第116話 崩魔
しばらく世界観の説明会が続きます
翌日、一晩宿を借りた俺達だったが、カイトさんはすぐには目覚めないだろうということで、霧島神宮に向かうことにした。リーダー会への報告は鹿児島のリーダーに任せ、奈良さんへの報告はレンが行ってくれた。鹿児島での手助けはこれで完了となり、俺達の仕事は終わりだ。この後はシーヴァル様たちともう一度話をして、東京に戻る予定。
『うむ、来たか。』
『待っていましたよ。皆さん。お友達は大丈夫でしたか?』
霧島神宮でシーヴァル様達と再会する。すでに霧島神宮を守るニニギノミコト様との情報交換は終わっており、日本にはスクルディ様はいないであろうことが判明したという。そのため、他の国に渡って探す予定とのことだった。
なお、シーヴァル様たちはネパールから“エカム”に入り、インド、タイ、ベトナム、チャイナ、台湾を経て日本に渡ってきたという。それらの国でも人の数は大きく減少しており、アクマから身を守りながら何とか生きていく人たちがいた。だが、チャイナだけはかなりひどい状況で、アクマとの戦いだけではなく、人間同士が物資や生活圏を奪い合い、争っているそうだ。必ずしも大阪や福岡のようにアクマや魔人が先導して争いを起こしているようには見えなかったが、シーヴァル様たちは極力かかわらないようにして、早々にチャイナを脱出してきたため、正確なところは不明だという。
ただ、どこの国でもクトゥルヒの攻撃を受けており、神と人間・クトゥルヒ・アクマで三つ巴になっているそうだ。
「チャイナに関しては、み、宮城さん達が集めた情報と一致します。今はどの国も、た、他国を支援することができないので、し、しばらくは何もできないですね…」
『自分たちが生きるので必死だものね。それに日本からだと外国に渡る手段がないし…』
「そう言えば、シーヴァル様たちはどうやって日本に渡ってきたんですか?」
姉さんの言葉を受けて、ミコトが素直な疑問を発した。
『飛んできた。』
「飛んで!?飛べるんですね…」
『実は私たちって、エカムに転生と言う形でやってきていて、他の神々と違って受肉しているのです。なので、マルガを通じて移動することが出来ず、物理的に飛んだり歩いたり走ったりして移動するしかないのです。』
あー、神様が神社やお寺に突然現れたりしていたのって、プラーナ・マルガに乗って移動していたのか。だから色んなところに瞬時に行けるわけだ。便利だなぁ。
『私たちもプラーナ・マルガを使って移動することはできないんですか?便利そうだなぁと。』
姉さんは俺と同じことを思ったようだ。だが、ヴェルディ様が言うには、“エカム”で物質的な肉体を持っていると、それはできないらしい。どうやら肉体がマルガに乗ると魂と切り離されて元に戻れなくなってしまう。どうしても肉体を持つと様々な面で限界があるのだそうだ。
『女神が封印されていそうな場所に心当たりはないか?』
「うーん、神様の存在自体を最近になって認識したので、その前に封印されてしまったスクルディ様のことは分からないです。でも邪神やクトゥルヒではなく、外神に封印されてしまったと考えられているんですよね?」
『はい、連絡が取れなくなったタイミングを考えると、邪神の手のものではなく、外神“マーセマエル”によるものと考えています。』
「そ、その“マーセマエル”がトラータ教と関わりがあるのであれば、トラータ教の総本山があるヴァティカンか、トラータ教徒が最も多く、だ、大統領も教徒であるアメリカでしょうか…」
『トラータ教と言いいますのは、皆さんが戦っていらした翼をもつ擬似神たちがいる宗教団体ですね…レンさんの仰るとおり、どちらかの可能性が高そうですね。』
「た、ただ、トラータ教というのは、全世界に教徒がいる世界最大の宗教なんです。世界人口の6割以上が教徒といわれるくらい多くて…、ア、アフリカやブラジルのように、植民地支配を受けていた歴史がある、く、国はほとんどがトラータ教徒になってしまっています。」
そんなにトラータ教って多いのか。日本にいると仏教か神道が圧倒的に多いし、トラータ教の教会はよく見るけど、人が沢山いるところって見たことがないしなぁ。神を信じないと救われないっていう教義が日本には合わなかったって聞いたことがあるけど、ご先祖様たちのおかげで外神の支配を受けずに済んでいたのかもしれない。
『まずは総本山だな。』
「ヴァティカンもアメリカも日本の反対側というくらい遠いので、時間がかかりそうですね。」
『止むを得ん。地道にいくさ。』
シーヴァル様たちの次の目的地が決まったところで、今度はこちらから質問をすることにした。まずは、魔人と戦った時のこと。最後の瞬間、トランペットの効果が突然消え、更には魔人たちの様子が明らかにおかしかった。あの時、シーヴァル様たちが何かをしたのではないか?
『あれは“崩魔”という技だ。あのラッパと同じような効果だな。相手のプラーナに干渉し、プラーナの流れを崩す。』
「あ、あのトランペットと同じ効果!?そ、それって強すぎません!?」
「やっぱりアンタは反則級ね…奥さんに踏まれまくっていたアンタが…」
奥さんに踏まれまくっていた?舞った意味が分からないんだか…。あ、シーヴァル様が凄く嫌そうな顔をしている、いや、表情はポーカーフェイスというか無表情なんだけど、その話をされるのが凄く嫌なんだろうなって雰囲気を感じる。ここはスルーした方が良さそうだ。
「そ、その技、ほうま?でしたか。それって俺達でも使えるようになりますか?」
『相手のプラーナの流れを完全に把握せねばならん。相当な経験が必要だろうな。そこの力の匠たる妖精ならば可能性はある。術式だけは教えておこう。』
「あら、太っ腹ね。でもこの先必要になるかもしれないから、ありがたくもらっておくわ。アンタの痛い逸話の数々は黙っておいてあげる。」
『・・・』
だから、一言多いんだよ、レベッカは。教えてもらう立場なんだから少しは下手に出てよ。神様相手でも物怖じしないのは良いところなんだろうけどさ。
『だが、あまりむやみに使う技でもない。練習はともかく、実戦ではいざという時に取っておけ。簡単に真似されるものではないが、切り札は切らぬから切り札だぞ。』
シーヴァル様はそう言って、レベッカの頭に手を当てて何かを送り込んだ。レベッカは難しい顔をしていたが、ため息をついた後なにかを納得したような顔をして、お礼を言っていた。あれだけで伝授終了?神様ってつくづく反則だな。
『崩魔』ですが、レベッカは使い方を伝授されましたが使いこなせるわけではありません。
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