Extra Story7 いま世界は…
現状の説明回
~~Side リーダー会
「では、本日のリーダー会を始めさせていただきます。本日も司会進行は情報部の宮城が務めさせていただきます。」
今日は全国各地のリーダーがオンラインで集うリーダー会の日。名古屋の技術者が日本製のオンラインミーティングアプリを開発してくれたため、多くの人が同時接続し会議が可能になっている。だが、まだこのアプリはリーダー会限定でしか利用できない。
本日の議題は日本の状況、世界の状況、そして長崎院長から人体に起きている変化についての3つ。特に最後についてはリーダー会と情報部だけの機密情報として扱う必要があると、長崎院長から事前に通達があった。
「ではまず日本の状況から共有いたします。現在、人間の生存圏が確立されているのは…」
・北海道:札幌市、旭川市
・東北:宮城県多賀城市
・関東:東京都武蔵野市、日野市、八王子市
・中部:静岡県富士市、愛知県名古屋市
・関西:大阪市
・近畿:兵庫県赤穂市
・中国:島根県出雲市
・四国:愛媛県大三島
・九州:鹿児島県鹿児島市
「関東北部や中部地方の日本海側、沖縄などにも生存者はいるものと考えられていますが、現在、公式には連絡が取れていません。また、埼玉は炎の巨人、いくつかの情報筋から北欧神話に登場するムスペルヘイムの巨人であると推察されます。彼らが占拠しており、人間の生存は絶望的です。また、埼玉を抜けられないため、埼玉以北との交流が出来ておりません。」
『東京都心、皇居周辺は変わらずですか?』
「はい、皇居を中心とした一体は結界と思われるフィールドが形成されており、内部との連絡が全くつきません。通信を阻害する機能を有していると思われます。あまりにリスクが高いため内部への侵入は行っておりません。」
そう、皇居そして首相官邸とは連絡がつかない。天皇陛下やそのほかの皇族、高宮総理、丸石都知事など日本の中枢とも呼べる人物の安否が不明なのだ。
「ですが、秋田さんがデミ=ニグラス、杉並区西部に出現した巨大な樹木のことですが、そこにいたクトゥルヒから得た情報によると、日本における邪神側のボスはヴォルディアという名であり、皇居を攻撃しているとのことです。皇居には強力な結界があり、ヴォルディアは結界を突破できずにいる。つまり、少なくとも天皇陛下と皇族の方々は無事であると考えられます。」
『それは朗報だな…。だがその結界が突破されれば大変危険なことになるということか…』
柴田府知事の心配はまさにその通りだ。そのため、都心部攻略も考えていかなければならない。だが、名古屋での武具開発も始まったばかり。明らかに時間と戦力が足りていない。各地のリーダーも今すぐにできることがないことは理解しているようだ。
次に物資に関してはそれぞれの地域で食料や消耗品など生活必需品を生産、神の道を使っての流通網が出来ている。東北と北海道はそれぞれが自立して対応している。
『列車、船、航空機などの交通網の復旧はどうでしょうか?』
「現状、燃料・人材・航路すべてにおいて復旧の目途が立っておりません。」
『電力・ガス・上下水道・ネットワークなどのインフラは?』
「ガスはもともと輸入に頼っている状況であり、またガス供給施設が停止しているため利用できません。電力と上下水道は正常に稼働。ネットワークも利用可能ですが、世界中にあるサーバーの状況は不明、いくつもアクセスが出来ないサイトが存在しています。」
『電力などが使える理由はわかりませんか?』
そう、なぜインフラが死んでいないのか、正直明確には分かっていない。というか下手に調査して利用できなくなった場合、生存者たちの生命にかかわる。そのため積極的な調査が出来ていない。
「現時点では詳細な調査は実施しておりません。遠目から発電所や変電所、浄水場、電波塔などを観察する限り、世界崩壊以前と同じように稼働しているようです。もともと自動化がかなり進んでいる施設であることも正常稼働の理由の一つと想定されます。」
『だが、メンテナンスが不要という訳でもないはずだが…』
そう、そこが問題なのだ。電力については核融合炉の開発成功により核物質が不要になり原料をそこまで気にしなくても大丈夫。だがメンテナンスを行わないと何が起きるか分からない。万一を防げない。当然浄水場なども同じだ。
「現在、インフラ施設に対する調査は禁止しております。藪をつついて利用できなくなるリスクを補填できないからです。ですが、遠くない未来に対処が必要だと考えています。」
『貨幣経済は?』
「まだ先になるでしょう。」
『生存圏へのアクマの侵入や邪神の侵略は起きていませんか?』
「はい、生存圏が脅かされる状況は起きておりません。福岡のように未開拓地域がアクマに占拠されているケースは多くあると想定されていますが、侵攻は確認できていません。」
だが、鹿児島からの報告を考えると、アクマ達が自分たちの領域を獲得し、それが広がってくる可能性はゼロではない。戦力はまだまだ必要になるだろう。
「続いて世界の状況です。現在、Xitterで情報が発信されている国は…」
・チャイナ、韓国、台湾、ベトナム、タイ、ミャンマー、インド、スウェーデンのごくごく一部
「ただし、チャイナに関しては完全に無法地帯と化しているようで、強力なプラーナを持つに至った人間が武力で人を支配するような状況にあるようです。もし航空機や船舶などが利用可能になった場合には防衛が必要になる可能性もあります。」
『アメリカ、ヨーロッパは完全に沈黙か…』
「これはまだ推測の域を出ませんが、トラータ教やムイスラー教といった唯一神を祀る宗教圏は軒並み連絡が取れておりません。人の生存が確認できている地域がアジアに集中しているのはそのためではないかという推測が情報部で出ています。」
『神が実在する世界だ…多神教のように神が多い方が守護が高いというのか?』
「分かりません。少なくとも生存者にトラータ教徒がいないのは事実です。ですが、Xitterが使えるということはアメリカのカリフォルニア州にあるサーバーが生きているということです。もしかしたら連絡が取れないだけで、生存者がいる可能性はあります。」
『いずれにせよ、他国のことを気にかけている余裕はないか…』
正直、世界の状況は今はあまり気にしている余裕はないだろう。せめて都心を解放してから、そして船舶などが使えるようになり物理的に繋がれる見込みが立ってからでも良いのではないかと言うのが情報部の見解だ。
では、本日の一番重たい話に入ろう。
「では最後に長崎院長から我々、人間の肉体に起きている事象について共有いただきます。長崎院長お願いします。」
『皆さん、これからお話しすることはリーダー会と情報部のみに共有するものです。他の人々に情報を公開するか否かはこれから時間をかけて協議したいと思います。では、まずこのレントゲンを見てください。』
長崎院長が投影したレントゲン写真。俺は事前に奈良さんと一緒に話を聞いているが、何度見てもどう捉えていいのか、どう反応していいのか分からない。お偉いさんたちの反応はどうだろうか。
『こ、これは…な、何なのですか!?』
リーダー会のメンバーがザワつき始める。ショックを隠し切れない方が多い。そう、そこに映っていたのは…
『これは、プラーナを扱うための器官です。我々の体の中に新たな臓器が生成されているのです。』
そう、肺と肺の間、胸骨に守られるような位置に丸い玉のような器官がはっきりと映っている。他の臓器や管にちょうど影響がないようにきれいに新たな臓器が出来ているのだ。元々そこにあったかのうように。
『この臓器を我々はプラーナ器官と呼んでいます。そのままですな。分かりやすいのが良いのです。そしてこの臓器ですが、体の大小にかかわらず、サイズにはほぼ個人差がありません。また、当病院に避難している人々の全てに発生しています。』
『な、なんと…そんなことが…』
『ヒュギエイア様やレベッカさんの話によると、われわれ人間は誕生してからずっとプラーナを検知できずに生きてきました。ですが、世界崩壊以降、この臓器が発生して後、プラーナを検知し扱うことが出来るようになったと考えられます。』
『つまり我々は進化したということでしょうか?』
『これが進化なのか、適応なのかは分かりません。今鹿児島から戻ってきている高屋君に途中でこちらに寄っていただくようお願いしています。彼の体を調べれば何かわかるかもしれません。例えば、プラーナ器官のサイズが異なっているだとか、何か違いがあるかもしれないですからね。』
だがこの情報は公にすることはできない。自分の身体が変わってしまっていることを知って衝撃を受ける人もいるだろうから。人間はいったいどこに向かっていくのだろうか。
※誤字報告ありがとうございます。修正いたしました。
主人公たちが鹿児島から戻ってくる少し前のお話。宮城さんと奈良さんは一緒にいますが、他の面々はオンラインでつながっています。
ぜひともブックマーク・★評価・いいね・感想をお願いします!励みになりますm(_ _)m




