第125話 狂気を払え!
「じゃあ、食人鬼を倒しに行こう!」
俺達はダテン達と一緒に公民館を出た。そこにはすでに戦士たちが集まっており、いざ決戦へと向かう気概を見せている。だが、戦士たちの列の後ろから一人のダーキニーが息を切らせて割って入る。
『待ってください!彼らだって私たちと同じ種族。殺し合うなんて間違ってる!』
『やめよ。これはすでに決められたこと。それに奴等に話が通じると思うのか。カーリー様の狂気にさらされ、暴れ喰らうことしかできぬのだ。我らの手で終わらせてやらねば!』
『いいえ!いいえ!私たちだって穏やかな心を持つことが出来たのです!なぜ彼らには出来ないと言うのですか!道はまだ残されているはずです!』
なんだか妙な話になってきたぞ。そりゃもちろん話し合いで解決できるならその方が良いに決まっている。だが、先ほどの戦闘を見る限り、相手は完全に狂気に飲み込まれていた。自らが傷つくことも厭わずに相手を攻撃し続けていたのだ。それとも何か方法があるのだろうか?俺がそんな疑問を持っているとミコトが前に出て、ダーキニーに話しかけた。
「わたしはミコト。何か食人鬼たちを救う方法があるの?あるならわたし達は協力するよ!だってみんなが仲良しの方が絶対にいいから!」
『あ、あなたは…人間…なんて眩しいプラーナ…。いえいえ、そ、それは、方法は分からないけれど、ロカ・プラーナにいるときはあそこまでおかしくなっていなかったわ。アッシャーに来たことで彼らに何か悪い影響があるなら、それを取り払えば…』
「浄化でもしてみる?俺達のプラーナも使ってレベッカが制御したら広範囲の浄化ってできないかな?」
「アンタねぇ…まぁ…うーん…」
「レベッカ!レベッカならできるよ!わたしも協力する!魂を救えるならアクマだって救えるはずだよ!」
食人鬼たちを救って欲しいと訴えたダーキニーは期待を込めた目でレベッカを見る。抗戦を決めたダテンの長も可能性があるのかと疑いながらも何かを期待するような光が目の奥に見えた。レベッカは盛大にため息をついてこう言った。
「試してみるだけよ。浄化ってのは邪を払うものであって、精神を落ち着かせるものじゃないわ。アッシャーのプラーナにあてられておかしくなっているやつらを正気に戻すなんてことは神にだってやったことはないでしょうね。だから上手くいかない可能性の方が高い。これは忘れないでよ。」
『わかった。その時は奴等を滅するのみ。覚悟はできている。』
共存を訴えたダーキニーも異論はないようだ。であれば作戦を変更しないとならないな。当初は俺達が加勢することによって戦力差がひっくり返るため、正面制圧で良いだろうということだった。だが、彼らの狂気を取り払い、ダテンとして新たな道に進ませなければならない。まずは詳しく状況を把握する必要があるだろう。
「そもそも、プラーナ酔いみたいなものがおさまったとして話は通じるの?もともとはダテンの皆さんに対して攻撃的だったんだよね?」
『君たちの浄化でどこまで心が鎮まるかによるが、ある一定程度の効果があれば話ができる程度にはなるのではないかと考えられる。』
長によると、カーリーは元々心優しいパールヴァティという女神であり、邪神の軍勢と戦うために怒りの相を纏ってカーリーになった。そのため、強い攻撃性を有してはいるものの、本質は慈愛なのだそうだ。そこから生まれたダーカたちもその本質を受け継いでおり、何かのきっかけで狂気が払われれば、本質を取り戻せる可能性が高いと考えている。そもそも彼ら自身が偶然とはいえ本質を取り戻したのだから、食人鬼たちも同様であるはずと考えている。
「結界の中で待ってて、そこから浄化を発動したらダメなの?」
『この結界は術を通さぬからな…食人鬼たちに何かの術をかけるのであれば外に出ておらねばならん。』
「と、と言うことは食人鬼の突撃を防がないといけませんね…」
「私たちは後方でプラーナを連結して術を組み立てないといけないわ。アンタたちだけで初撃を防げるのかしら?」
『やるしかあるまい。』
「俺が全員にバフをかけるよ。」
「えっ、そ、そんなことが出来るんですかホオリくん…」
「あれ?できないかな?何となくできる気がするんだよなぁ。まぁやってみるさ。最低でも防御力だけでも上げられれば、ダーカたちの生存率も上がるだろう?」
今までだってチームのみんなにバフはかけていたし、それが100人くらいになったって大差ないような気がするんだよな。
「もはや、マ、MAP兵器ですね…」
と言うことで、ざっくりだが、
・まず俺が全体にバフをかける
仮に三種バフの付与が難しい場合は暴挙力強化だけをかける
・ダーカたちが食人鬼の攻撃を押さえる
ここでは相手を殺してしまわないよう、自分たちが死なないこと、相手を無力化することに注力
・レベッカが俺達のプラーナを使って食人鬼に浄化の術をかける
・狂気がおさまるようであれば説得を試みる
・無理なら戦って制圧する
この時は俺達も参戦
「術はかけてみないと分からないわ。マルガからプラーナを引き出す必要があるから覚悟してね。使うプラーナの量を考えると2度目は無いわよ!」
「「「『了解!!』」」」
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200mほど向こうに食人鬼たちの集団が見える。明らかにこちらより多いな。倍はいないと思うが150体くらいいるんじゃないか。これは早めに術をかけないと前衛が持たないかもしれない。
「レベッカ、数がかなり多いから…」
「分かっているわ。でもやれることに変わりはない。やるだけやりましょう。」
そうだな、やれるだけやるしかない。やらねば結果はついてこないのだから。俺はプラーナを集中してダテンたち全体をとらえる。彼ら一人一人にバフをかけるイメージを持って強化術三種を発動。
「お、やっぱりできるもんじゃん。」
「やったね!ホオリくん!」
『とんでもないプラーナの量と術だな。よし!我らも前に出るぞ!食人鬼どもを押さえる!決して後ろに通すな!!』
ダテンが雄たけびを上げながら食人鬼に向かっていく。向こうは恐ろしい叫び声を上げながらがむしゃらに突撃をしかけてきているようだ。
「行くわよ!みんな手をつないで輪になって!」
レベッカの号令で俺達は手をつなぎ輪になる。レベッカが何やらブツブツと呪文のようなものを唱え始める。すると足元から強大なプラーナが流れてくることを感じる。これがプラーナ・マルガか!のまれれば確実に這い上がれない流れの強さを感じつつ、マルガからのプラーナと俺たち自身のプラーナがレベッカに向かう。
強大なプラーナの奔流が俺達を包む。それを食人鬼たちも感じたのか、前線で俺達への危機感を募らせる意識が向かってくる。狂気に振り回されているはずの彼らの動揺を感じる。そしてレベッカが力強くも心に染み入る不思議な声で術を発動する。
『さ迷えし魂よ。大いなる神に与えられし力は慈愛なり。満たされぬ渇きにとらわれず、真なる眼を開き、母なる神の思いを見定めよ。我、大地の姉妹姫より授かりし、光の道をそなたに示さん。シャウチャ ジャーヌ!!』
清浄なプラーナの波が半円を描き、前方に発せられる。そしてその波はダテンを、そしてその先にいる食人鬼たちを飲み込んでいった。
エンカウント:Lv46~55 食人鬼
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