第119話 ホウ・レン・ソウ
「ただいまー!」
ミコトが元気に奈良さんや宮城さんの元へ駆けていく。もはやモールの人々は家族のような感覚だな。まぁ俺は西に向かって旅をしていたので、あまりモールに長くいたわけではが、それでも帰ってきた、という感覚はある。
「みな無事に帰ってきてくれて良かった。簡単に報告は聞いているが、かなり危険な戦いになったそうだな。大阪とも状況が異なるようだし、プラーナによって引き起こされる現象にはまだまだ我々の想像もできないことが沢山あるようだ。」
「高屋君たちにはもう少し詳しく話を聞きたいっすね。ミコトちゃんはお父さんのところに行くのかな?」
「はい!行っても良いですか?」
「ああ、最低でも月見里が報告してくれればいいから。」
「ホ、ホオリくんも必要です!ボクには分からなかったこともありますから!」
お、おう。レンの勢いが凄いな。まぁシーヴァル様たちのことは言えないけど、進化の話もしておきたいし良いんだけどね。とりあえず、ミコト以外は全員、奈良さんと宮城さんに報告するため、会議室に向かうことにした。
「人間がアクマに変異する条件などは不明か…海外を含め他に同様の事象は見つかっているのか?」
「いえ、高屋君たちが遭遇したケースしか情報は無いっす。ただ、今までの魔人の戦闘力を考えると遭遇して生き延びている人がいない、ということも考えられるっすね。ベースが人間と言うこともあって、世界崩壊から時間がたてばたつほど力を増す可能性もありますし。」
なるほど、宮城さんの言うことも一理ある。最初に出会った大僧正は正直今から考えるとそこまで強くなかった気がする。ヘルズバイカーもあの時は福島さんの機転もあって勝つことが出来たが、例えば他のアクマを倒してプラーナを増幅させていたら、どれほどの強さになっていたかは分からない。福岡の天使たちに勝てたのはシーヴァル様のおかげだ。
「戦った感覚から言うと、魔人に変異したニンゲンには何かしらの強い思い…執念というべきかしら、そういったものがあったと思うわ。大僧正はニンゲンを支配したい、バイカーは理不尽に死ぬことに対する怒り、天使は何かしらね。信じた神が力を与えてくれるはずだといった狂信…みたいな感じよ。」
「人間の妄執は恐ろしいからな…我々の知らぬところで魔人が生まれていてもおかしくない、ということか…。」
「そこは生存圏が広がれば遭遇する可能性が高まるっすね。あとは人間をアクマに作り替えていたとか?」
そうだ、福岡の天使たちは四騎士に作り替えられた人間だった。魔人たちが全員そう言った力があるとは思えないが、人間より明らかにプラーナの使い方が巧みになることを考えると今後も同じことが起きるかも、いや、起きているかもしれないのだ。
「最近思うのだけど、ニンゲンとアクマってあまり変わらないかもしれないわね。もちろんアッシャーに適応した人間は肉体を持っていて、アクマたちは肉の体ではなくプラーナの体という違いはあるわ。でもこの星に魂を持って存在していることは同じと考えると、境界線は思ったより近いのかも。天使のように強制的にプラーナを注ぎ込まれたらアクマに変異することはおかしなことではないかも知れないわ。」
「ホ、ホオリくん…レベッカさんの話を聞くと、お二人に起きていることも…」
ああ、そうか。俺達の進化か。プラーナを大量に蓄えることがアクマに近づいていくことになるとすると、俺達はプラーナを集めすぎたのか?
「奈良さん、宮城さん、お二人に相談があります。もしかしたら天使に変えられた人間とも関係があるかもしれませんし。ただ、俺自身もショッキングなことなので、他の人には言わないで欲しいんです。」
「…わかった。私と宮城君だけにとどめる。リーダー会にも君の了承がない限りは共有しないと誓おう。いいな?宮城君。」
「大丈夫っす。ホーリーには助けてもらってばかりですからね。相談なんて言われたら大人として助けないわけにはいかないっす。」
ありがたいな、本当に。すでに人間としての戦闘力を大幅に超えているというのに、普通に子ども扱いしてくれる。いったんミコトに同じことが起きていることは言わずに、アクマデバイスに表示された進化について奈良さんと宮城さんに話すことにした。
「なんという…うむ、本当にプラーナが引き起こす事象には常識が通用せんな…」
「うーん、ちなみに進化するのに必要なものって何なんすか?アクマ合成でも進化が起きると思うんすけど、他のアクマが必要になるっすよね?」
あ…表示された内容に驚きすぎて確認してなかったな。どれどれ…
アクマデバイスを開き、俺の進化のところを開いていくと、そこに表示されていたのは…
「こ、これは、だから天使を倒した時に…これを見てください。魔人を倒した時に入手していた“人魔結晶”というものを使うみたいです。今持っている7つをすべて使うみたいですね。」
「人間が変化した魔人から得たものを7つっすか…そして進化先は“神魔人”っすか…魔人よりも神に近い感じなんすかね。」
「大人としては、高屋君個人に頼りっきりになっている現状は望ましくはない。君の負担が多きすぎるからね。我々人間は力を合わせることで、個体としては弱い存在であっても、弱肉強食の輪から外れることが出来た。君一人が背負うことは無い。」
「でも、この先、わかっているだけでもムスペルヘイムの巨人とクトゥルヒのボスがいるわよ。ニンゲンだけで何とかできるの?」
「日本でクトゥルヒを討伐できたのは、ホーリーたちと鹿児島で神に身をささげた女性だけっすね。鹿児島の方は…女性は亡くなっているっす。」
「俺達が最初に河川敷で戦ったヴォヴォルというクトゥルヒであれば倒せる人がいると思います。でもデミ=ニグラスで戦った三貴衆は…そしてあいつ等より強いであろうボスは…」
「それはわかっている…高屋君、君がどういう選択をするかは君が決めるしかない。だが、例えば進化しないことによって皇居を救えなかったとしても君のせいではない。それに多くの神々が人間に力を貸してくれているのだ。」
確かに神様がこんなにも助けてくれている。「俺が何とかしないと!」と気負う必要はないのかな。でもそれなら尚更俺にできることをしたいと思う。シーヴァル様の言う通り、「何を成したいか」をしっかり考えよう。
『あまり口出しをしたくなかったが、色々とあるようだな。』
会議室の入口にはハリティー様が立っていた。いつも子供と遊んでいる姿しか見たことがなかったけど、この方も神様なんだよな。
『言っていなかったと思うが、アタシは、いや、アタシ達は皇居を攻撃している邪神の眷属、あのディープワンに負けて逃げてきたんだ。アタシは結界には関わっていないけど、一緒に戦って負けた四天王は結界の重要な部分を担っている神だよ。全員逃げられたから大丈夫だろうけど、万一四天王が全員やられたら結界は持たないよ。』
「奈良さん…都心攻略を早めないとヤバそうっすね…」
「ああ…だが、現有戦力でどうにかなるか?」
「ハリティー、そのディープワンってそんなに強いの?四天王ってのは良く知らないけど、今までこの国を守ってきた神なんでしょう?それがアンタ含めて5人掛かりで勝てないって、とんでもない化け物ってことかしら?」
『強いか弱いかでいえばもちろん強い。だけどアタシらも本来の力を取り戻した状態で戦ったわけじゃないよ。ロカ・プラーナが分離した関係でアッシャーにはそれほど多くのプラーナは無かったんだ。アタシら居残り組の神は本来の力の100分の一も出せやしない。』
「今の私たちで勝てる相手?」
『どうかな。ディープワン単体であれば良いところまで行けそうだけど、クトゥルヒもかなりの数がいるよ。100できくかな。雑魚っぽいのは1,000くらいはいるかもしれない。アクマを強制的に使役しているかもしれないから全体の戦力はわかんないね。』
「通信を阻害している結界を破壊することはできそうかしら?」
『わかんないねぇ。あれは出るのは自由なんだ。アタシは出てこれたから。プラーナと通しいとやらだけを阻害している感じだったから、そこまで高度なものじゃないのは確かさ。』
「出るのは自由なんすか…人間もっすかね?ハリティー様に聞かなったのは失策だったなぁ。だとすると事前調査ができそうっすけど…」
「敵の数が多いと少数での潜入より総力戦の方が良いかもしれんな。」
「リーダー会できめるっすか?」
都心攻略は急いだほうが良いらしい。となればやはり力は強い方が良いか…。その前に埼玉の方も行っておいた方が良いような気がする。
「戦力か…ホオリ、ムスペルヘイムの巨人と話を付けた方が良さそうね。一番いいのはディープワンと戦う時に戦力を借りること。最低でも横やりを入れられないようにしておいた方が良いわ。」
「わかった。次は埼玉に向かおう。奈良さん、問題ないですか?」
「ふむ、ならば交渉する人間が必要だろう。私が行く!」
ナ、ナンダッテー!?
宮城さんの口調ですが、過去にさかのぼって修正するかは検討中です。
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