橋の出口には巨人たちが3人待ち構えている。
「さて、どうなる…」
『ソコデ止まレ!』
巨人から大きな声が聞こえる。少しだけ聞き取りづらい声質だ。警戒はしているが、最初から敵対意思を持っているという感じではなさそうだ。
「突然失礼いたす!私はここから南に集まる人々の長を任されるもの。そちらの王もしくはそれに準ずる方と今後について話し合いたく存ず!案内いただけないか!?」
奈良さんが良く通るいい声で巨人たちに話しかけた。
エンカウント:Lv55 ムスペル
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